キッズドアの食料支援事業に関する疑問

7月28日

最近話題のキッズドアさんの食料支援事業についてです。

金や物は声の大きい有力団体に集まる状況であり、寄付を集める以上はそれを有意義に使うのが団体の責務だと言えます。
果たしてキッズドアさんの事業はその責務を充分果たしているのか?という観点でこの記事を書きました。

付言しますと、キッズドアさんの食料支援事業の取り組みについて疑問視すべき点があるにしても、キッズドアさんの本業は学習支援事業ですので、全否定するのではなく「これはこれ、それはそれ」という是々非々で論評するようにした方がいいと思います。

1、結論

① キッズドアの食料支援事業への疑問

  1. 支援対象者の中には相当数、生活保護水準以下の手取り収入で生活を送っている方々がいるが、彼らへのフォローを行った形跡が取り組みや報告の中で見受けられないのはなぜか?

  2. あえて遠方世帯への単純な宅送という支援手法を採っている理由が見えない。大手NPOがその権力・影響力を駆使し、有限である寄付金・寄付物資を集めて行う事業として、最適な方法なのか?

  3. 地元のフードバンク等と連携しない理由が見えない。かえって支援対象者のアウトリーチ支援を受ける機会を失わせているのではないか?

  4. 広告宣伝手法について、実際の数字の動きとは真逆に、悲惨なケースがさらに増えているかのようなミスリーディングな手法を採っている。このような広告手法を用いているのはなぜか?

  • 私としてはキッズドアさんの食品支援事業については以上のような疑問を抱きました。

  • もちろん見えないところでやっておられる支援や、色々な事情もあるでしょうから、批判ではなく疑問に留めますが、可能であれば経営者の方々に見解を伺いたいものです。

② そもそものキッズドアの支援ビジョンについて

  • キッズドアの代表者さんは支援の在り方として「魚を与えるのではなく魚の釣り方を教えよ」、換言すると支援対象者の生活が抜本的に安定するような支援をすべきではないかという提案に対して、「とにかく困っている方々へ食べるものを送っているんだ」という回答をしており、婉曲に「それは自分たちの仕事ではない」旨の意思表明にも見える回答をしています。

  • この回答に全てが集約されている気はします。

  • 政府やメディアとも深いつながりがあり、巨額の補助金・助成金や寄付金、大量の物資を集める業界トップ企業の姿勢としてそれが正しいのか、個人的には疑問です。

2、前置き

① 一部のNPOだけに寄付等が集まる現況について

  • 当たり前の話ですが、企業であっても個人であっても寄付する以上は「ちゃんとした先」を選びたいと考えます。

  • そして選定にあたり、何をやっているかわからない小さい団体よりもメディア、広告、ニュース等で名前を目にする大手のNPOの方が「ちゃんとしてそう」と思うのもこれまた当然の話です。
    その結果、端的な事実として寄付は大手NPOに集中しています。

  • 参考までにご紹介。これは2021年度で更新は止まっていますが、認定NPOのデータベースです。

  • これを分析した記事が以下。

  • 寄付は一部の認定NPOに集中するという事実を分析しています。

  • これによると1千万円以上1億円未満の寄附を集められる法人232法人で、上位20%程度、1億円以上になると34法人で上位3%以下という結果になるそうです。計22.6%で寄付全体の92.4%を寡占しているとのこと。

  • 記事内では言及されていませんが補助金・助成金についても類似の傾向があります。一般NPOへの寄付についてはデータがありませんが、似たような傾向にはなるでしょう。

上記記事より
  • あくまでも2021年度のデータですが、集めた寄付額はよく話題になるフローレンスさんは業界第7位で7億円強、しんぐるまざあず・ふぉーらむさんは12位で4.5億円強、キッズドアさんは単体で2.7億円、関連のキッズドア基金が1.7億円と合わせて4.4億円なのでしんぐる社とほぼ同等といったところでしょうか。

  • 最上位付近の組織は公的な性格が強い団体や、国際的なNGOの下部団体も多いので、独立系の認定NPOとしては実質的に彼らを業界トップ企業と称しても差し支えないと思います。

  • 現金であっても食品等の物資であっても寡占の傾向はおそらく変わらないでしょう。
    (もちろん比較的賞味期限が短い食品や生鮮食品なんかは地元のフードバンクなんかでやり取りされることは多いと思います)

  • 実績がある団体にはどんどん金と物が集まり、後発は苦労するという状況は、経済学でいう「先行者の利益」を既存大手の団体が享受しているということになります。

  • 認定NPOという組織の性質を踏まえると、彼ら大手団体は大手に相応しい経営を心掛けることを世間的に期待されており、それがなされていないように見えるのであれば厳しい批評を受けることもやむを得ないかもしれません。

② 全国のフードバンク等の状況について

  • コロナが明けたことや、競合が増えたこともあって、物資が集まらずに困っているフードバンク等が多い様子です。

  • 公的な調査報告書は他にもありますが、上記リンク内の「日本における食品寄附に係る実態等についての調査業務」なんかが参考になると思います。

  • 一部記述(※上記の重めのPDFファイルへの直リンクなのでクリック注意)によると、「食品関連事業者からこども食堂500箇所に相当する寄附の申し出に対し、全国から800~1,000団体の希望が集まる実態にあり、食品寄附が不足していると言える。」というのが実情の一端を示している様子です。

  • 他にも全体的に寄付が不足している資料はありますが、本筋ではないので割愛します。

  • 背景として、コロナ時期はぐんと食品寄付が増えましたが、コロナ期間は先々の需給予測が難しく、食品メーカーは商品を作り過ぎる傾向があったということに留意する必要があります。

  • 最近はコロナが一旦落ち着いたことと光熱費や原材料費が上がっている関係で、どの食品メーカーも生産管理には非常にシビアで、ロスをなるべく減らそうとしているので、そういった傾向も寄付不足に拍車をかけているのだと思います。

  • また、寄付が足りていないと感じる団体が多いのは「ライバル」が増えすぎたということもあるでしょう。

  • その「ライバル」同士の奪い合いの勝者には、効果的な支援物資の利用を心がけて欲しいものです。

むすびえの報告より
上記リンク「日本における食品寄附に係る実態等についての調査業務」より

3、キッズドアの食料支援事業の疑問の詳説

① 事業等の概略

  • 過去の食品支援事業の報告やアンケート調査結果や提言なんかは以下。

  • 直近の2024年夏季の食品支援事業に先立って行われたアンケート調査結果や提言なんかは以下。

  • 今話題になっている、2024年食品支援事業のためのクラウドファンディングの試みは以下。

https://congrant.com/project/kidsdoor/11823

  • 企業からの寄付品に一部買い増しを行い、支援パッケージを作って個別に困窮家庭へ宅送する試みとのこと。

  • パッケージを箱詰めするための人件費や倉庫を借りる費用なんかに充てられる様子です。

  • 1先あたり8000円がかかるそうで、「8000円もかけてやる意義とは?」という疑問を持つ方が多かった様子。

  • 8000円に企業からの寄付物品の時価評価も加えると、1世帯あたり1万円を超える事業にはなるでしょう。

  • その費用対効果を正確に測るのは難しいので、その他のアプローチでキッズドアさんの食料支援事業に言及しようと思います。

② 支援対象世帯の相当数が「生活保護を受けられるのに受けていない」現状

  • 2024年夏季のアンケート結果を見ましょう。まず重要なのはこの収入の部分です。

上記リンクより
  • 就労者のサンプル全体の1458世帯に対し、少なくともパートアルバイト等の970世帯や自営業等の世帯77世帯の手取り収入額は中央値で12万円以下になるとのことです。つまり、1047世帯(970+77)の内の半分以上、523世帯以上は手取り月収が12万円以下ということのようです。サンプル全体の1/3以上ですね。

  • キッズドアさんの食料支援先は全国に広く散らばっていますので、居住地にもよるとはいえ、生活保護を受給することができる最低生活費は東京都23区(1級地-1)で12万9420円ですから、相当数の世帯が生活保護受給資格を満たしながら、それ以下の手取り月収で生活を営んでいることがわかります。以下参考。

  • 生活保護をもらうための条件が東京都であれば手取り13万円以下であると上述しましたが、実際にはいわゆる「健康で文化的な最低限度の生活を営む」に足る収入がない場合は支給対象になり得ます。

  • 大分前の、それも極端な話ではありますが、以下のニュースで言及されている記事が話題になったことがありましたね。

  • 母子加算なんかを勘案すると、支援対象者が生活保護で確保できる生活費が現状よりもはるかに多くなる、換言すると現況の収入で生活保護が認められるケースも相当数ありそうです。

  • サンプルとして食費を例にすると、アンケート結果によると大人1人・子供2人の家族3人(※アンケート対象の9割が母子家庭なので)の食費が3万円以下の世帯が44%ですから、十分な食費すら確保できていない家庭が多いようなので、その可能性は高いでしょう。

  • 実際はキッズドアさんの支援対象者で、生活保護の対象になり得る世帯はサンプル全体の1/3どころではないと思います。

2024年のアンケート結果より。
  • このアンケートで認識できる現状について、キッズドアさんはどのような見解を示しているのか、このアンケートを受けて行った「提言」の中身を見てみましょう。

  • 現金給付の必要性、体験格差解消の必要性、賃上げの必要性を説いています。

  • 「生活保護」という福祉につながる権利があるのに、それを行使できていない方の存在についてはまったく言及されていません。

  • 支援対象者に命の危険があることを盛んに喧伝しながらなぜこの点に触れていないのか、理解できません。

③ アウトリーチ機能が十分に発揮できていない可能性

  • フードバンクや一部のこども食堂等にはその都道府県、市町村の福祉施策を紹介するチラシ等が置かれていたり、折々でそういった施策の対象になるかどうかの相談会が開かれていたりします。

  • 単に食品を供給するだけでなく、福祉につなぐという側面もあるわけです。

  • 我が国において福祉制度は申請主義なので、制度は知らないと使えない上に、日々生きることに精一杯な方々にとって、情報を探索することは非常に苦労がかかることなので、食品支援をそういった情報へのアクセス経路の一つにするというのは非常に有意義なことです。以下参考。

  • 私がよくわからないのは、キッズドアさんが「NPOのためのNPO」と呼ばれることもある、中間支援組織としての特性を活かした支援を行わないことです。以下、Wiki記事。

  • キッズドアさんも中間支援組織的な業務を行っています。例えばこども家庭庁における、全国各地のフードバンク等への少額のお金配り事業について、審査や事業遂行支援の業務にあたっています。以下参考。

  • 例えばこども家庭庁の事業でつながった現地の支援団体と連携すれば、それをきっかけに公的な福祉支援をつながる世帯が増える可能性があります。

  • 寄付物資をある程度まとめて全国の支援組織に送り、それを使ったアウトリーチ活動をしてもらうようなことはできないものなのでしょうか?

  • そうすればコストが1世帯あたり8000円もかかることはなくなるでしょう。

  • 地元の制度のことは地元の団体がよくご存じのはずですし、その需要があることさえ確認できれば、浮いたコストで、例えば生活保護等の福祉制度への申請の同行支援を弁護士に依頼する費用を、キッズドアさんが集めたお金から出すようなことも可能でしょう。

  • わざわざ全国から支援対象者を募集し、高いコストを費やして、コミュニケーションの取りにくい遠隔地へ個々別に宅送するという支援手法にどのような意味があるのかわかりかねます。

  • もちろん色々な支援の形があっていいとは思います。例えば宅食には「支援を受けていることが誰にもバレない」というメリットがあり、それはそれで意義はあります。

  • ただし、キッズドアさん自身が発表しているように、命の危険があるようなご家庭が多いのであれば、そうも言ってられないのでは?とも思います。

  • 現況の食料支援手法は緊急度に対してミスマッチな手法に見えます。

  • 寄付金にしても寄付物資にしても有限なので、それを大手NPOの権力で寡占して、その他の団体によるアウトリーチ支援の機会を奪うことが、かえって支援対象者の不利益につながっていないか心配です。

④ その他、個人的に気になった宣伝手法の是非

  • キッズドアさんは1日・1人当たりの食費が少ない困窮世帯のモデルケースを広告文面に採用していますが、2023年夏季は300円/日/人なのに対し、2024年夏季は1食200円/日/人に減少させて広告を作っています。(下記ツイート左側2023年、右側2024年)

  • 2024年の例に採用されている3人世帯へのアンケート結果では、食費3万円以下の世帯数が2023年は52.8%だったのが、2024年には44%に縮小する等の、有意な変化が見られます。

  • もちろん食材高騰による悪影響もあるのでこれを改善と呼ぶかは別にして、実際の数値の変化とは真逆に、悲惨なケースが増加しているかのような手法でお金を集める姿勢というのは反感を呼ぶかもしれませんので、個人的には良くないと思います。

2023年分。右側の注釈は筆者による。
2024年の数値は上掲の円グラフをご参照。

4、まとめ

  • 以上の通り、キッズドアさんは大手の認定NPOであり、政府ともマスメディアとも強いつながりを持っています。

  • 金・物を集める能力に優れているのは結構ですが、その集めた金・物が有意義に使われているのかは評価が分かれるかもしれません。

  • 少なくとも代表者ご自身でも効率的ではない活用だとお考えの様子です。それならそれで、本業の学習支援以外の副業に手を出すべきではないという意見もあるかもしれません。

以上

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