策謀と因縁の糸を解け『Shenmue the Animation』第11話「綢繆」

『Shenmue the Animation』第11話の感想を書く。

https://www.nicovideo.jp/watch/so40601015

10話は展開がとても早く目まぐるしかったが、今回は一転してひとつひとつの描写が丁寧で、この回の為に前回が詰め込まれていたのではないか、と感じた。

前回までのあらすじ
朱元達を追い、涼たちは九龍を訪れる。入手した情報をもとに九龍城を探すが、与えられた情報は罠だった。涼とレンは香港マフィア・黄天会に捕らえられるも命からがら脱出し、改めて九龍城で情報を収集する。
そんな中、以前ワンチャイで助けた朱元達の秘書・張が黄天会に監禁されていることを知る。涼たちは黄天会幹部・ユアンを尾行し、部屋で捕らえられていた張を助け出す。九龍城の一画、不幽楼に朱元達が身を隠していることを張から聞き、涼たちはすぐに不幽楼へ向かう。
隠し部屋の仕掛けを解くと、果たしてそこには朱元達が居た。しかし出会ったのも束の間、後を尾けていた黄天会に部屋を占領されてしまう。黄天会の首魁・斗牛に打ちのめされ絶体絶命の涼の前に秀瑛が姿を現す。

師弟

斗牛の前に立ちはだかった秀瑛は、黄天会の面々をを撃退し涼の窮地を救う。しかし、朱元達はユアンたちの手によって黄天会の本拠地・黄天楼へ連れ去られてしまう。満身創痍の涼は気を失い、その後、秀瑛とその兄・紫明が育ったという修道院で目を覚ます。そこで秀瑛は兄が両親の仇を追い邪道に落ちたこと、そして涼は邪道に落ちてはいけないと語る。それでもなお先へ進もうとする涼に秀瑛は手合わせを申し出る。秀瑛は八極拳の技・外門頂肘を涼に教え、明鏡止水の境地(静かなる水面のように心を澄み渡らせること、心を乱すことなくただ己の事のみに集中すること)について説くと、これらがこの先で涼の身の助けとなるだろうと告げるのだった。
ゲームとの違いとして、涼が修道院で目を覚ました時にこれまでに秀瑛が陰ながら助けてくれていたことを悟るという描写がある。アニメでは時間的な制約もあり、ゲームほど秀瑛と涼の師弟関係が強く描かれてこなかったが、涼が秀瑛に恩義を感じるこの一コマが入るだけで、彼らの結びつきは一層深まって感じられた。また、その直後に手合わせを行うのも大きな違いで、涼は今回の話の中で秀瑛からの教えを実践している。原作で外門頂肘を指南するタイミングは九龍に行く前の文武廟で、秀瑛は涼に手加減なしに技を放っていた。涼が満身創痍のアニメ版でも同様に技を当てるのかと冷やりとしたが、幸い寸止めで終わらせている。技を見た直後の「い、今の技は….?」という涼の台詞はどちらも変わらないが、実際に当てられていない為にニュアンスが変わっている。

十年前

レンのアジトに戻った涼は、改めて自分の目的、そして朱元達救出のために黄天会と事を構えることをジョイたちに話す。
張から黄天楼近くに住むという知り合いを紹介され、涼たちはその部屋を訪ねる。涼はその部屋の主である老人と暗闇の中で手合わせをすることになり、そこで見えるものに頼らず感覚を研ぎ澄ませる術を体得する。かつて中国を訪れた巌と親交を深めたという老人は、巌の死と涼の目的を聞き、黄天楼に入り込む方法を尋ねられ、涼たちに地下闘技場で名を上げ黄天会の用心棒にスカウトされる方法を提示する。
ゲームでは匂わせる程度だったジョイの過去や身分について、以前からアニメでは踏み込んで語られてきたが、今回は彼女の母親が黄天会の謀略によって亡くなったことが墓参りをするジョイの姿から明かされる。かつて黄天会の上にあった組織、その幹部かボスの娘がジョイなのだろう。これまでもジョイは涼が黄天会に関わろうとすると芳しくない反応を見せていたが、その理由が明示された格好だ。
涼が暗闇の中で手合わせする老人は、ゲームではまず街にいる盲目の胡弓弾きとして出会い、その後正体が明かされるという形だった。実際には彼は盲目ではなく、おそらく自身の武術家としての感覚を磨くために目に頼らず生活している。
ゲームではこの手合わせを通して「聴勁」を会得するのだが、アニメでは前段の明鏡止水と関連付けられたように見える。
老人が巌について話す場面では、中国に訪れた時期が原作と異なっている。ゲームでは20年前だったが、アニメでは10年前だったというのだ。黄天会が謀略によって下克上したのも10年前にあたるようで、ここは意図的に設定を変えているのかも知れない。

黄天楼

涼は闘技場で勝ち上がり、スカウトマンから一目置かれるようになる。一方レンとジョイは、ここから先は自分ひとりで行動すると涼に告げられ、それぞれ離れて行動していた。黄天会やその背後の組織と事を構える以上ただでは済まない、そうした状況に屈するジョイたちにウォンは苛立っていた。そんな折、涼やレンの行動を把握しているという黄天会の会話をウォンは偶然聞いてしまう。話を聞かれたことに気づいた黄天会の男にウォンは追いかけられるが、途中ジョイに遭遇し彼女のバイクに乗って追手を振り切ると、涼たちの身に危険が迫っていることを告げる。
その頃涼は、スカウトマンの手配で黄天楼の入り口にいた。そこに突然レンが現れてスカウトマンを絞り上ると、朱元達が監禁されているであろう部屋の場所を聞き出す。涼たちは情報通り部屋に着くが朱元達はおらず、彼らの前に再び斗牛が姿を現す。
老人の元を後にした涼が「お前はここまででいい」レンに告げるシーンはアニメオリジナルのもので、ゲーム版の涼との差が如実に表れる。レンが黄天会に面が割れているから、というのは表向きの理由で、実際にはレンやジョイ、ウォンへの涼なりの気遣いだ。黄天会に盾突く以上は危険が伴い、特にジョイについては黄天会に対して見せる態度から彼女が関わり合いを持ちたくないことを察したのだろう。ゲーム版の涼は武術以外には相当鈍感なので、相手の気持ちを察したり、こうした気遣いをみせることはまずなかった。
黄天会と事を構えると知ったレンが見せる対応にも違いがあり、ゲームでは割に合わないと言って一度自分から離脱していたのに対して、アニメでは涼から同行を拒否されるまでは、行動を共にして黄天会とやり合うつもりでいたことが伺える。第10話の感想にも書いたが、アニメ版のレンには慎重さや狡猾さがあまり感じられず、純粋に涼の相棒として描かれている。ゲーム版はその慎重さゆえ臆病にすら見えることがあるが、それゆえに土壇場で涼を裏切るかも知れない、油断のならない人物という特徴があった。アニメ版でも危険を見極める慎重さを是としてはいるが、彼が臆病に見える発言や描写は大幅に減り、総じてゲーム版よりもずるさが見えず、腹を読みやすい人物になっている。

追いかけられるウォンを助け、結果的に黄天会の邪魔をする形になったジョイ。香港で生きていく為に過去に折り合いをつけ、大きな力に楯突いてこなかった彼女はこれからどう行動するのか。
「やられても黙って受け入れるしかないのがここの掟なら、俺はその掟を破ってでも目的を果たす。」第6話で涼がジョイに発した言葉は、ここにきてその切実さを増している。



『Shenmue the Animation』公式サイト

『シェンムーⅠ&Ⅱ』公式サイト

『シェンムーⅢ』公式サイト


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