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「アメリカの左傾化と言論の自由」の巻

■ある支那人の憂鬱
 セールスをしていた時のクライアントに台湾出身の女性がいた。上客という訳でもなかったが、気が合ったので、会社の金でたまに接待をしていた。英語名をアンという。日本統治時代に福建省から移住してきた外省人の家庭に育った。当時30代半ばにして、自分の力でカフェなど3軒を経営していた。まぁ、やり手の女性だ。子供の頃、日本語が堪能だった祖母が日本から取り寄せていた『婦人画報』にあった、美しい家庭料理の写真を今でも覚えているというアン。店が暇になったと言いながらタバコをふかし、「新しい大統領になってから、何もかもダメね」と、なぜか小声で言った。彼女は、オバマ政権によってアメリカは社会主義化しているという意見に、100%頷けると言う。
 アンが雇っていた若い男性店員が、仕事をやめたいと申し出た。理由を聞くと、2人目の子どもが産まれたので、キャリアアップの為に、大学に入りなおすという。貧困家庭向けの「奨学金」をもらう方が、働くより「儲かる」と言うのだ。それを聞いてアンは、こういう人たちを支える為に、自分たちの税金が使われているということに憤懣やるかたない。
 確かに、中産階級に厳しいのがこの国のありかたで、それはある意味で、社会主義的だ。そして社会主義とはまた、全体主義への傾斜を意味している。
 「私ね、いつか私たち支那人はみんな、強制的にターロック(中央カリフォルニアの田舎町)かどこかに移住させられるんじゃないかって思ってるのよ」。そして、「あなたはこう言うと怒ると思うけど」と前置きした上で、ホロコーストの時も、南京事件の時も、何が起こっているか世界中の誰もが知らなかった。だから、簡単にそういうことは起こりえるのだと言う。筆者は、「南京のことは以前話したように、国民党のプロパガンダなんだよ」と言った後で、「確かに、第2次大戦中に、日系人は収容所に送られたんだからね」と応えた。彼女は間髪入れず、「そうなのよ、この国もやったのよ! だから心配なのよ」と付け加えた。

■コンサバ・トーク一本槍の放送局
 アメリカの社会主義化については、一部日本でも報じられている通りだ。全体主義化についてはどうか。アメリカではオバマ大統領が強権的に改革を進めていくことに対して、国内では保守派から批判の声が強まっている。 
 日本では、反日ならばNHKを筆頭に数多く存在するが、保守派の意見だけを放送するテレビ局やラジオ局は地上波では存在しない。アメリカでは、共和党寄りだと万人が認識しているFOXがあり、各地方には保守系ラジオ局がある。
 こちらではラジオ放送局に「ニュース&トーク」というジャンルがある。日本では一般的に、同じ局でニュースから、音楽から、トークショーから何でもある。音楽専門局というのはあるが、一日中ニュースとトークだけというラジオ局はないだろう。アメリカではひとつの会社が複数のラジオ局を経営し、A局では若者向けの音楽専門、B局ではクラシック、C局ではおしゃべりというように、分けて運営することがある。だから、1日中音楽なしの放送局、ニュース&トークというのもありなのだ。
 フレズノにあるKMJはそのひとつだ。毎時0分と30分には必ずニュースがあり、それ以外は全てトークショー。朝9時からの、全米最大の聴取率をほこるラッシュ・リンバーを筆頭に、正午からは地元人気DJのレイ・アップルトン、午後2時からは、FOXニュースTVでもトークショーを持つショーン・ヘネティ、そして、7時からはやはりローカル人気女性DJのインガ・バークス、深夜にはマーク・レヴィン…。みな保守派ばかりだ。保守のオピニオンだけで、この一局の放送が賄えていると言っても過言ではない。
 リンバーに影響力があるのは前回書いた。ヘネティーもそうだ。オバマ大統領から「プロパガンディスト」と名指しされていることでも、ヘネティーが侮れない反リベラルであることがわかる。

■最低限の言論の自由
 2009年に、前出のひとり、マーク・レヴィンが "Liberty and Tyranny"(自由と暴政)という本を出版し、これが全米でベストセラーになった。サブタイトルに "A Conservative Manifesto" とあるように、真の保守主義とは何かということを語ったもので、民主党の左傾の姿勢はもとより、名ばかりの保守主義者(曰く、ジョン・マケイン、コリン・パウエルら)をも鋭く批判する内容だという。我が国の自民党員にも読ませたいものだ。
 左派系メディアの代表格 "The New York Times" でも、この本はベストセラーとして番付の上位にある。ところが通常は、著者へのインタビューや書評などを掲載するはずなのに、同紙は、レヴィンを完全に無視している。"NY Times" だけではない。他社も殆どこれを取り上げていないらしい。日本のメディア顔負けの偏向ぶりだ。これを見たヘネティーは、しばしば自らの番組にレヴィン本人を招き、この「異常事態」を毎日のように批判し、聴取者に "Obama Mania Media" の情報操作に注意を喚起している。
 多くのマスコミがオバマべったりの偏向ぶりを示す一方で、保守の論客たちが思う存分語ることができるメディアが存在するのは頼もしい。レヴィンのトークショーでは、他の番組と同様、聴取者と電話で意見交換をする。その際、彼のファンや保守派の市民ばかりではなく、時にはリベラルの人もかけてくる。議論が水掛け論になった時、レヴィンは独特の甲高い声でこう啖呵を切る。"Don't waste my time moron!"(「オレの時間を無駄にするんじゃねぇ、馬鹿野郎!」)。そして電話を一方的に切ってしまうのだ。
 メジャーなメディアに相手にされなくても、主義主張を貫ける評論家と、1日中彼らのメッセージを流し続ける放送局。アメリカには、最低限の言論の自由がある。少なくとも日本よりは。

『歴史と教育』2009年9月号掲載の「咲都からのサイト」に加筆修正した。

【カバー写真】
 色白になった永六輔が中途半端に髪を伸ばしたのではない。4大ネットワークのひとつであるNBCで "The Tonight Show" という人気番組のホストをしていた Jay Lenoである。NBCだから会社は民主党寄りである(Leno本人がそうなのかは筆者は知らない)。しかし、アメリカの場合、放送局の支持する党派がはっきりしているので、不偏不党を謳いながら偏向報道を垂れ流す日本のメディアよりはまだその部分だけマシだ。
 記録を見ると撮影は2004年4月30日、場所はユニバーサル・スタジオの中。当時LAに住んでいたのだが、1日分の入場料を払うと年間パスがもらえるというので電車で行ってみたら、イキナリこのシーンに出くわした。LAに住んでいたらこんなことがザラにあると思ったら大間違いで。撮影はたくさんやっているが、有名人にはなかなか会えるものではない。11年間アメリカに住んでいて、多分、至近距離で見た唯一のセレブだと思う。(撮影:筆者)

【追記】
 今回も読み返してみて、非常に示唆的であったことに驚いている。アメリカはまさに、オバマと民主党左派の計画通りに社会主義への道をたどった。アンの予言は当たらなかったが、支那人だけでなく、保守派の多くが精神的に強制移住させられたかのようだ。アメリカ合衆国を名乗る全体主義の別の国に。
 アメリカの最低限の言論の自由も風前の灯火だ。これを書いた当時にはまだ力を持たなかったSNSが巨大化し、言論の自由を踏み潰したのはnoteをやっているレベルの情報リテラシーがある読者にはご存じの通りだ。
 歴史がオバマ政権による左傾化とトランプ政権による揺り戻し、そして、不正選挙による左傾化の激化について、いつか正当な評価を下すことを期待したい。いや、もしかしたら、その日は永遠に来ないのかも知れないが。

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