現状の休眠預金活用事業の問題点について

2023年1月3日
2月1日更新

  • 以下のNoteとそのリンク先の記事でColabo周辺で目についた不適切と思われる休眠預金活用事業の資金分配の事例を書いた。

  • 本稿では他の例も提示した上で、休眠預金活用事業の問題点を記す。

休眠預金活用事業について(前提)

  • 休眠預金活用事業の詳細は以下の内閣府のHPをご参照。

  • JANPIA(日本民間公益活動連携機構)という団体が事業を統括・運営している。

  • JANPIAが休眠預金活用事業の企画を行う資金分配団体を募集する。

  • 採択された資金分配団体はJANPIAに出した企画に沿って実行団体の選考を行い、休眠預金の支出をする。

  • JANPIA → 資金分配団体 → 実行団体という資金の流れになる。

1、資金分配団体の「管理的経費」の問題

  • 休眠預金活用事業においては実行団体だけではなく、資金分配団体にも「管理的経費」という経費の助成がある。

  • 枠によって15%や20%と差があるが、資金分配団体はJANPIAから受ける助成額の一部を自己の経費として使用することが可能になっている。

  • このルールが適正かどうかは疑問である。

参考∶2022年度の資金分配団体募集の公募要領P.7より
  • 多くの資金分配団体は概ね最大値を管理的経費として算定している。つまり15%が上限であった場合、1億円(例えば平均8.5百万円×10団体に分配)の事業の管理的経費は15百万円、5億円(例えば平均42.5百万円×10団体に分配)の場合は75百万円ということになる。

  • しかし1件あたりの分配額のボリュームは公募・選考という一連の業務にかかる事務負担や経費等と直接の相関関係がなく、上記の例では後者が前者の5倍の経費が必要だということに妥当性はない。

  • 想定公募数、選考団体数、選考期間等、実際の事務量や費用額を想定して経費額を設定すべきで、今のような総事業費の一定割合を機械的に資金分配団体に与える運用は改めるべきである。
    (上図の『評価関連経費』も同様である。助成額の5%。)

  • なお、私がNote記事で特に問題視しているパブリックリソース財団は当該事業に関して15団体中4団体を採択し、379百万円の分配を行って59百万円の管理的経費を得ている

  • どのような費目を経費としたのか、詳細はわからないが、この程度の事業に必要な規模の経費だとは到底思えない。

  • 経費を『創る』こと自体はいくらでも可能であり、一律掛け目による経費の助成は不必要な事業規模の拡大を招くだけで、論外だと考える。

2、利益相反防止の問題

  • 今の制度設計は利益相反を招きやすいのが最大の欠点だろうと思う。

  • 既にColabo周りで適切ではない事例があったことは書いたので、別の業界・団体の例を示す。

① 某フードバンク支援団体の事例 

Ⅰ 資金分配団体の審査委員と選考を受ける団体の利益相反

  • パブリックリソース財団は2021年に『中核的フードバンクによる地域包括支援体制事業』という休眠預金活用事業を公募している。

  • パブリックリソース財団の資金分配企画時の資料はこちらに掲載されている。以下は公募HP。

  • こちらが公募結果で、5団体が採択された。(応募した全20団体の一覧は見当たらなかった。どこかにあるのを見かけた方は教えていただきたい)

  • 公募結果の2P目に記載されている審査委員の最下部にYという人物がいるが、採択された5団体中の4団体はこのYが事務局長を務める法人Zに関係する団体である。

  • 法人Zはフードバンク業界では存在感が大きいフードバンク支援団体である。

  • 1団体(№1)はZの代表理事のY代表理事を務める別法人である。また、審査委員Yはこの代表理事の息子である。

法人Zは資金分配事業の企画段階から案件に深く関わっている。
  • 1団体(№2)はZの理事のK代表理事を務める団体である。

  • 上記2団体に残り2団体(№3と№4)も加えた4団体はZの加盟団体である。№5の1団体のみが非加盟団体である。

  • なお、当該審査は2021年5月に行われているが、当該4つの団体が法人Zの会員となったのが2021年4月以前であることは確認済みである。(後掲のウェブアーカイブより)

  • 結果論では法人Zの意を汲み、法人Zの会員等が優先的に採択されたようにも見えなくはない。

Ⅱ 資金分配団体と選考を受ける団体の利益相反

  • 上記の法人Zは自らも資金分配団体として選定され、実行団体を選考している。

  • 2020年度の応募団体一覧はこちらで、採択結果はこちらである。事業の企画段階の資料はこちら(3次)に掲載されており、事業の詳細は休眠預金活用事業の情報公開HPに掲載されている。

  • 資金分配団体であるZの加盟団体が占める割合は応募団体20団体中12団体採択された7団体の内の6団体である。

  • なお、当該審査は2021年5月に行われているが、上記の加盟団体6つの内の5つが法人Zの会員となったのが審査以前であることは確認済みである。(後掲のウェブアーカイブより)

  • 2021年度の応募団体一覧はこちらで、採択結果はこちらである。事業の企画段階の資料はこちら(7次)に掲載されており、休眠預金活用事業の情報公開HPへの掲載は未だである。

  • 資金分配団体であるZの加盟団体が占める割合は応募団体20団体中8団体採択された7団体の内の6団体である。

  • なお、当該審査は2022年5月に行われているが、上記の加盟団体7の内の6つ全てが法人Zの会員となったのが審査以前であることは確認済みである。(以下のウェブアーカイブより)

2021年4月22日時点のウェブアーカイブより
赤線はパブリックリソース財団の資金分配を受けた団体、青線は2020年度の、緑線は2021年度の法人Zの資金分配を受けた団体。
  • 上記画像に登場しない佐賀の団体は2021年度資金分配の審査前に掲載されていることを2021年10月のウェブアーカイブで確認。(九州地方右側最下段)

  • 同じく愛知の団体は2021年度資金分配の審査前(2020年度も採択されているが、その審査後)に掲載されていることを2022年3月のウェブアーカイブで確認。(中部地方最下段)

  • 上記に加えて、公募期間が両年とも20日程度と極めて短く、加盟団体以外への十分な周知や準備期間が与えられたのか疑問である。

  • また、両年度の資金分配の両方から助成を受けている団体が4つ(※京都、北九州、新潟、愛知)あり、本件事業が両年とも『フードバンク団体の人員体制や食品取扱量増加のための倉庫スペースの拡充等、インフラを強化するための助成』という同一テーマであることを勘案すると、特定団体に支援が偏っていることが適切なのか、よく検証する必要があると思う。

  • 従って、十分公平な審査がなされていない可能性がある。

Ⅲ 業界の事情

  • 一方で、NPO等は零細事業者も多く、公金支出のために必要な書類整備や報告を行える事業者が限られるというのも一つの事実である

  • またソーシャルビジネス業界(この場合はフードバンク業界)は狭い業界であり、『有識者』として審査が可能な人物が限られており、また事業に応募できるレベルの団体も限られているため、「審査側と応募側が利害関係者になることは当然」という実情もありそうである。

  • どれだけ外形的に公平な審査体制を整えても、本件のように資金分配団体が応募団体と一定の利害関係を有するケースでは、恣意的な資金分配を行う余地が残るため、上記で示した選考に関する疑念が発生するのは休眠預金活用事業の構造上の問題であるとも言える。

② 対策

  • 利害関係者だらけの狭い業界で利益相反を完全に防止するのは困難であり、審査を業界関係者である資金分配団体が行う事業設計自体に違和感がある。

  • 選考に関しては資金分配団体は資料の取りまとめと審査委員が出した専門家としての見解を付言するに留め、最終審査については上位団体(JANPIA)を介して第三者の金融機関に依頼する等、審査の透明化を図るような抜本的な制度設計の変更が必要であると思う。

  • そもそも金融機関の運用資産である休眠預金を使用する取組なので、審査手数料等を支払う蓋然性もあり、今の枠組みからすっぽりと抜け落ちている資金の効率性・適正性を一定程度担保することが可能と思われるので、是非とも検討いただきたい。

  • もしも現行の制度を維持するのであれば、選考委員や資金分配団体の理事等、選考に関わる人物には利益相反防止の宣誓書等の提出を義務付け、違反があった場合の罰則を制定するべきであると思う。(現行の団体名での誓約書では不十分)

  • また外形的に利益相反が疑われる懸念がある場合は、どのような対策を行ったかを議事録に残して公開することは最低限必要である。

3、情報公開の問題

  • 特に実行団体については部分的であったり、まったく行われていなかったりと、情報公開の軽視が目立つ。

  • 情報公開を行っている団体でさえ不適切な事例が散見されるので、情報公開を十分にしていない団体がまともに事業を遂行しているとは到底思えない。

  • これは上位団体(JANPIA)の責任も大きいと思われるので、きちんとトレースを行っていただきたい。

まとめ

  • 休眠預金等活用法の5年後見直しの対応方針」に記載されている項目には「審査会議の構成員やモニタリングの要員に金融専門人材を充当する」等の記載はあるが、そもそも現状を「概ね的確」と評する等、状況が正視されておらず、問題である。

  • 制度改正が間近で、2023年1月22日までパブリックコメントを募集中とのことなので、有識者による何らかの提言が望まれる。
    (私もNoteの記事の内容を整理して対応する予定)

  • NPO等の公益事業者は政治家や行政との繋がりを確保した団体のみが潤沢な資金援助を受けられる「椅子取りゲーム」だと揶揄される状況にある。

  • 資金分配団体と距離感が近い団体のみが恩恵を受けるような構図が成立し得るため、現状の休眠預金活用事業はそれを加速させかねない施策だと思う。

  • Colabo絡みでパブリックリソース財団が采配した休眠預金活用事業の不適切な資金分配は1月下旬からの通常国会でも言及されるはずなので、その方向からも制度の改善を期待したい。

更新履歴
2023年1月3日 本稿公開
2023年2月1日 ウェブアーカイブを使って採択された実行団体が資金分配団体(当該フードバンク支援団体)に加盟した時期の情報を追加。

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