厚労省の補助金管理から見るNPO等の「大金滞留」問題
令和5年11月4日
最近は経常収入6億円を超え、数十人を雇用する大手の認定NPOで会計担当者による多額の横領が発覚し、その資金管理体制が極めて杜撰だったことも併せてニュースになっています。(参考:団体HP)
個別案件に対して云々言うつもりはありませんが、こういった事象を引き起こす遠因の一つに、行政のNPO等への資金支援の手法があるのではないかと思いますので以下で述べます。
1、行政のNPO等への資金支援の特徴
大手とされる事業者の決算書を見ればわかりますが、多額の資金が口座に滞留しているNPO等が多いことは周知のことです。
横領等の「不正」は①動機、②機会、③正当化の理由が揃うことで行われるという考え方があります。
最近ニュースになった事例では①と③は定かではないものの、「会計を一人で担当していた」ということが②機会に該当していることに疑問の余地はありません。
一定以上の規模の組織の会計を一人だけで采配するのは難しそうですが、NPO等については現実的にそれが成立しているからこそ、繰り返し横領事件等が起こっているとも言えそうです。その理由としては行政の資金支援の手法が一因ではあるでしょう。
厚労省にしても都道府県・市区町村にしても、NPO等への補助金や委託費は「概算払い」として年間を通して必要な資金を一括して前払いすることが多いです。
これは本来、かなり特異な扱いです。何故なら、一般的に公的な資金は「必要な時に必要なだけ」後払いすることが原則だからです。
前払い自体は公益活動を支える観点から理解できるにしても、1年を通して毎月払う人件費や賃料等を一括前払いすることは、原則を踏まえると奇異に思えますが、この扱いがNPO等に対する資金支援では常態化しています。
そのため特に有名なNPO等の手元資金は常に潤沢であり、資金繰り等を気にすることなく、経理に割くリソースを最小限にして活動に打ち込んでいる団体も多いようです。
一概に悪いこととも言えませんが、すぐに使うわけではない公的資金が常に口座に存在し続けていることは流用や横領等の一因にもなりかねません。
またNPO等が行政等に提出する事業計画書は精緻とは評し難い内容が多く、また補助・委託の過半は明確な成果が求められない、いわゆる「準委任」に近い契約ということもあり、厳密な事後評価も行われていないことが少なくないようです。そのため資金効率が十分に検討されずに「どんぶり勘定」による経費支払いがまかり通っていると評する方もおられます。
よって、是正すべき点がないとは言えないでしょう。
2、厚労省の補助金等の取り扱いに関する質問
若年被害女性等支援事業受託事業者として有名になった事業者の一つにB社があります。
その決算書には前年度補助事業の多額の未精算金が現預金に滞留しており、その事情について様々な方が首を捻ってきました。
R3年度の厚労省のセーフティネット強化交付金は分かりやすい事例でしょう。
ポイントは二つあります。R3年の秋頃にB社が提出した事業計画に基づいて厚労省は32百万円もの概算払いを行いましたが、実際の事業規模は9百万円に縮小されました。その結果、23百万円の差額が不要になったのに、当該資金を事業者の手元に留め続けたことが一つです。
もう一つは事業終了後のR4年4月10日付で厚労省は精算書類を受領しているのに、少なくともR4年10月31日までは確実に、最長でR5年3月末頃までの間、上述の23百万円の返還をB社に行わせなかったことです。
事業を縮小化して不要になった資金や、事業終了後に余った資金は本来は速やかに精算・国庫返納されるべきと定められています。それが果たされていない形です。
無論、B社の責任ではなく、厚労省が責めを負うべき話だと思いますが、なぜこのようなことが起こるのでしょうか?
この点について、浜田聡議員の末永秘書を通じて厚労省に対して問い合わせをした結果が返ってきたので共有します。
本件問い合わせは浜田事務所の「諸派党構想・政治版」と言う枠組みの中で行っていただきました。ご対応に感謝するとともに、この記事で周知させていただきます。
※諸党派構想・政治版についてはこちら
3、質問に対する厚労省からの回答
① 前提
まず、厚労省の自殺防止対策関連の補助金の受領~精算までの手続きを簡記すると以下の通りです。
Ⅰ 交付決定がなされた後、事業者に対して全額の概算払いが行われる。
Ⅱ 翌年の3月末の事業実施期間終了後、4月10日までに事業者より実績報告が出される。
Ⅲ その実績報告に基づき、使いきれなかった補助金の返還命令が事業者に出される。
Ⅳ 事業者は20日以内に当該返還を行う。
② 厚労省の回答
今回私が気になったのは、補助金の返還命令がいつ出るかということでした。
そのため、ざっくり言うと「B社が概算払いで受領している補助金は4/10に完了報告を出してから、少なくとも10月末時点でもまだ精算が終わっていない様子だが、手続きにどの程度の時間を要しているか?」との質問を行った次第です。
それに対する回答の大部分は概ね既知の内容でしたが、私が聞きたかった肝心の部分については「報告年度内に審査を行い、交付金の額を確定」という含意がある書き方になっています。
後述します。以下、参考に厚労省回答全文。
3、補助金精算に関する過去の会計検査院の指摘
回答内容を検討する前に以下のことを踏まえておきましょう。
① 前提
H21年度に類似の事象に関する検査が行われています。
これによるとH21年度に行われた検査において、厚生労働省では概算払により交付した補助金について、補助金額の確定手続き及び国庫への返納命令の発出が長期(事業終了の翌々年度)にわたって完了していなかった事例が複数あったとの指摘がなされています。
会計検査院が厚労省に求める是正処置として『早期に額の確定手続を完了させることの重要性について補助金等担当課に周知徹底するとともに、特に国庫返納が必要となるものについては、可能な限り速やかに額の確定手続を完了させることができるような事務処理態勢とすること』と結ばれています。
② 最近の検査結果を踏まえた所見
こちらはR5年9月に出た省庁の予備費の使用状況に関する検査結果で、上記の2009年度の検査とは主旨が違いますが、厚労省の事業に関する記述に注目すべき部分があります。
私が着目したのは事業者に向けて支出された自殺防止関連の補助金について、R4年4月10日に事業者から完了報告書を受領していたのにも関わらず、精算は年度末に近いR5年3月29日までかかったものがあったという部分です。
これを踏まえると、厚労省へ補助金の精算手続きにかかる期間を質問した際の回答が、本来あるべき姿である「可能な限り速やかに」ではなく「報告年度内に審査を行い、交付金の額を確定」となっていたのは、補助金等の精算手続きをするのに丸一年近い時間を必要としていることも珍しくないという実状を踏まえたものである可能性が高そうです。
もちろん、補助金等の中には完了報告の検査にそれなりの時間を要するものも少なくありません。特に成果物が要件となる補助金等については、成果物が仕様を満たすか等のチェックも必要になるので、時間がかかる傾向があります。
しかし一方で、NPO等向けの補助金については、明確な成果が求められない、いわゆる「準委任」に近い性質のものが多く、本来は完了検査にそれほど時間がかかるとは考えにくいです。
よほど厚労省の人手が足りていないのでしょうか。
3、B社の事例の詳細
① B社のセーフティネット強化交付金の事例
精算事務手続きの長期化に関しては、少額の精算であれば目くじらを立てる必要はないかもしれませんが、B社の事例はやや趣が異なるといえるでしょう。
R3年度のセーフティネット強化交付金の例では、32百万円もの概算払いを受け、結局その内の7割以上の23百万円が未使用でした。
大金であり、速やかに国庫へ返納すべきその資金が長期間事業者の口座に滞留していることは望ましくありません。
当該事業の計画と実績報告の比較は次の通りです。
スケジュールは大体予定通り推移しているようですから、単に事業規模を大きく縮小したようです。
顕著なのは人件費で、8月中旬から翌3月末までに23百万円(約3.5百万円/月)の人員を動員する事業のはずが、3百万円(約0.5百万円/月)に縮小されています。
また計画上存在していた相談員旅費、ミーティングルーム賃借料、保護同行用車両駐車場費等が実績ではなくなっており、対面・移動を要する業務が全面的に省かれた様子です。
逆に拠点の整備費用は事業規模を縮小したのに計画通りになっています。
拠点自体は補助事業実施後も使用するでしょうから、悪く解釈すると自社の拠点整備費用を調達するために架空の事業計画を立て、肝心の手間がかかる部分を実施しなかったという誤解すら招きかねません。
自殺防止に取り組む事業者の体制整備も補助の主旨の一つだとはいえ、計画と実績の乖離が大きすぎるように思えます。
概算払いはそもそも『補助金等の額が確定していないものについて事前にその金額を概算して支出するもの』です。
概算とは字義の通り「概ねこれくらいだろう」という金額ですから、概算と実績が極端に乖離することは想定されていません。
補助金適正化法では事業遂行が困難になった場合は所管省庁へ報告し、指示を仰ぐべきだとされています。
事業規模・内容が計画から大きく変わっていることを踏まえると、当初計画通りの事業遂行や効果が期待できるとは思えませんが、B社が期中に厚労省に何らかの支持を仰いだ記録は開示資料には含まれていませんでした。
実際のところはよくわかりませんが、事業者が無用の疑いを受けるのを避けるためにも、厚労省はもう少し管理監督をきちんと行った方が良さそうです。
以上のように厚労省の事業管理自体も十分ではない上に、前項でも述べた通り、精算手続きも速やかとは評せないレベルです。
23百万円もの無用な大金が長期間B社の手元に滞留してしまうのも、現状の体制だとある意味では当然と言えるかもしれません。
② まとめ
紹介したのは一事例ですが、特にこの事例が極端に珍しいというわけでもなさそうです。
事象だけを捉えると、悪意ある団体が過大な計画に基づいて概算払いを受けることで、1年半もの間、手元に数千万円以上の資金を置くことが可能な状況にも見えます。
持ち逃げや使い込みはもちろん、他事業への流用のリスク等もありますから、事業者の手元に不要な資金が滞留するような運用は是正して欲しいところです。
もしも議員さんで対応して下さる方がいらっしゃるのであれば、
① 概算払いが発生する補助金等について、実際に行なう事業の規模が計画と異なる場合、差額が長期間事業者の口座に滞留する。そういった場合は期中に計画変更の申し出をさせて、不要な金額は速やかに国庫へ返納するのが適当だと思うが、どのように期中管理を行っているか。
② 概算払いを行っている補助金について、「国庫返納が必要となるものについては、可能な限り速やかに額の確定手続を完了させること」とされているが、事業者から完了報告書を受けてから額の確定手続きをするのに平均でどの程度の期間を要しているのか。
大きく分けてこの2点について、質問主意書で問いただしていただければと思います。
付言しますと、何度も書いていますが、どの役所・部署でも巨額の予算を消化するのに汲々としている役人の方々は大勢おられるようです。
予算規模の拡大が困窮している方々への支援に直結するとは限りません。
政治家の方々におかれましては、役所の人的リソースの拡充にもう少し心を砕いていただき、行政が確りと事業者の監督をできるようになれば状況も変わるのかなと個人的には思います。
以上
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