見出し画像

「我々はサムライの子孫である」の巻

■勝新ファンのアメリカ人
 ロサンゼルスに住んでいた頃、同郷の友人を介して、グレッグと知り合った。ドイツ系アメリカ人、某有名ホテルのエグゼクティブである彼は、大の日本贔屓だ。筆者のカトリック洗礼名がグレゴリオ(省略すればグレッグ)、そして彼も歴史が好きだということで、初対面の寿司屋で意気投合した。
 彼には白人女性との間に大学1年生の娘がいる。父の影響もあってか、彼女も日本、特にアニメが大好きで、また旅行程度なら不自由しない日本語を話す。
 因みにグレッグは、身長六尺、体重四十貫はあろうかという巨漢だが、小柄でほっそりとした日本人女性が好みだとか。とにかく彼は日本が好きで好きでしょうがない。
 そんなグレッグは大の時代劇ファンでもある。特に、北野武の新作ではなく、勝新太郎の『座頭市』シリーズがお気に入りで、ビデオで全シリーズ観たという。彼は単に勝新のファンだということだけではなく、武士そのものの生き様に憧れを感じている。ある年の彼の誕生日に、筆者の蔵書である戦前の画集から、治承・寿永の乱における源頼朝初陣の絵を複製して、額に入れて贈ったところ、非常に喜んでくれた。
 実際、一般的に言っても、武士道は西洋の騎士道と規を一にするところもあるし、武士の生き方、潔さに惹かれる、グレッグのようなアメリカ人は少なくない。MLBで活躍した、イチロー選手のストイックな姿に、サムライの姿を重ね合わせる人も多くいる。
 アメリカでは、もはやサムライのイメージは「ハラキリ」だけではない。だからこそ、現在の偽南京事件、偽慰安婦問題など、日本の近代史に対するマイナスイメージに対して、この「サムライ」の魅力をもっと上手く利用できる手立てがあるのではないかと思う。

■日系人にも流れるサムライの血
 明治維新後、四民平等と国民皆兵の導入によって、日本人はいわば全員が「サムライ」になった。少なくとも、GHQが断絶させるまではそうだった。 
 だから、毎度この連載で話題にする日系人だが、彼らもサムライの末裔になる訳で、その思いを覚醒させることが、彼らにもう一度「祖国」を思い出させることに繋がるし、ひいては、日本人差別の偽史否定への動きを、日系人の中から起こさせることになるかも知れない。実際当地で、偽南京、偽慰安婦問題を主導しているのは在米支那人なのだ。
 日本では余り問題にされないが、大東亜戦争中に日系人は、「敵性国民」の中でも唯一強制収容所に送られ、祖国との決別を余儀なくされた。そんな境遇の中で、「サムライ精神」を発揮して、欧州戦線で大活躍をした日系人による第442部隊などは、今でも語りぐさになっている。 
 弱冠18歳でそれに加わり、名誉の戦傷を受けた故ダニエル・イノウエ上院議員は、いわば日系人を代表する「サムライ」だ。彼はハワイという土壌もあってか、親日家である(妙に聞こえるかもしれないが、ご存知の通り、マイク・ホンダを筆頭に、日系人の中に反日は多い)。しかしそんな彼も、先頃の偽慰安婦決議問題では、下院に書簡を送って(上院議員がそうするのは異例のことだ)、友好国に対する軽率さを咎めはしたが、その前提として、「確かに日本が行ったことは酷いことだったが…」という誤った認識があった。弁護する訳ではないが、そこに悪意があったとは思えない。彼らには情報がなさすぎるのだ。こういった日系人の心ある人々を覚醒させるため、「サムライ」を効果的に使う必要があるのではなかろうか。 

■イメージ回復の手段としての武士道
 映画『硫黄島からの手紙』では、クリント・イーストウッド監督が比較的公平な視点で栗林忠道中将を描写し、日本軍人も(当然)持っていた人間性を描き出して、日本では高い評価を得た。
 しかしこの作品は、『ザ・ラストサムライ』と違って、アメリカでは一部を除いてロードショー公開されておらず、マニアックな人しか観ていない。そして、依然としてサムライは大好きだが、その子孫である日本人は、サムライより野蛮で好色だとしか思われていないのだ。この状態を打破する突破口として、我々には少々あざとく写っても、「日本人は今に生きるサムライ民族であり、その象徴が帝国陸海軍軍人なのだ」ということを、映画や書物で作り上げ、イメージを改善することができないものだろうか。
 それを実践するヒントがある。
 これを書いている時、カリフォルニアの日本語メディアでは、俳優で映画監督の故今井雅之氏が引っ張りだこになっていた。元自衛官の今井氏は、特攻隊員の真の姿を知ってほしいと、映画を制作して、こつこつとアメリカで活動をしていた。
 日本語テレビ放送では、2006年の正月に、深夜枠ではあったが、櫻井よし子氏、石原慎太郎氏までがインタビューに登場し、靖国神社を全面的に肯定する番組が放映されて驚いたことがある(残念ながらYou Tubeを探しても映像は残っていないようである)。アメリカの日本語放送は視聴者が限られているので、放映料が驚くほど安いらしい。自主制作した番組に英語字幕をつけて、先ずは在米日本人と日系人向けにテレビ放映し、そのDVDを日本研究が盛んな大学の図書館に配布するというような手段は、決して夢物語ではない。
 だが、知恵はあっても金がない、津山藩士(実は足軽)の子孫である筆者は、臍をかんでいる。

『歴史と教育』2008年2月号掲載の「咲都からのサイト」に加筆修正した。

【カバー写真】
 「サクラメント仏教会」で行われた、ボーイスカウトの資金集めの朝食会。日系人のみならず、様々な人種が集まり、大賑わいとなった。こういった日系人を土台としたコミュニティー活動を、歴史認識正常化運動に活用できるのではないかと思うのだが…。(撮影:筆者)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?