タバコの不始末と失火責任

 私は非喫煙者であり、喫煙者の気持ちは分かりませんが、この間、古くからの友人が寝タバコをして、危うくボヤ騒ぎになるところだった、と話をしていました。
 そこで、タバコの不始末で火事が発生し、周りに被害を与えたような場合にどういった問題があるかを調べてみました。喫煙者の方は気を付けてください。

失火責任法

 家事を起こしてしまった場合には、失火責任法という法律が問題になります。失火責任法は、失火者に「重過失」がある場合に限り、民法709条の適用を認めているものです。ここでいう、重過失とは、「通常人に要求される程度の注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然とこれを見過ごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指すものと解するのが相当である」(最高裁昭和32年7月9日判決)とされています。

タバコの不始末に関する裁判例

⑴ 東京地裁平成27年3月25日

 【火災原因】
 a荘に消防士が到着した時点で,被告自宅から火炎が噴出している状態で2階へ火炎が拡大する状態であったこと,被告自宅のうち6畳和室が最も焼損状況が悪いこと,被告自宅の6畳和室において割れたガラス製灰皿が見つかっており,その周辺に多数の吸い殻が散乱していること,被告の本件火災事故直前の喫煙状況に照らすと,本件火災事故の原因は,被告が就寝前に吸っていたタバコの火種が周囲の可燃物に着火したものと認めるのが相当である。

 【重過失に関する認定】重過失を肯定
 タバコを喫煙するにあたっては火を使用するのであるから,火を点けたタバコの取扱には十分に留意すべきであるところ,上記認定事実のとおり,被告が普段喫煙の際に使用していたガラス製灰皿が置かれていたテーブルの上にはスナック菓子の袋等が置かれており,また,テーブルの周辺にも可燃物やライター等が置かれているといった本件火災事故直前の被告自宅の状況からすれば,タバコの火を消し忘れたり消し方が不十分であったりすれば,タバコの火種が可燃物に燃え移り,火災を発生させる危険性があることは,通常人がわずかの注意を払えば容易に予見することが可能であったといえる。しかしながら被告は,就寝前に吸っていたタバコをもみ消す動作をしているものの,吸っていたタバコを水に浸ける等の確実な消火方法をとっておらず,タバコの火が消えたかどうかの確認を行わないまま就寝しているのであって,被告自宅の状況下において確実な消火方法をとらないこと自体が,本件火災事故の発生について重大な過失があったものと評価することができる。

⑵ 広島地裁福山支部平成24年7月19日

  【火災原因】
被告は,本件火災前日の午後6時ころ,1階和室(仏間)の仏壇のろうそく(長さ10cmくらい)と線香立て(直径12cmくらい,高さ10cmくらい)に線香2本(長さ15cmくらいで新しいもの)を立て,火を点けたが,仏壇にお参りした後,いつもはろうそくの火と線香の火を消すのに,消すのを忘れて町内の見回りに出かけ,午後6時30分ころ,自宅に戻り,すぐに2階西側の寝室へ上がり,いつの間にか寝てしまったところ,線香立てに立てた線香が床に置かれた座布団上に落下し,座布団に着火して,床等に燃え移り,本件火災が発生したことが推認される。

  【重過失に関する認定】重過失を肯定
被告は,仏壇の前の床に座布団が置かれていることを知っていたのであるから,線香立てに立てた線香が床に置かれた座布団に落下して火災になるおそれがあることを容易に予見することができたというべきであり,火を点けた線香を2つに折って線香立ての中に横に置くか,線線香立ての灰を少なくして線香が倒れないようにするか,座布団を線香立てから遠ざけるか,いつものように線香の火を消してから仏壇を離れる等のわずかな注意を払いさえすれば,本件火災の発生を防げたのであり,被告には,通常人としての注意義務違反の程度が著しいものであったと認めるのが相当である。

⑶ 東京地裁平成2年10月29日

  【火災原因】
 寝たばこをしていた際、たばこの火種が布団の上に落ちたことが原因で、火災が発生

  【重過失に関する認定】重過失を肯定
一般に、寝たばこは、吸いがらを完全に消さないまま寝入ってしまう危険があり、また、火種が布団や畳といった比較的燃え易いものに落ちて火事になることがあるため、これを行う場合、喫煙者は、火災が起きないように十分注意をする必要があるというべきである。
 ところで、本件においては、亡マツは、身体が不自由で、迅速に行動することの不可能な状態にあったので、たばこの火種が布団等に落ちた場合、直ちに消し止める行動をすることができないことになる。したがって、同女としては、たばこを吸うときは、被告一夫等他の人がその場にいるときに限るか、あるいは、人の手を借りる等してベットから起こしてもらってから吸うようにすべきであった。
 さもなくば、火種が落ちないように、火のついたたばこの扱いに常時万全の注意を払っておくようにするとか、灰皿を大きいものにして吸い残しのたばこが灰皿の外に落ちないようにするとか、布団のカバーや畳等に不燃性のものを敷くとか、枕元に常時消火用の水を入れたコップを置いておくとか、あるいは布団に火種が落ちたときの緊急連絡用のブザーを設置しておくとか、各種の対応策を講じておくべきであったというべきである。
 そして、このような対応策は、その気になれば早期にかつ容易に実施することが可能なものばかりなのである。
 また、亡マツは、わずか半年間に三度も、たばこの火で布団や畳を焦がす事故を経験していて、身をもって寝たばこが火災を起こしかねないことを認認していたはずであるから、なんらの工夫や対応策を講じないでこのまま喫煙を続けていけば、やがては、火災の発生に至ることは、容易に予測できたはずである。
 ところが、同女は、被告一夫からの度々の忠告にも耳を貸さず、特段の対応策等を施すことなく、喫煙を続け、本件火災に至ったものと認められる。
 (中略)以上によれば、亡マツは、寝たばこの火種により火災を発生させる危険性については、それを十分認識しながらほとんど頓着せず、なんらの対応策等を講じないまま漫然と喫煙を続けて本件火災を起こすに至ったものというべきであり、その点で、重過失があると認めるべきである。

まとめ

 こうした裁判例に鑑みれば、「タバコの火を消し忘れたり消し方が不十分であったりすれば,タバコの火種が可燃物に燃え移り,火災を発生させる危険性があることは,通常人がわずかの注意を払えば容易に予見することが可能」(前記東京地裁平成27年3月25日)との理解が前提にあると考えられます。そうすると、そもそもタバコの不始末による火災事故については、重過失が肯定される可能性が高い傾向にあるといえるでしょう。それに加えて、ⅰ消火方法としてどのような方法を採用していたのか、ⅱ火が消えたかどうかの確認を行っていたのか、ⅲ周囲の可燃物の存在を認識していたのか、等の事情が考慮されて、重過失の有無が判断されることになります。
 火事には気を付けましょう。

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