上を下への大騒ぎ『Shenmue the Animation』第12話「澪標」
『Shenmue the Animation』 第12話の感想を書く。
https://www.nicovideo.jp/watch/so40651030
今回で香港・九龍編の大詰めとなり、横須賀編でいうところのマッドエンジェルスとの戦いにあたる。ゲーム版の謎解きはカットされ、イベントはあらかた映像化しつつアニメ独自の部分も多く、終始気の抜けない状況の中で明確なギャグ描写が端々に差し挟まれているのが印象的だった。
これまでのあらすじ
斗牛に打ち負かされ、絶体絶命の涼。そんな彼の前に秀瑛が現れ、斗牛たちを撃退する。しかし隠し部屋を占拠された朱元達は黄天会に拉致されてしまう。気を失った涼はしばらくして秀瑛が兄と育った孤児院で目を覚ます。満身創痍の状態で再び立ち上がる涼に対し、秀瑛は八極拳の技・外門頂肘を教え、心を乱すことなくただ己の事のみに集中する明鏡止水の境地について説くのだった。
朱元達が黄天会のアジト、黄天楼に捕らえられていることを知った涼は、朱の秘書である張から黄天楼近くに住む知り合いを紹介され、その部屋を訪ねる。涼は部屋の主である老人と暗闇の中で手合わせをし、見えるものに頼らず相手の動きに集中する術を身に付ける。かつて巌と知己だった老人は涼たちの目的を聞くと、黄天楼に入る方法として地下格闘技場で名を上げ、用心棒としてスカウトされる方法を提示する。
地下格闘で勝利を重ねた涼はスカウトマンから案内され、黄天楼の入り口に立つ。そこにレンが現れ、朱元達が幽閉されていそうな場所をスカウトマンを締め上げて聞き出す。一方その頃ワンチャイに居たウォンは、黄天会のメンバーが涼とレンの行動を把握しているということを偶然知ってしまう。話を聞かれたことに気づいた黄天会はウォンを追いかけるが、その途上ウォンはジョイと会い、彼女のバイクに乗って追跡を逃れる。一方、涼とレンはスカウトマンから聞いた部屋に向かうがそこには誰も居ない。訝しがる彼らの背後に斗牛が姿を現す。
ウォンに追加された動機
黄天会に追われ、バイクで逃げるジョイとウォン。ジョイは自分たちにできることはないと、涼の手助けを諦めるようウォンに諭すが、例えひとりでも涼を助けに行くと彼は言い張りジョイと分かれる。ウォンの言葉を受けたジョイは、涼を助けるべきか思い悩んでいた。そんな彼女の前に黄天会の追手が迫る。ジョイはもはや後戻りのできない状況となったことを察し、ウォンと共に涼を助けることを決意する。
一方、涼たちは黄天楼で斗牛の追跡を逃れ、朱元達の居場所を探していた。途上でチェーンソーを携えたユアンに襲われるが、涼とレンは息を合わせユアンを撃退する。
親もなく、困窮した自身の状況では盗みを働くことはやむを得ない、ウォンはこれまでそう思い続けていた。しかし困難に対して諦めようとしない涼の姿を見て、その手助けをすれば自身の状況も変えていけるのではないか、ウォンはそう思ったとジョイに語る。こうした背景やシーンはゲームでは描かれることはない。この一連のやり取りに、アニメ版は物事や人物が動く過程にそれなりの理由付けをしようという傾向があることを改めて感じた。逆に言えば、ゲーム版で人々が動く理由というのは「芭月涼が気になるから」といった、曖昧な動機だ。全てではないが、ゲームでは涼にとっていま目の前に居る人物や事象がただあるのに対し、アニメでは各人物の事情が視聴者に提示されたうえで物事が起こる。実際、人間が行動するのは一つの理由だけではなく、曖昧で混沌としている。ゲーム版のウォンもそうだろう。しかしアニメ版ではウォンが涼を助ける理由として「これまでの生活から変わりたい」という一面が強調されている。これはキャラクターの台詞や描写の追加であると同時に、複雑さの省略でもある。
新たな出会いを生む省略
ジョイたちは黄天楼に直接向かい「ハクタイゴウのチェンの娘が来た」と黄天会の門番に告げ、それを斗牛に伝えるように命じると二人は黄天楼内部の客室に通される。ジョイの弟だと身の上を偽って潜入したウォンは、部屋のダクトを通って、涼たちを探しに向かう。その途中、ウォンは監禁されていた朱元達と出会い、一計を案じて彼と共に監禁部屋から抜け出す。
部屋に残ったジョイは抜け出したウォンについてシラを切るが、黄天会幹部である白虎によって気絶させられ地下牢へ捕らえられてしまう。黄天会のトランシーバーからジョイが黄天楼に来ており、地下牢に運ばれることを知ったレンは、涼と共にジョイの救出に急ぐ。
前回に引き続き、ジョイが「ハクタイゴウ」と呼ばれるかつての黄天会の上部組織の関係者であることが語られる。ウォンはジョイが出まかせを言っていると思い、まるで視聴者に解説するような素振りでハクタイゴウが何なのかを語る。それを聞いたジョイが「長ったらしい説明はいいよ」とわざわざ言うのは彼女自身が重々承知であることに加え、あまりに説明的な台詞へのツッコミなのかもしれない。ゲームでは関係性が薄かったウォンが朱元達を発見して会話している場面は、ゲームのプレイヤーである自分にとって新鮮に映った。ゲームでも両者とも斗牛によって捕えられるが、描写を省略するためにワンセットにされている。こうした意外性のある組み合わせが見られるのはアニメ版の省略がうまくはまっている部分だと思う。
クライマックスの前段階
涼たちは気絶したジョイを地下牢で発見するが、彼らの前に白虎が現れる。白虎は自分を倒せば涼たちにジョイを返すと言い、涼と相まみえる。香港で武徳を会得し、心の目で相手の動きを見極めた涼は白虎を打ち倒し、ジョイを助け出す。目を覚ましたジョイからウォンも黄天楼に来ていること、そしてトランシーバーの通信でウォンが朱元達を連れて逃げていることを知った涼たちは、ウォンたちを探してもと来た道を戻る。
一方、ウォンに連れられた朱元達は巧みな杖術で追手を撃退しながら進んでいた。しかし彼らの前に斗牛が立ちはだかり行く手を阻む。
ウォンを探していた涼たちはユアンに遭遇し、これを撃退する。レンはユアンを締め上げると、朱元達が蚩尤門に屋上で引き渡されることを聞き出す。屋上の扉を開いた涼の目の前には、仇である藍帝の姿があった。
ジョイが黄天楼に来ていることを涼たちが知り、その救出を目的に行動するという点はアニメとゲームで異なる部分だ。前回、地下闘技場で顔見せ程度に登場した白虎が涼の前に立ち塞がる。白虎はかなりの実力者のはずで、実際ゲームでも強かったのだが、あまりにあっけなく涼に倒されてしまう。白虎との戦いではこれまでに会得した武徳、暗闇の中で手合わせをした老人や秀瑛の教えが涼の中で思い出され、さながら香港で涼が学んだ武術の締め括りのようになっている。ゲームではこうした武術の結実は斗牛との戦いの中で描かれるのだが、それをひと足先に表現したアニメ版での斗牛戦がどうなるのかは気になるところだ。
ゲームでは捕らえられているだけの存在だった朱元達が、アニメで武術の実力者として描かれているのが印象的だ。忘れられがちだが、彼は武術の書を著述するほどの人物であり、アニメ版のように武術の心得があってもおかしくはない。こうした原作プレイヤーも見落としがちな部分がアニメになって拾われている。
涼たちに敗れたユアンがレンからゴミをぶち撒けられるシーンはゲーム版の時点でギャグシーンだったが、アニメ版ではよりその色が濃い。12話は全体を通して黄天会を滑稽に見せる演出が見られ、建物の亀裂を踏み外しそうになる斗牛や、ジョイのバイクを自転車で追いかける黄天会など明確にギャグとして描かれたシーンが目立った。
改めて、涼ひとりの力で物事を動かしていた原作と比べ、『Shenmue the Animation』は個々のキャラクターが物事を動かしていくように作られていると再認識した。
次回、第13話のサブタイトルは「莎木(シェンムー)」。ゲーム版の進行から言えば九龍編は残すところわずかなはずで、このタイトルから察するに桂林編に移るのだろうか。
『Shenmue the Animation』公式サイト
『シェンムーⅠ&Ⅱ』公式サイト
『シェンムーⅢ』公式サイト
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