「チップで生きる人々」の巻
言われなくても、前から撮りたいのはやまやまだ。肖像権の問題もあるので、仮に撮ったところで公表はできないのだが(2008年7月26日撮影)、この若い女の子が、半裸でアピールしているものは何かおわかりだろうか。
「Car Wash」、つまり洗車である。
アメリカの洗車場では過当競争が行われており、一部の店では若い女性による過激なサービスが……という訳ではない。彼女たちは、洗車屋の客引きではない。彼女たちの所属するグループ、例えば、教会、スポーツクラブや地域の集まりの資金集めの為に、洗車をしており、そのアピールをしているのだ。
この娘たちが持っている看板には「洗車無料」とある。そう、無料で、しかも手洗いで車をキレイにしてくれるのだ。本当にタダなのか? まぁ、洗車料はタダだ。しかし、タダで車を洗ってもらって、若い姉ちゃんの半裸姿を見て、無料と言うわけにはいくまい。
要するににここで、「心づけ」というやつが発生する。所謂チップだ。彼女たちというか、彼女たちのグループが期待しているのはチップなのである。
通常、ガソリンスタンドで洗車すると、まぁ、一番安いコースの自動機械洗いで5ドル程度はとられる。手洗いならば10ドル前後、そして勿論チップを渡す。そういうことを考えると、5ドル彼女たちにやって、手洗いで洗車してもらうというのは、悪い選択ではないのだ。と、横で睨んでいるカミさんを納得させて洗ってもらう人は多いことだろう。ひとりで運転していたら喜んで洗ってもらうだろう。もちろん、慈善の気持ちで多めにヒップをわたっす人も多くいる。それもまたアメリカだ。
チップは曲者だ。
レストランでは、支払総額の15%くらいを加算する。メニューには当然その価格は書かれていないし、カクテルの値段などは、メニューに表記されていないことが多いので、油断していると結構な金額になってしまう。大したサービスを受けていないのに、一律15%なのかというと、そういう訳ではない。サービスによっては20%払うこともあるし、10%にすることもあるが、払わないという選択肢はない。筆者の英語の先生(すでに登場したアレクのことだが)は、「二度とそのレストランに行く気がないのなら、払わないでもいいさ」と言っていたが、一応サービス料なのだから、なかなかそういうわけにもいかない。6−7年前のことだが、90歳に近い知り合いの老女と食事に行く機会があって、彼女がおごってくれたのだが、彼女がテーブルに置いたチップはお釣りの小銭だけだった。悪気はないのだろうが、1950年代じゃないんだから……。
ニューヨークやLAなどの高級レストランでは、ウェイター・ウェイトレスのチップは、一晩で結構な額になる。考えても見てほしい。ペアの客単価が100ドルのレストランでも、チップは平均で15ドル。一晩で客を10組相手にしたとして、150ドルになるのだ。これは給料ではない。仮令最低賃金しかもらってないとして、日当は65ドルくらい。え、チップより安いじゃないかって、そのとおり。で、合計は215ドル。月に20日働くとして月収4300ドル。結構な数字になる。まともに働くのが嫌になる金額だ。しかもチップは、申告しなかったら非課税になる訳だし、いくら貰ったかなんてわかりゃしない。勿論、高級じゃないレストランではそこまで高収入にはならないが、難しいことを考えなくても良いから、一生ウェイター・ウェイトレスのままでいて、プロモーション(昇格)を拒否する人も多いらしい。だって、その収入で十分家が買えるし、子供を学校にもやれるではないか。
アメリカ人は外食が好き、と言うよりも、共働きが殆どだから、外食が多くなる。給仕の仕事は山のようにある。日本人移民だって、皿洗いから給仕になって、金をためてレストランを開いたという例は腐るほどある。
チップ制度は、18世紀の階級社会の名残りだと思うのだが、メキシコ人や支那人が経営する食堂で、白人がウェイトレスをしていて、日本人がチップを払うという光景は、ある意味で21世紀のアメリカを象徴しているような気がする。
拙ブログ『無闇にアメリカに来てはいけない』より「露出に応じてチップをよろしく」(2009年02月08日 13:02付)に加筆修正した。
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