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ソイロ・アルモンテは再び日本で輝けるのか

2022年11月22日、中日ドラゴンズが来季の新外国人選手としてソイロ・アルモンテ外野手とオルランド・カリステ内野手の獲得を発表した。11月28日にはアリスティデス・アキーノ外野手獲得の電撃発表もあり、来季から中日ドラゴンズに新たな助っ人外国人が3名加入することが決まった。
この今回の獲得報道で改めて感じたことがある。やはりアルモンテは中日ファンから物凄く愛されたプレーヤーであり、自分もいつまでも大好きな選手だった。しかし、まさかまた彼をこの青いユニフォームで見られるなんて全く思っても見なかったので、最初に報道が出た際は驚きと喜びが入り混じるこれまでにない感情になったことを覚えている。日本時代の実績は申し分なく、希少な左右両打席で結果を残せるスイッチヒッターとして、森繁和政権で竜の救世主となっていたのは記憶に新しい。その時の状態でプレーできるのであればチーム最強打者にもなり得るが、果たして現在のアルモンテはどのような状態なのか。2年間NPBを離れていたアルモンテの現在の傾向や今後の彼への期待について考えていく。


1.アルモンテの18-20年中日時代を振り返る

アルモンテの経歴や中日時代の活躍をざっと振り返る。NPB通算3年間で打率.316 OPS.859という優秀な打撃成績を残した技と力を兼ね備えた好打者であり、1年目の5月には月間MVPも受賞。両打ち選手の中でも、特に左右両打席でバランスよく打撃成績を残すことができるのが強みで、左投手からも右投手からも通算で3割超えのアベレージを残した。打順は3番や5番を担うことが多く、4番に座るビシエドと共に「AV砲」としても親しまれ、ランナーを返すことのできる勝負強い打撃にも定評があった。

規定打席に到達したのは1年目のみだったが、3年連続で3割近辺のハイアベレージに.850前後のOPS、守備にも上達が見られ3年目にはライトをこなしてくれたのもチームとしては相当有難かったと言えるだろう。しかし、怪我の多さ故に年間を通して計算できない部分も多く、特に来日前の急激なビルドアップもあった為か膝は3年目終了時にはかなりの負担が来ていた。コンディション面の事情と1億5000万円という高年俸が合わさり、苦渋の決断ながらも中日はそのオフにアルモンテをリリース。その翌年はKBOでプレーしたが、そこでも怪我の影響もあり、思うような成績を残せずチームを退団となった。その後は21年オフにはドミニカWL、22年にはメキシカンリーグに5年ぶりに復帰しプレーした。

アルモンテのキャリアを見た時、これだけでは書き足りないぐらいにグラウンド内外での彼の素晴らしいエピソードは多かった為、詳しくは2年前彼の退団が発表された時に書いたこちらの記事も見ていただきたい。
https://note.com/redmiso/n/n8af84c7ced49

以前中日に在籍した3年間の彼の姿を見ていると、ファンに愛されないわけがない選手だったと言えるだろう。


2.アルモンテの22年MEXでの傾向を考察する

では、現在のアルモンテはどのような状態なのか。日本に居た時と比べて身体の状態やプレーヤーとしてのタイプはどのように変化しているかは最も気になるところである。2年前時点で彼が頼れる選手だったのは間違いないからこそ、33歳になった現在のアルモンテを今季の映像や成績から考えていく。


2-1.アルモンテの現在のコンディション


2022年アルモンテ MEX打撃成績
打率.322(326-105) 27本 95打点 1盗塁
出塁率.400 長打率.644 OPS1.044
四球率11.5% 三振率19.0% BB/K0.61

Baseball referenceより

2022年のアルモンテはメキシカンリーグでこのような成績をマーク。打高リーグとは言えキャリアハイとなるリーグ6位の27本塁打を記録し、リーグ全体で5人しか居ない90試合全試合出場を果たした。以前メキシコでプレーした時と比べて打率はやや下がったが、ボール変更の影響もあり本塁打は激増。絶好調時に止められないのは日本時代そのままで9試合で8本塁打を放った時期もあった。今シーズン90試合中78試合で4番を務めプレーオフまで完走したことは、コンディション面に懸念のある選手であることを踏まえると、かなりのプラス材料と言えるのではないだろうか。

前半と比べてシーズン後半にやや息切れし、中日でのプレーも恐らく早い段階で決まっていたと推測できるため、ドミニカでは約2ヶ月間の休息をとっていた。そして今週から1ヶ月ほどドミニカウインターリーグに出場すると報道されている。DHでの出場が多いが、レフトを守った試合も30試合ほどある為、完全に守れなくなっているわけではないのは朗報か。身体をかなり絞ったのも画像から見て取れるため、膝の状態はほとんど問題なさそうな為、体力面さえ気遣いながら起用できれば多く試合に出場できる可能性もあると言えるだろう。



2-2.MEXで重要視される本拠地

メキシカンリーグでプレーする選手に対して使われる常套句に「MEXは打高だから全く当てにならない」というものがある。実際メキシコは何年も前から他リーグを遥かに凌駕する打高だったのだが、何を思ったのか試合球をそこから更に飛ぶ球に変更してしまったせいで打高バランスは大崩壊してしまった。このOPS1.0を超えるアルモンテですらリーグ上位の数値にはならず、投手は防御率4点台でも崇められるとか冗談抜きでそのレベルである。

しかしどのチームも打高とは言え、表面上の成績だけでは判断できない。メキシカンリーグでプレーする選手の成績を見る際に必ず併せて見ておきたい箇所が存在する。それがメキシコの地形だからこそ発生する本拠地の標高格差である。このリーグの全体的な打高を作っている主原因でもあり、約半分の球団の本拠地標高が1500mを超えている。2000m超の球場も複数存在し、その気圧の低さからボールは日本の野球では見られないような異常な飛び方を見せる。標高の高さと本拠地の防御率はしっかりと相関があり、高本拠地は揃いも揃って超打高。防御率6点超が8チーム、そのうち5チームが7点台以上であり、8点台のチームまで存在する恐怖の環境だ。そして中にはチームOPS.930で二桁借金を作る球団もある為、打撃ランキング上位に名前を連ねているのは大体その環境でプレーしている打者ばかりである。

ではアルモンテの本拠地はどうなのかと言うと、防御率5.43と十分打高ではあるが、異常なリーグ平均と比べるとかなり落ち着いた環境であることは間違いない。標高500m程の本拠地は得失点共にリーグ平均を下回り、アルモンテ自身もチーム二冠でチームOPSと比べて.200以上高い数値をマークしている。本拠地13本/敵地14本とバランスよく本塁打を放っており、ビジターでの14本塁打はリーグ2位なので、このような観点で見るとリーグ最強クラスの打者と言えるだろう。またカリステもこのチームに所属しているので、彼の数値を見る際も標高と併せて評価すれば一定以上の成績と言える。


2-3.左右両打席における打撃傾向の変化


左打席(VS右腕)
打率.287(230-66) 18本 62打点 OPS.953
四球率11.8% 三振率19.5% GO/AO1.19

右打席(VS左腕)
打率.406(96-39) 9本 33打点 OPS1.260
四球率10.7% 三振率17.9% GO/AO1.60

MiLB公式より

正直これを見た時には相当驚いたが、以前の日本時代と比べて明らかに左右によって打撃成績が異なっていることがわかる。打席数の違いもあり打高なリーグ環境である為、左打席でも一定以上の成績ではあるが、両打席で1割以上打率の差があり、OPSにすると.300超もの差が生まれるのは押さえておきたい。リーグ全体の左投手のレベルが低いのかと思いきや投手ランキングを確認した際も大して差はなく、寧ろアルモンテの右打席OPSはリーグ全体の右打者でナンバーワンの数値となっている。では、それぞれの打席の傾向を詳しく見ていく。

左打席のアルモンテは本塁打率こそかなりの数値だがアベレージが3割を切り、三振率も少し高いことがわかる。以前来日する前のMEXでの左打席打率は.350超、NPBでも3年間で通算3割オーバーと、左打席のアルモンテと言えばコンタクトヒッターという印象も強かった為、その頃と比べて全くの別の打者になっていると言っていいだろう。また左打席でのホームランの映像を見ると、高低問わずしっかりとNPBでもスタンドインする打球を放っているのはほぼインコースの球のみであり、NPB時と比べて外角球をハードヒットにしているのは少ないように感じられた。また速球派の右腕が多いにも関わらず、左打席での本塁打の殆どが90マイル未満である為、内角の半速球には強くとも球速が上がった際のアプローチがどうなるかは注目したい。


右打席のアルモンテは見ての通り圧倒的なスタッツ。来日する2年前まで偽スイッチヒッターと称されるぐらい左打席に対して右打席を苦手にしていた選手とは思えない無双ぶりだ。また90マイル以上の球を本塁打にしている場面も多く見られることからこちらの打席での状態はかなり良いことがわかる。懸念材料を挙げるならば、ホームランの半数以上がセンターより右方向と引っ張り切れる本塁打が少ない点があり、左打席とは対照的に内角より外角のボールを逆方向に運ぶホームランが多数を占める。またGO/AO(ゴロ割合/フライ割合)を見てもわかるようにゴロヒッターとしての特性が強いので、NPBレベルの投手と相対した時に特に不調時の併殺リスクは考えておく必要がありそうだ。


両打席共に言えることは三振率が来日前よりやや高まり、2ストライクになるとまるで打てなくなる為、より投手のレベルの上がるNPBでは積極的な仕掛けを求めたい。正直アベレージは様々なデータや映像を見ても特に左打席だとかなり低下しそうな為、NPB時代対ストレートに.325 18本と強かった直球への対応を元の状態に戻せるが活躍のキーを握る。長打は増加気味もゴロ打球が平均より多い為、併殺リスクを鑑みると打順も5番以下で前の打者のサポートをする形がベストかもしれない。


3.アルモンテの理想的な起用法と期待

最後に2023年シーズン、アルモンテのチームにとって理想とする起用法を考えていく。今オフの中日と言えばアルモンテだけでなく、大本命の長距離砲アキーノを獲得したのが大きな話題となった。既にタイトル級のセットアッパーロドリゲス、クローザーR.マルティネスとチーム最高年俸のビシエドで基本的に外国人枠は3つ埋まっていると考えるのが自然な為、アキーノの加入でベンチ入り4人までの外国人枠は彼ら中心の運用と考えて間違い無いだろう。アルモンテは年俸も3000万円と現在の円安を考えると格安の契約であり、基本的には打者両助っ人をカリステと共にバックアップする立ち位置からのスタートになりそうだ。

その中でアルモンテが活路を見出す方法としては一塁オプションを作ることではないかと考えている。もうここ2年間比較的運動量の多いライトは守っておらず、今季も90試合中34試合がレフト、66試合が指名打者としての起用だった。しかしセンター岡林、ライトアキーノをメインとして考えるのであれば、レフトは今季打率2位の大島を筆頭に、長距離砲として期待される鵜飼やフェニックスでチーム屈指の成績を残した福元、郡司など候補はかなり多い。また立浪監督はビシエドも含めて競わせる方針を明言している為、チーム内で一塁を守れる強打者だったA.マルティネスや阿部寿樹が退団した点を踏まえても、彼の不調・故障時に一塁を守れると心強いだろう。彼にとってこれまで経験は無く、勿論すぐ守れと言われて守れるポジションでは無いが、キャンプや二軍戦で万事に備えて試しておくべきと考えている。

更にロドリゲス、マルティネスはWBCキューバ代表で試合に出場する為、開幕は出遅れる可能性があり、開幕を野手助っ人3人で迎える可能性が考えられる。その中でアキーノはMLB通算で3,4月は打率.098(54-5) 28三振と極端苦手にしている為、NPBで3-5月に打ちまくった経験があり、今季MEXでも前半戦のスタッツが良かったアルモンテは春先のキーマンになるかもしれない。他選手の状態や故障も含めた判断となるが、限られた出場数で他の助っ人とは違った彼特有の強みを見せることができればベストだろう。


ここまでお読みいただきありがとうございました。今季の傾向も踏まえて来季のアルモンテへの期待や課題をまとめると

・体格を絞り膝の影響を軽減させ、MEXで全試合出場。この調子で元気に1年を過ごせるか。
・打率低下&三振率やや増、左打席のストレート対応を元の水準に戻せるか。
・ゴロ率の高さと走力故に併殺リスク高。5番以降のクラッチヒッターが適役か。
・バックアップ助っ人として左翼だけでなく一塁にも手を伸ばしたい。

正直言って年俸3000万円で来日してくれるアルモンテとカリステの2選手には感謝しかない。これによって本命アキーノを獲得しやすくなったのは間違いない上、アキーノが穴の多いタイプだからこそバックアップの野手が取れたのは心強い。トータルで外国人枠をフル活用する為にもアルモンテも勿論来季のキーマンの1人だと考えている。多くのファンに愛された大好きな選手だからこそ、1年間健康にプレーし、再び彼が日本で輝けることをどうか願いたい。

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