一寸先は闇『Shenmue the Animation』 第9話「徴標」

『Shenmue the Animation』第9話の感想を書く。

https://www.nicovideo.jp/watch/so40549011

今回はついにレンが登場、涼が4つの武徳すべてを会得する。

これまでのあらすじ
秀瑛の部屋に下宿することになった涼。朱元達の情報を得ようとはやる気持ちを持ちつつも、涼は秀瑛から依頼された文武廟の書物の虫干しを行う。
涼は夕方までに虫干しに戻ることを芳梅と約束すると、合間で武徳を知る武術家を探しに街へ出る。以前桃李少を探していた際に出会ったアパートの大家や、鍛錬する武術家に出会うものの、武徳を知っている者は見つからず、そうしている内に芳梅と約束した時間を過ぎてしまう。結局虫干しは芳梅が行い、涼は彼女から𠮟責を受け、漢輝から前ばかりでなく今ある景色を見るように諫められる。
そんな折、涼と共に武術家を探していたジョイとウォンから桂花という武術家の情報を伝えられる。教えられた場所に向かうと以前会ったアパートの大家が地上げ屋から立ち退きを要求されており、涼はすかさず地上げ屋たちを撃退する。何故自分を助けたのかと問う大家に対し、それが正しいことと思ったからだと涼は返す。「正しいことの為に躊躇うことなく行動する」、それこそが武徳の「義」であり、武術家の桂花とはこの大家のことだった。
3つの武徳を会得した涼だったが、秀瑛から復讐の念を持つ者に協力することは出来ないと告げられる。
その後、芳梅から朱元達の名が記された書物が書庫にあることを伝えられた涼は、朱元達の著書「武林書」を発見する。

茶碗陣と武徳

武林書にはかつて藍帝が口にしていた「趙孫明」の名が載っており、記号の記された紙が挟まっていた。
記号の意味を調べているうち、それが茶器を使った武術家同士の暗号「茶碗陣」であることが桂花によって判明する。
早速、街の食堂で茶碗陣を試したところ、場所を示したメモが涼に渡される。指定された場所に向かった涼だったが、背後から不意に襲われ気を失ってしまう。
翌朝、手当を受け秀瑛の部屋で目覚めた涼は、芳梅から昨夜のことを聞く。涼は芳梅に安静にするよう促されるが、なおも懲りずに街で茶碗陣を試す。涼の姿を見ていた男・張瑜は、茶碗陣のやり方が間違っていることを告げる。張瑜は武徳を知っていると言い、涼は彼の経営する理髪店まで付いて行く。張瑜は涼を椅子に座らせると、突如涼の喉元へカミソリを向ける。咄嗟のことに動じた涼に対し、張瑜は教える武徳は無いと告げる。
前回の武林書を手に入れるまでの道のりは原作よりも大幅に短縮されていたが、今回は茶碗陣を試す時間が長く取られ描写されている。涼が間違った茶碗陣を行って襲われるのは原作通りだが、その誤りを指摘するのが張瑜というのが大きな違いだ。武術家としての心得がある張瑜ならば茶碗陣を知っていても納得できるし、ゲーム上の地理関係としても理髪店の近くに茶楼があるため彼が居てもおかしくない。意外性はありつつ、繋がりのなかったものが納得できる形で組み合わさって、ゲームでもありえたかも知れない新たなシェンムー像が描かれている。

ナイフとカミソリ

理髪店を後にした涼は、張瑜から聞いた通り正しい置き方で再び茶碗陣を試す。涼が一度席を立ち、戻ってくると夜8時にこの場で待ち合わせるというメモが置かれていた。指定の時刻、朱元達の側近・張書勤が現れる。涼が張と話そうとしたのも束の間、黄天会が無理やり張を連れ去ろうとするが、誰にも気づかれないうちに黄天会は秀瑛の手で撃退される。助け出した張に改めて朱元達の居場所を尋ねると、朱が黄天会に狙われ、身の危険からその姿を隠したこと、そして彼に会うためには香港のストリートギャング「ヘヴンズ」の頭目・レンの協力を仰ぐよう告げられる。
張が助け出されるまでの流れは、ゲームのQTEパートにあたる部分が短縮されているが概ね同じだ。ここで初めてレンの名が涼に告げられ、ヘヴンズの根城に向かうことになる。相変わらず向こう見ずな涼は、茶碗陣の時と同様またも背後から襲われ気絶する。殺伐とした場面だが「またか…よ…。」と言って意識を失う姿はほとんどギャグだ。
翌朝、ウォンに助けられ、彼の家のベッドで涼は目覚める。危険を承知で再びレンに会おうとする涼に対し、ウォンはヘヴンズメンバーの通行証であるライターを涼に託して、レンに金を持ってきたと伝えること、そして彼の前では弱みを見せないように助言する。
ウォンの助けもあり、ヘヴンズは涼をレンのもとへ案内する。かねがね涼の噂を聞いていたレンは、度胸試しにナイフを涼に突き立てる。弱みを見せないように助言を受けた涼は努めて動じず、レンの信用をひとまず得る。
ウォンがライターを託すのはゲームと同じではあるが、涼のあまりの痛々しさに見かね、覚悟を決めて渡していたのがゲーム版で、やられてもまた行くと言う無謀さに呆れ気味に渡しているのがアニメ版だ。前半で茶碗陣を誤って襲われたり、張瑜が涼にカミソリを向けたくだりは、後半のヘヴンズに襲われ、レンにナイフを突きつけられた部分と重ねられている。ゲームではこれらのイベントは全ての武徳を獲得した後に起こっていたが、アニメでは順序が逆になり、今回登場する武徳の持つ意味に繋がる。

度胸と無謀

「朱元達に会わせる」と話すレンは、黄天会とマフィアの闇取引の現場に涼を連れ出す。レンは部屋の明かりを消した隙に黄天会の金を持ち去り、涼はその囮として利用される。黄天会を振り切った涼はレンを追って街を駆けるうちに工事中のビルに辿り着くが、足場が崩れ二人とも落下する。二人は運良く助かり、レンは改めて涼が朱元達を追う理由について聞く。どんな危険にも首を突っ込む涼に対し、レンは金を得る為に本当の危険を見極めるしかないこと、そして朱元達の件に自分も関わらせるよう涼に持ち掛ける。
翌日、涼は張瑜からカミソリの刃を向けられても動じなかった。本当の危険を見極めた涼は、カミソリの動きは鋭くとも殺気がないことを悟り、武徳「胆」(常に動じることなく肝を据えて冷静に正しく判断すること)を会得する。
すべての武徳を知った涼は秀瑛のもとを訪れ、彼女の兄・紫明について芳梅から聞いたこと、そして秀瑛がしきりに道を誤れば邪道に落ちると涼に忠告するのは紫明と関係があるのではないかと尋ねる。父の死の真相を知ろうとする涼と、彼がもし誤って殺されたなら復讐せずにいられるのかと問う秀瑛は、互いに問答するも相容れることなく袂を分かつ。

武徳「胆」は、涼にとって最も足りなかったものだろう。無謀に危険へ首を突っ込み、今回だけで2回も気絶させられた姿を見ればそれがわかる。異様にタフな涼でなければ死んでいてもおかしくない。
涼は「胆」に含まれる度胸は備えているが、目的のために直線的に行動し、その後先にある危険まで考えてはいない。これはゲーム由来のフラグ立てを優先させる行動原理ともいえ、それがそのまま芭月涼というキャラクターの持つ信念や性格となっている。彼の性格の根本であるため簡単に変わることはないだろうが、武徳を知った涼は自身の性分とどう向き合っていくのだろうか。
張瑜が武徳を涼に授けた際、度胸の使い方を誤れば落ちるところまで落ちる、と秀瑛を彷彿とさせることを言う。アニメでは涼が武徳をすべて集めたことと同時に、なぜ秀瑛が協力を拒むのかを理解する。
涼が秀瑛の下を去るシーンは、ゲーム版と結果は同じでも、その様相は大きく異なる。物語の前後関係が変わっていることあるが、ゲームでは涼が写真で見て理解するのみだった紫明のことを、アニメでは秀瑛に直接問うている。問答をする場所も文武廟の外から中へと変わり、ゲームと比べて二人は落ち着いた状態だ。逆にアニメを観た後で改めてゲーム版の同じシーンを見返すと、さほど感情を出さない二人が感情を露わにしていることに気づく。アニメ版は二人とも大人びた雰囲気で、感情を抑え、言葉を尽くしたうえで相容れないことを理解し別れている。対してゲーム版はお互いの主張をぶつけ合い、相手を心配するがゆえについ強く出てしまう、情緒的な別れになっている。
「迷惑を掛けたくない」「勝手にしなさい」という涼と秀瑛のやりとりは、ゲームとアニメで言い回しが異なるだけでなく、その距離感もまるで違っている。これは彼らが師弟として過ごした時間の長さに差が大きいことで生じたものだろう。

今回は茶碗陣と武徳が意味の上でスムーズに繋がっていた回で、納得がいくものだった。張瑜の腕に残る傷痕はおそらくアニメオリジナルの設定で、彼の過去や何故いま理髪師をしているのかが伺い知れる良いディティールの追加だと思う。細かい所では、ボナンザブラザーズのフィギュアがウォンの家に置かれているというファンサービスがあり、ゲームとしてのシェンムーがセガを強く意識したゲームだったことを思い起こさせた。
アニメでは涼が何かに気づく勘の良さを発揮するシーンが多く、定番になってきている。涼は背後から襲われてケガを負ったが、その間の虫干しは芳梅が行っている。いくら何でも過重労働ではないか。
武徳はこれですべて集まったので、この後の展開はゲームで言う九龍城編に突入するのだろう。今後とも期待して観ていきたい。


『Shenmue the Animation』公式サイト

『シェンムーⅠ&Ⅱ』公式サイト

『シェンムーⅢ』公式サイト


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