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浪漫

コロナ渦による、中断を挟んだ不測のシーズンが終わり、変則的な移籍期間を経て遂に俺たちの欧州サッカー、最高の週末が帰ってきた。
しかしながら我が応援するマンチェスターユナイテッドは鬼のように弱い。後ろの安定感は無く、前の選手のアイデアも欠如。そしてなによりそれを修正できるほどの監督の手腕が無い。フロントがアレすぎる、そしてコロナ渦での財政の逼迫から補強が上手くいかないことによる、スカッドの限界という部分もあるが、振られ続けて最後は大外で高い位置を取るSBやWBにやられるというお決まりのパターンでやられ続けている。まるで反省と修正が無い。
というわけで、まあストレスに塗れた欧州サッカーライフを送ってるわけだが色んなニュースを読んだり番組を見て思うことがあったので書き残して置こうと思う。

ベイルのスパーズ復帰

移籍市場最終盤、ガレス・ベイルがスパーズに復帰することに決まった。1シーズンのローンでの移籍だ。スパーズサポーターたちが歓喜する中、
「どこで使うの?」
「フィットするの?」
「スペだしコスパ悪くね?」

みたいな声もあった。
いや違う。そんな話はしていないんだよ。多分ユナイテッドサポーターの中で、もはや風鈴や向日葵と一緒に夏の風物詩であり季語となっているCR7復帰話に踊るのと同じだと思うんだ。
移籍金が高い?年齢が高いから勿体ない?ケガが多くなってるからリスキーな投資?全部ナンセンス。本質を外している。
俺たちは赤いユニフォームを着てピッチを舞うようにして走り、跳び、ボールを跨ぎ、エレガントに、時に強引に、狡猾にボールをゴールに叩き込んで、俺たちの心を掴んで離さなくしたロナウドにもう一度赤い悪魔の7番を背負ってプレーして欲しいんだ。シーズン20Gを超える大活躍なんてしなくったっていい。無駄金になったって、1シーズンしか稼働できなくても、また夢の劇場を駆け回るあんたが見たいんだ。スパーズサポーターも同じような気持ちだと思う。
ベイル復帰には正直怪我癖やパフォーマンスの低下など、実質的なプラスは読めないし、かなりリスキーな投資だろう。でも何にも代えがたいロマンがある。夢がある。損失を埋め合わすためだけの、実利主義アルトゥールピャニッチのトレードや、ティーンエイジャーをそれなりに高い金で、契約期間を長くして、帳簿上のマイナスを最小限に留めようとするような移籍がトレンドにならざるを得ないサッカー界で久々にロマンのある補強だった気がする。


El Clasico


クラシコ。バルセロナvsレアル・マドリード。それはこの世界で一番熱く、スペクタクルなダービーマッチとして知られている。
歴史的な面で、フランコ将軍に庇護されてきたレアル・マドリード彼の圧政に苦しみ続けたカタルーニャ人たちの象徴であるバルセロナとの対決はまさしく民族の威信を懸けた"代理戦争"であった。
こういった歴史的背景だけでなくこの2チームは常に欧州サッカーシーンの先頭を走り続けてきた。世界最高の22人が同じピッチにいると言っても過言ではない対決だ。少なくとも数年前までは。今回のスタメンを見ていこう。


どうだろうか。スーパースターの競演というより、次代を担う若手が多いような気がする。もちろんお互いシャビ、イニエスタという稀代のビボーテが去り、スアレスが去り、CR7が去りと、チームの過渡期ともいえるじきだろうがやはり私は同じようなロマンの無さというかなんだか寂しい気持ちになった。


上図は13-14シーズン第29節、生観戦した中で私が1番興奮した両雄の対決である。
やはりギャラクティコはこうでなければならない。胃もたれするような3トップに攻撃的IH、SBもガンガン上がって、とりあえず守備はアンカーとCB任せで、殴って殴って、それでもダメならもっと殴る、まだダメならもっともっとぶん殴り続ける、みたいな戦い方をして欲しい。スタメンには誰もが1度は聞いたことのある11人を揃えて欲しい。これもやはり"ロマン"である。戦術的噛み合せを度外視した両チームのぶん殴り合いが醍醐味であるはず。今回のクラシコは見応えはあったものの、二郎系を求めているのに、澄んだスープの醤油ラーメンを食べさせられているような感覚になった。


戦術の進化とファンタジスタの淘汰

皆さんはJsportsでやっているFoot!という番組をご存知だろうか?
月から金の間に毎夜サッカーニュースを放送してくれるテレビ番組だ。その中で引用されたThe AtlanticのJack Pitto-Brook記者が書いたガレス・ベイルについて興味深い記事があったから一部抜粋する。

ベイルの12-13シーズンのはまるで漫画の世界のようで、個人が1シーズンで見せたものとしてはイングランド近代でフットボール史の中で最高のものだった。
(中略)シティ、リバプールが100ポイントほどを獲得する今、両チームとも完璧に組織された機会のようなスタイルでプレーしている。ただその機械のようなスタイルには犠牲もあった。マネ、デブライネ、フィルミーノといった選手たちも機械の歯車の1部に過ぎないのだ。
彼らはどのようにプレスをかけ、完全に組織化された守備陣をどのように攻撃して崩すかと言った監督の戦略を完璧に理解している。
それは1人の選手が全てを請け負い、1人で試合を勝たせてしまうような個人のクオリティや閃きに頼る部分が少なくなっていることを意味する。
スパーズでのベイルの映像を見ると違う時代のプレミアリーグを思い出させてくれる。1人の魔法により試合に勝つことができるという違いがあった。
私たちがフットボールを好きになったきっかけはそういったプレーだろう。
(The Atlantic/Jack Pitto-Brook)

本当にそうだよなーと思う。戦術の高度化によって、レダーチャートの綺麗な、万能型の選手が揃っているチームがトレンドを席巻している。全てのポジションで正確な位置取りと気の利いたムービングはもちろんのこと、FWであろうと守備の1列目として激しいプレッシングが求められるし、DFであろうと攻撃の一手目として正確なビルドアップが求められる。"11人総中盤化"となるのはそう遠い未来では無いだろう。
そうなると、必然的に攻撃だけや、ドリブル、ラストパス、シュートと言ったある分野にだけ特に長けているスーパースター、ファンタジスタは生まれにくい。
とにかくドリブルで前の敵全員抜いてやるというような曲芸師のようなサイドプレイヤーや、1.5列目の位置からほとんど動かないが、ボールが来れば魅惑のボールコントロールと類稀なるセンスで、糸を引くようなラストパスを出しピッチにいる全員を棒立ちにさせるトップ下といった、いわゆる"ファンタジスタ"はどんどん淘汰されていっている。天才と騒がれていたドリブラー、エムレ・モルがなかなか伸び悩んでるのも、トップ下としてワールドカップも制したメスト・エジルが冷遇され続けているのも頷ける。

では、誰を見て子どもたちやビギナーファンはサッカーにハマるのだろうか??
少し前まではロナウジーニョやメッシを見てるだけで楽しかった。ピッチでボールと踊るように、いかにも愉快そうにプレーする。そして1人で試合を決める。たとえサッカーを理解していなくても1人で試合を決める彼らを見て「すげえ!俺もこうなりたい!」と思えたであろう。
しかし、今はどうだろうか。確かにプレースピードは上がり、展開の速さは見応えがあるが、ある程度見て知識がないと戦術の水際でのせめぎあいという面白さは伝わらない。個人だけを見ても結局そいつは歯車の1部にしか過ぎない。ドリブラーがドリブルを始めるのはファイナルサードだし、1人抜けばミッションコンプリートだ。そうなるとサッカーはどんどんニッチな世界になってくる。難しいカタカナ語が飛び交い、わかるやつは楽しいが、ビギナーにとっては敷居が高いし、ある選手に圧倒的に魅せられるといったことは少なくなるだろう
それを端的に表している例としては、ちょっと前にはサッカー少年団には各学年に必ず1人はメッシ、CR7を着ている子どもがいた。ではヨーロッパ最強チームとなったリバプールで最も点を取っているサラーはどうだろうか?ルックスやカリスマ性を差し引いても、なかなかサラーのユニフォームを着ている子どもたちがいないように思えるのも、サッカーに"魅せられる"子どもやビギナーの少なさを表してるように思える
このようなことがやべっちFCの放送終了やDAZNの日本でのCL放送取りやめなど、放映権料の高騰といった主たる理由があるとしても、日本のサッカーコンテンツの衰退に関連がないと言いきれるだろうか。


"ロマン"と"実利主義"との狭間で


財務状況の健全化のためFFPの規定
や、チームを強化するためにピンズド補強、未来を見据えて無名の若手を青田買いする事は必要ではあるし、均質的なボランチのような選手の増加、戦術の高度化、によって圧倒的にスポーツとしてサッカーは進化した。
でもやはりレアル・マドリードやバルセロナ(ユナイテッドもかな?)には脂が乗ってて個性的な有名選手を一本釣りして欲しい。若手をちびちび補強して、大きく外さないであろう同リーグの中堅~下位から主力を引き抜くなんて"ロマン"が無い。その場のビジネスは大事だけど、魂を揺さぶるような、血が沸騰するような圧倒的な哲学を持ったクラブであって欲しいし、あり続けて欲しい。そう願う。
ただ何も悪い事ばかりではない。このような違和感を感じる私にとってエヴァートンの躍進に、なんとなく頬が緩む。

時代に淘汰され、レアルやバイエルンでファーストチョイスになれず、半ばたらい回しのような状態でマージーサイドにやってきた"ファンタジスタ"ハメス・ロドリゲスを中心に、弾き返すことには滅法強い両CB、職人肌SBコールマン、中盤にはアラン、ドゥクレなど潰し屋、走り屋を並べ、仕上げはゼロトップ風潮なんてなんのその、常にゴール前で目を光らせ、圧倒的なフィジカルでとどめを刺すDCL。
歴戦の名将カルロ・アンチェロッティが舵を取るトフィーズは各ポジションにスペシャリストを配置し、クラシカルな戦い方で現在首位に立つ
。そんな彼らになんとなくノスタルジーを感じてしまうのは私だけだろうか。
フットボールのトレンドは盛者必衰である。プレミアリーグのライバルであるエバートンの躍進は手放しで喜べないが、なんとなく自分の足取りを少し軽くしてくれる存在かもしれない。

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