続 排球狂騒物語 その2

さて、冬を乗り越えMさん、Fさん、Tさんが3年生になります。2年生は2人です。新入生は6人が入学式前から入部の意思を示してくれていたので、3月から練習に参加してもらいました。

4月はじめに中国大会予選があります。ここに向けてチームを固める準備を始めました。組み合わせが決まったあと、2回戦であたる強豪校の試合のビデオもたまたま卒業生から入手できたので、珍しく対策もしました。3回戦でおそらくあたるシード校はよく練習試合をするチームで相性はよかったので2回戦が問題でした。

新入生は皆身長160cm前後で、うちのチームにしては割と身長が高く、実績はそれほどありませんが、資質は十分でした。2年生のセッターに継続してセンターセッターをしてもらい、その対角にミドルブロッカーを入れるパターン。対角にもセッターを入れて前衛ツーセッターのパターンの2つを用意し、1年生も6人中4人がはやくもスタメンになりました。2年生のアタッカーは中学時代はリベロでしたし、攻撃力がまだまだでしたが、サーブはチーム1でしたのでピンチサーバーに回ります。


春休みは基礎練習をしながら、練習試合もできるだけ組みます。4月に入って大会一週間前に近くの高校で、たくさんのチームが集まって練習試合がありました。この日のゲームは、今もはっきり印象に残っています。朝、何が理由かは忘れましたが3年生を叱りました。たしか1年生の行動が遅かったか何かがきっかけだったと思います。この日はわざと3年生を外して試合を始めました。試合を見ながら3年生に精神的にもう一つ成長してほしいと思いましたし、1年生の試合経験を積みたいという思惑もありました。

1年生は、実際に1ヶ月ほど基礎練習をしていましたし、チームの戦術にも慣れて、1年生らしく大きな声で、がむしゃらにプレーしました。2年生もリーダーシップをとってくれ、チームを上手にまとめていました。3年生がいなくてもチームは勝利を重ねていました。ただ、2周もするとちょっとずつ疲れも出たのか、ボロが出てきてO高校とのゲームで序盤に大きく離され15-5(あやふやですが、確か10点は離されていた)で負けていました。

ここから3人の3年生を1人ずつコートに戻していきます。3年生に要求したのはdetermination(決意)。スラムダンクで言う「断固たる意志」。このセットで逆転し、絶対に勝つと宣言させました。自分の一番大切な役割を確認し、勝つと宣言した選手から順にコートに戻していきました。1年生のがむしゃらさ、得点した時の素直な笑顔を思い出してほしかったし、3年生の力を後輩に、相手に示してほしいと思っていました。大会を前に、1年生、2年生、3年生の気持ちを近づけ、チームで強い決意を共有することを狙っていました。

結果はデュースまでもつれましたが、見事に勝利。3年生が1人ずつコートに戻るたびにチームが変化していきました。10点差をひっくり返すためには1点も無駄にできません。Fさんは絶対にボールを落とすまいと集中してコートを走り続け、ギリギリのボールも床に飛び込んでボールをつなぎ続けましたし、Mさん、Tさんの両エースは、勝つために全力でスパイクを叩き込みました。3年生の鬼気迫るプレーに後輩たちも自然と引っ張られ、もう一度声を出し、必死でボールをつなぎ、自分の役割を果たそうとしました。

終盤にMさんが見せたスパイクは未だに忘れられません。ブロックの隙間ぬいて、コートのど真ん中にボールを叩きつけました。叩きつけられたボールは2階席に上がりそうな勢いで高く弾け飛びました。技術的にはあまり褒められたものではありませんが、絶対に勝つという決意を表す、まさにとんでもないスパイクでした。


次の日も1日練習試合でしたが、相手は中学生。3年生の保護者からなぜ大会前に中学生と練習試合を組むのかと叱られましたが、僕自身は全く意に介しませんでした。前日僕が3年生を叱ったことが引っかかっていただけでしょう。低いネットで、しかも一回り小さいボールでサーブカットの練習をしっかりしながら、全勝で乗り切りました。1チーム、その辺りの高校生よりはるかに強いチームがありましたが、集中力を切らすことはありませんでした。僕自身は良い状態で大会に臨めると好感触をつかんでいました。


さて、いよいよ大会です。1回戦は危なげなく勝ち進んで予定通り2回戦で強豪校と当たります。ここを勝ち抜いて、さらにシード校に勝てば決勝リーグ進出が決まります。ベスト4に入って中国大会に行く力は十分あると僕は思っていました。足りないのは経験だけです。当日朝はテーピングをしながら3年生と喋ります。人数が少ないので、全員足首にテーピングを巻くのを当たり前にしていました。

僕はバレー馬鹿です。どれだけ練習しても構いませんし、むしろ限界まで練習するよう促します。バレー部にはもう1人顧問の先生もいました。その先生はバレーの経験は浅く、モチベーションは僕より低いです。ですが、練習するとなれば付き合ってくれますし、練習試合となればプライベートを削って車を出してくれます。この先生のためにがんばろうと3年生と誓いました。1人ずつテーピングをする時間は、試合になるべく良い精神状態で臨めるよう気持ちを整理したり、自分の役割を確認したり、僕が大事にしている時間です。

鍵は1年生が恐怖心なく試合に臨めることだと思いました。試合を楽しめる仕掛けが必要でした。バレー部には伝統として受け継がれている歌があります。伝統もきちんと意味を受け継げば、きちんと意味のあるものになります。前の試合が終わってコートに入るとまず歌を歌います。会場中に響き渡るように、会場の雰囲気が一気に変わるように全力で、笑顔で歌を歌います。自分たちに視線を集めます。会場に何かが起こる予感を広げます。この日は、2試合目でしたし試合直前の公式練習のとき、サッカー部の歌も歌いました。対策は十分していましたし、冷静になる必要を感じていませんでした。テンションをあげることを優先しました。もちろん僕自身は相手選手を確認し、情報を集めましたが。

試合内容はあまり覚えていません。とにかく無我夢中のままフルセットで勝ちました。3セット目はデュースまでもつれましたが、最後の1点ははっきり覚えています。相手のライトアタッカーの前に落とすフェイントに、バックレフトの1年生が素早く反応してパス、Mさんのスパイクでとどめでした。あえて殊勲賞を選べば、最後にフェイントを拾った1年生と、不器用ながら丁寧に3年生にトスを上げ続けた1年生のセッターです。ですが、全力のプレーでチームを引っ張り続けた3年生、タイミングばっちりのトスでコンビの中心になった2年生のセッターも素晴らしい仕事をしました。そして、熱い思いをチーム全体で共有できた素晴らしいゲームでした。


3試合目はよく練習試合をする戦い慣れたY高校です。選手同士もお互いによく知っていて、お互いに良い雰囲気で対戦することができました。練習試合の勝率はよかったのですが、やはり2回戦の疲れでしょう。フルセットで勝利し準々決勝進出が決まりました。


まだ目標の途中ではありますが、僕自身監督になってはじめて表彰状をもらう権利を得ました。2回戦の最後の1点は今思い出しても震えを感じます。本当に選手に感謝です。


長くなりましたが、今回はもう少し続きます。

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