見出し画像

寄稿文書「八ツ峰~剱岳 山行の記録」

やまにちは。赤い女ライダーまっつん(@red_mattsun)です。

Youtubeに動画として投稿している「八ッ峰主稜~剱岳」(https://youtu.be/Ec3SrApAEJ0)の記録がありますが、その記録や所感を文章にしたものがありますので、ここで公開してみようと思います。山岳団体内での発行雑誌への寄稿文書です。

山行当時は山岳団体に入会して本格的にアルパインクライミングを初めてちょうど1年たつか経たないかという頃(ペーペーの新人)の山行の記録です。登場人物は仮名です。山岳団体ってどんな感じ?と思っている人が居れば、その雰囲気も伝わればいいかなと思います(もちろん会によって雰囲気は全く違いますが)。

動画と併せて読んでもらうと情景が分かりやすいかもしれません。

八ツ峰~剱岳 山行の記録

2019年5月に剱岳の八ツ峰へ行きました。メンバーは安竹(仮名)さん、井沢(仮名)さんでした。

この山行の記録は安竹さんも寄稿されると伺いましたが、自分にとっても特別なものだったので個人的に感じた内容を記録したいと思います。

春の雪訓でGW山行の相談をしたところ安竹さんと井沢さんと八ツ峰~剣岳(立山連峰)のルートに行く計画になりました。

GWと言えど、経験の浅い自分に行けるのか全く不安でしたが、行ってみたいと言う気持ちもあり、また先輩たちと山に入る機会と言うこともあり、モチベーションは高まっていきました。今回の山行は北方稜線に出るまですべての場所が緊張の連続でした。これまで岩や山で教わったこと、クライミングのトレーニングで体で覚えたことが全て繋がっていると感じました。

それまでで一番緊張したし、雪の状態が刻々と変化していく中、ルート全体を通して大変精神も使いました。ロープを出す場所は先輩たちが代わる代わるリードしてくれて、自分は自分が生き残ることで精いっぱいでした。そんな中、先輩たちのルート上の判断や行動を見たり、指示を受けたりして、色々なやり方、考え方を知ることができました。

最初に緊張したのは、1,2峰間ルンゼを抜けて稜線へ出て最初の雪壁のトラバースで20~30m弱程の横移動がありました。ロープを出して井沢さんがリードでした。見ているだけでも怖かったですが、取り付くとさらに立っているように感じました。痩せ尾根の左壁に張り付いているイメージです。硬い雪のルンゼを前爪で駆け上がってきたため、私の脹脛(ふくらはぎ)はかなり疲弊していました(先輩たちは涼しい顔で私だけが疲れていました)。

前爪で足に立って一歩ずつ慎重に進んでいきました。ランニングの取れない雪稜のトラバースで フォローとはいえ落ちれば大変なことになりそうでした。 足元を見るとずっと下まで急斜面で恐ろしく、目が眩む気がしました。朝だったので雪は硬く安定していて、前爪で何度か硬い雪面を蹴ってくぼみを作ったり、井沢さんのステップを利用したりしてカニ歩きで進んでいきました。もし雪が緩んでいたらかなり厳しかったと思います。雪が緩む前にできるだけ進むために、朝早く出ようという先輩の判断に納得しました。

日中には雪が緩んできて、ただでさえ痩せ尾根なのに、リッジ上の雪は支持力のない状態になっていきました。雪の急斜面をずぶずぶ進むのは、体力も気力も使いました。ロープを出す場合はデッドマンやアックスなどを雪上にアンカーにしていました。急な雪面の右上トラバースで、安竹さんがリードでフォローで進もうとしたとき、井沢さんに「この雪じゃ落ちたら支点ごと安竹さんぶっ飛ぶから、絶対落ちるな」と言われ、緊張しました。フォローであっても状況を考えて慎重になるべき時があるのだと理解しました。

ガスが出てきてルートの見通しが悪くなってきたので1日目の行動は終了し、谷側に2回ほど懸垂下降したところで幕営しました。剱岳が良く見える場所でした。前日、真砂沢では緊張もありあまり寝れなかったこと、12時間以上の行動中ずっと緊張状態であったこともあり爆睡しました。

翌朝は雪が締まっている間はロープは出さず進んでいきました。前日より慣れてきたのか、落ち着いて進んでいくことができた気がします。朝日を受けたトレースのない雪稜はまるで足跡を付けてくれと言わんばかりにオレンジ色に輝いて、そこを歩く我々の影が何ともドラマチックに見えました。緊張する場所はまだまだ続きました。

前日よりも天気が良くこの日も雪が緩むんだろうなと思っていましたが、案の定、より早い時間から雪が緩み始めました。

懸垂支点が雪から出ていない場所では、雪庇の上で土嚢袋を使って懸垂をしました。雪庇は大きく硬く発達していて丸く盛り上がっていて、崩れる感じはありませんでしたがそこでの作業は緊張しました。雪を掘って捨て縄をかけた土嚢を埋めて下降しました。

そうしてみんなで無事八ツ峰の頭に抜けた時は感謝と感動、そして目の前に広がる岩と雪のカッコいい峰々、稜々の姿がありました。今でも目を閉じると思い出します。天候に恵まれ、皆さんに助けられ、素晴らしい瞬間でした

山行全体を通して先輩たちに色々なことを教わりました。訓練やトレーニングで教わったり書籍で得られる知識もありますが、やはり山でのやり方は山で覚えることが必要だと感じました。先輩たちが当たり前のようにやっていることを目の当たりにして今度から真似しようとか、そんなやり方知らなかった…とか、何を考えてそうするに至ったか、とか。

一つ一つきちんと理にかなった行動をするため、常に「考える」ことが重要だと感じました。今度は自分も主体になってまたこのルートをやってみたいと思いました。ありがとうございました。

あとがき

後から先輩に「今だから言えるけどまっつん死ぬんじゃないかなと思ってた」と言われました。確かに私も山行中は本当に生き残ることに精一杯でした。雪稜のルートはトレースがあるのとないので、難易度が全く変わります。同ルートはGWであればトレースがついていれば階段を歩くようにこなせますが、今回はトレースが無かったので難易度は格段に上がりました。当時の自分にはかなり難易度は高かったですが先輩たちのサポートのおかげで素晴らしい経験を積むことができました。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?