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マンガの配信の歴史 後編(ピッコマの登場~マンガ文化の未来)

変わらなきゃいけないものと、変わってはいけないもの
その両方が大切だ

by RECOMAN

こんにちは。株式会社RECOMANのCMO兎来と申します。
CMOは一般的にはChief Marketing Officer(最高マーケティング責任者)ですが、弊社においてはChief Manga Officer(最高マンガ責任者)です。

現在RECOMANは、
「マンガの力で世界を変える」
というヴィジョンを持ち、
「人生を変えてしまうような、人とマンガの出会いを一つでも増やす」
「世界中の人々が、マンガを読める・描ける世界にする」
というミッションに挑むため、新しいマンガアプリ「RECOMAN」を開発しています。

そんなRECOMANにはどんなメンバーがいて、どんなことを考えているのかを知っていただくためにこのノートを立ち上げました。

今回は、コアメンバーであるCEOの細川とCMOの私による対談形式で、「マンガの配信の歴史」の後編(全3回)をお届けします。



ピッコマの登場

細川
今回は『ピッコマ』登場からですね。

兎来
はい、2016年にカカオジャパンがリリースしました。
今では多くのアプリで導入している「待てば無料」や「話売り」を武器に、最初は出版社に受け入れられずたった2社との契約からスタートして、1日の売上が数百円というところから今や月間売上が60億円とか。

『ピッコマ』の代表は金在龍(キム・ジェヨン)さんという方で、NHN Japan(現LINE)でハンゲームやLINEやcomicoなどのサービスに関わった後にカカオジャパンの代表取締役になったみたいですね。
その方が「待てば無料」を考えたかどうかは定かではないですが、元々ゲームにあったシステムをマンガに流用したようなところなので、ハンゲームなどでの経験が生かされていたのかもしれないですね。

細川
いわゆるソシャゲのログインボーナスみたいな。
そういったソシャゲなども、韓国の方が進んでいましたしね。

兎来
『ピッコマ』の代表的な作品である『俺だけレベルアップな件』などを見ても、ゲームとの親和性は高いですね。

細川
今回マンガの配信の話なので、まさにこの『ピッコマ』の発明について掘り下げましょう。
『ピッコマ』の方が言っていたのは、『ピッコマ』の立ち上げ理念は、普段マンガにお金を払わない人からも、マネタイズしようというところから始まったと。

知人にも、昔は全然マンガのことが好きじゃなかったのに、今は毎日『ピッコマ』でマンガを読んでる人がいます。
今も、マンガ好きの度合いはそんなに深くはないんですが、そういう人が毎日マンガを読み、広告閲覧という形で収益化に貢献をしてるんですよ。

それはやっぱりひとつの発明だよなと思いましたね。

マンガ以外の雑誌は、雑誌そのものの売上だけでなく、広告もかなり重要な収益なんです。
でもマンガ雑誌って、ほとんど広告がないんですよね。

最近は厳しくなる傾向にありますが、昔は雑誌を立ち読みしている人もたくさんいたじゃないですか?
もし広告があったら、立ち読みの人にも広告効果があったはずで。
逆に言えば、出版社の人の方が、この事はよく知ってるはずなんですよ。
なぜしなかったのか気になりません?

兎来
『ジャンプ』の裏表紙の広告で350万円くらいなので、単行本の売上などと比べたら微々たるもの、というのはあるんでしょうね。
もちろん考えていた人はいると思うんですけど。

細川
毎週と考えたら結構な金額ですよ。
余裕があったってことですかね?

兎にも角にも、『ピッコマ』は、マンガの配信(雑誌)には広告をあまり載せない、という文化に、ウェブ広告ではありますが、踏み込んでいった訳ですね。

兎来
そうですね。

細川
あと経験財であることにフォーカスしたことも、画期的でしたね。
読まなければわからないと。
程よく読ませて、納得してもらったところで買ってもらうという、いわゆるフリーミアム思想ですよね。
当時は、ビジネス界全体ではそういう話が出てきてましたけど、それをマンガに取り入れた。
 
現実の世界では、それまでにも同様の経験をしていた人は多かったと思うんです。
雑誌で立ち読みしたとか、漫画喫茶で読んだとか、友達から借りて読んだとか。
 
そういった体験を、合理的に仕組み化した訳ですね。

兎来
結局、フリーミアムの方が、最終的には納得感が高く、多く課金する人が出て来やすいんですよね。

ただ、無料のものが増えすぎて、すべてには手が届かなくなっても来ていますね。
タイムパフォーマンスがより重視されてきている。

細川
今までは、趣味は可処分所得をどこに割り振るかが重要でしたが、可処分時間の奪い合いだ、みたいな話も出てきてますからね。

兎来
もはやマンガもマンガ業界の中だけで戦っているわけではなくて、配信、Youtube、ゲーム、映像などいろいろものと戦っているという現状ですね。

韓国と日本の違い

兎来
『ピッコマ』がこういった発明を進められたのは、韓国の方が出版に対する危機意識が大きかったというのがあると思います。
 
韓国は紙の出版が途絶えてしまって、いかにしてWebを駆使して生き残るかに血道を上げていましたから、そこはやはり日本よりもすごく考え抜いていて。
本当にハングリーな状況から生まれたシステムで、それが非常に有効だったという。

細川
韓国は日本に比べ、資本主義の理念がより強く、財閥も残っている。
資本を一極集中させて伸ばすのが得意で、選択と集中がはっきりしている。
伸びるものと衰退するものがはっきりとしているので、、日本よりイノベーションが進みやすいのかも知れませんね。

兎来
なるほど。

細川
一方で、韓国は漢字を日常で利用しなくなった事で、難解なものを大衆が広く味わうチャンスを衰退させたという説もあるらしいんです。
ハングルは日本語で言うとひらがなに近い。 
ひらがなだけで、マンガが楽しめるか?という話はあるじゃないですか。

漢字は表意文字なので、知らない言葉でもある程度予測出来たりする。
元々漢字を使っていた文化圏で、漢字を失うことは大きな表現的制約になる。

韓国で紙の出版が早期に衰退してしまった理由には、普通教育での漢字廃止の影響もあるかもしれないですね。

韓国でも知識階級の人たちは漢字を理解していて、漢字がなくなったわけではないらしいです。韓国の方々の名誉の為に補足しますが。

兎来
確かに、韓国ってどちらかというと文学などよりは、実写映画やドラマなどの方が強いイメージはありますよね。

細川
長い文字を読ませる方向よりも、もっと視覚的なエンタメにシフトしていったのかなと。
だからこそ、Webtoonみたいな動きは得意だと思うんですよ。
より分かりやすく、より簡単に。

これは、コマ割りにも関連する話かなと。
コマ割りは習得に時間がかかり、コマ割りを無くした方がマンガを書くことへの敷居は下げられる。
凝ったコマ割りは、読み手にも慣れを求めますしね。

兎来
日本ですら、マンガのコマを読む順番がわからないという若い人も増えてきてますからね。

細川
「より分かりやすく、より簡単に。」
これは明確に世界中に存在するトレンドですが、本当にそれだけでいいのか、という想いはありますね。

手段が未来を作るのか

細川
この前びっくりしたのが、大学生と話した時に「日本語を縦に読ませることはもうマンガ以外であり得ないです!」と言われて。
目の前に貼ってあったポスターは縦読みだったので、そんなこともないだろうって思ったんですけど(笑)。

でも縦読みは激減してますよね。
これは、Webtoonがなぜ縦スクロールなのかと、本質的には同じ理由かなと。
エンジニア目線だと、縦文字ってWebの世界で実装するのは大変なんですよ。
逆にスクロールはWebは縦が基本なので、横のスクロールは実装が大変なんです。
だから、Webtoonは縦なのかなと。

今の世代は、どんどんWebが当たり前になってるいて、故に縦の文字を読む機会が減っているんですね。
だから縦の文字がマンガで出てくるとイライラしたりするんでしょうね。
マンガなんて吹き出しの場所の制約で縦になったり横になったり、時にはナナメなんじゃないか? みたいなのがあったりするじゃないですか。

 作りやすいものが世の中に溢れ、それがスタンダードになるからこそ、それに合わせた物作りが求められる。

世の中とはそういうものだとも理解しますし、一方で本当にそれでいいのか?という想いもある。

兎来
そうですね。
ただ、デバイスに依拠しているところも大きいと思います。
未来において、ARやVRが台頭してきたら、また話も変わってくるかなと。
空中にディスプレイを浮かび上がらせて、マンガを読めるようになる世界が来るかもしれない。

そうなった時には縦スクロールである必要は再びなくなって、また見開きで全然いいというか、むしろ左右の視界が広いんで、その分見開きの方がいいんじゃないかとか、そういう可能性もありますよね。

細川
確かに。

ただ現状としては、これまでに話した、技術的な縛りや、言語的な背景が大きな流れをコントロールしているというのは無視できないと思います。

チープなものが、より高度なものをひっくり返す、イノベーションの世界ではよくある話です。
ただ、世の中には、変わらなきゃいけないもとの、変わってはいけないものの両方がある

今回はマンガの配信の話なので、この話は次回に別テーマとして詳しく話しましょう。

紙から電子へ

細川
大きく脱線してましたが、話をちょっと戻しますか。

兎来
はい。
『ピッコマ』が出てきて、その後から電子書籍がどんどん隆盛していきましたね。
2017年には電子版(1711億円)が紙(1666億円)の単行本を抜き、その後、コロナ禍をきっかけに更なる電子化が進んでいます。

細川
結局Koboは全然うまくいってなかったですもんね。
Kindleはそこそこうまくいってましたけど。
マンガの電子化を思いっきり推し進めたのが、結果としては『ピッコマ』とか『LINEマンガ』になるんですかね。

兎来
普段マンガを読まない人でも電子で読むという体験を、そこで初めてした人も多かっただろうとは思います。

細川
その本来マンガを読まない人でも読むとかフリーミアムモデルで読者を引きつけるという意味では『LINEマンガ』や『ピッコマ』は成功したと思います。

ただ、僕が本格的にアプリサービスを使うようになったのは『マンガワン』なんですよね。
元々『裏サンデー』で。
正直、今でも初期の『マンガワン』は本当にすごいと思っています。

兎来
それこそ『LINEマンガ』の金俊九さんなども唯一脅威に思っていたのは『マンガワン』だったみたいなことを言ってたらしいですね。

細川
そうですよね。
まずオリジナルの作品が強かったんですよ、『懲役339年』とか。

兎来
伊勢ともかさんの。
良いですよね、マンガサロン『トリガー』でもイベントをやらせていただきました。
ONEさんや石田スイさんなど新都社からの精鋭が才能を発揮して大ブレイクしていった時代で、『マンガワン』は良い作家をたくさん発掘していましたね。

細川
なんなら『ジャンプ』だったら多分もっと練ってから出してましたよね。
あの作品で僕は編集の力って大事だなぁと思ったんですよ。
これは本当にWebマンガの良いところと悪いところですよね。
僕はあの粗削りな所も含めて大好きなんですが、『懲役339年』を成功と定義するのかどうか。

兎来
そこは難しいところですね。
個人的にも好きな作品ですが、成功かと言われると。

細川
読んだ人には評価されてますけど、今やもう知る人ぞ知るみたいになっちゃってますよね。
それこそ『ジャンプ』でじっくり練ってから出していたら、アニメ化までは行ったんじゃないかとか。
それが良いのか悪いのかというのはありますが。

『マンガワン』くらいから、やっぱり出版社が真剣に自分たちでマンガアプリをやり始めたのかなと。

兎来
そうですね。
「Webから大ヒットは生まれない」と言われていた状況もだんだん変わっていって。
特に大手は取次や印刷所との関係などもあって腰が重いところもありましたが、上層部を説得するに足る数字的なインパクトもあったと思います。

細川
初期のUIとか正直使いづらかったですけど、かなり良くなりましたもんね。

兎来
本当に。
どんどんアプリやWebの需要が増えてユーザーからの声も多く大きくなって、最近はかなり改善されてきましたね。
いまだにSNSで試し読みを紹介したいのにリンクが貼りづらいとか、まだまだありますけど。

マンガ文化の多様性を守りたい

細川
いわゆるタダ読みされないように、広告である程度利益を確保しつつ、フリーミアムモデルで気に入った人は買ってもらって、というモデルをどの出版社も今はやるようになった。

力のある出版社さんはそれでいいと思うんですよね。
ただ、これをじゃあ全部の出版社さんがやるのか。

兎来
体力のないところは厳しいですよね。
『ピッコマ』や『LINEマンガ』が月間で5~60億くらい売り上げていて、プラットフォームとしての力を確立して将来オリジナル作品だけでも売り上げが立つようになって、そこで中小が切られてしまったときにどうなるかですよね。

細川
『RECOMAN』もそこに抗うためにやっている部分は大きい。

出版からちょっと離れた、ビジネス界隈では、いわゆるネクスト『ジャンプ』は『ピッコマ』か『LINEマンガ』のどちらかから生まれるという意見も根強い。
そして、体力を失った出版社がIPを手放すのを狙っている人たちもいる。
マンガ発のIPは世界でも高く評価されていますから。

これだけ素晴らしいマンガ文化というのを、長い時間を掛けて積み上げてきて、その大部分をリセットしてしまうのはもったいなくないですか?
それぞれの出版社の想いや文化があって、得意な作品・不得意な作品があって、そういうのをリセットってなんか嫌じゃないですか。

なんなら『ジャンプ』だけあればいいんですか?
嫌だなみたいな。

兎来
絶対に嫌ですね。
多様性こそがマンガ文化の素晴らしさなので。

細川
そうなんですよ。
あとこれはネガキャンみたいな感じですごく嫌なんですけど、「マンガ 課金」で検索すると「やめたい」ってサジェストが出てくるんですよ。
これ、フリーミアムが悪く作用しちゃってるとも言えるんですよね。

売れなければ、そもそも作家先生は成立しないんだから偉そうに言うな、という話もありますけど、今は文化などを中長期的に持続して成立させましょうというのがどんどん見直されている。
そんな中で、課金して後悔する、というのはやっぱり文化としては良くないですよね。

兎来
そうですね。
みんなが幸せになってこそだと思うので。

細川
だから、可処分時間の争いだとか、わかりやすさの時代だとか言いますけど、結局は長い目で見たら本当にいいものを知ってもらうとか、理解してもらうとか、それをちゃんと届ける、その人が欲するものを届けるというのがやっぱり大事かなと。

兎来
大事ですね。
これからはより大事になってくる。

それこそ個人でもpixivFANBOX、ファンティア、Ci-en、Kindle、BOOTH、Xなどいろんな手段でマネタイズできるようになっていて、今後もその流れは加速すると思います。
マンガの絶対数って、それに伴ってさらに爆発的にこれからも増え続けていくと思うんですよね。
そうなった時に、今でさえ個人ではカバーできない量が出続けていますがそれがさらに増えていくので、そこで我々のようなサービスがそれぞれの人に適切なレコメンドを届けられたら最高ですよね。

細川
届けたいですよね。
最終的に完全なポジショントークになってしまいましたが(笑)。


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