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WEB Re-ClaM 第27回:クラシックミステリ原書刊行状況(2020/10)

少し遅くなってしまいましたが今月もご紹介します。主要なレーベルのいずれも新刊が出るフィーバー状態。たまにこういう時がありますね。

★Helen McCloy / Dance of Death (Agora Books, 1938)

ヘレン・マクロイ『死の舞踏』(論創海外ミステリ)の原書。Uncrowned Queens of Crime シリーズの新刊として刊行された。日本ではウィリング博士物が全て訳され、また多くの作品が廉価に入手可能であることを踏まえると、彼我の状況の差に意外性を感じる。

Anthony Boucher, The Case of the Baker Street Irregulars (American Classic Mysteries, 1940)

アントニー・バウチャー『シャーロキアン殺人事件』(ミステリ・ボックス)の原書。評論家としてはずば抜けている作者だが、少なくとも本作は作品としての出来はいまひとつだった記憶。アメリカのミステリマニアは本当にバウチャーが好きだなあと感心してしまう。

★Frank Howell Evans, The Murder in Judd Lane and Other Stories of Jules Poiret (Black Heath Classic Crimes, 2020)

1909年から1910年にかけて書かれた「ジュール・ポワレ」という名探偵が活躍する短編を集めた作品集で五編を収録(”Old Pawray”というシリーズ名が付けられており、2002年にThe Battered Silicon Dispatch Boxからロバート・エイディー編で一冊にまとめられた。内容はこの電子書籍と同様である)。引退したフランス人の刑事がイギリスで探偵業を営むという設定や気取った喋り方など、クリスティーがエルキュール・ポアロを創造する上で参考にしたのではないか……という説がある。


★Josephine Bell, The Port of London Murders (British Library Crime Classics, 1938)

ジョセフィン・ベル『ロンドン港の殺人』(ハヤカワ・ミステリ)の原書。論創海外ミステリの『断崖は見ていた』しか読んでいない作家だが、更に読み進めることで真価が見えてくるか?

★Brian Flynn, The Padded Door (Dean Street Press, 1932) 他

年に一度のブライアン・フリン祭りで、11巻から20巻まで一挙に10冊が刊行された。おそらく出版側の事情(原書が手に入らないなど)の理由で、作品の刊行順が若干入れ替わっている模様。今回刊行されたものでは、『角のあるライオン』(The Spiked Lion, 1933)のみ邦訳がある(『ミステリ・リーグ傑作選』、論創海外ミステリ)。私は紙でまとめ買いしたが、電子版も同時に刊行されている。


★Rodrigues Ottolengui, Final Proof (Library of Congress Crime Classics, 1898)

ロドリゲス・オットレンギ『決定的証拠』(ヒラヤマ探偵文庫、kindle)の原書。ただし、邦訳は11編収録なのにこの本には12編収録されていることになっている("A Frosty Morning"という11編目が相違)。なぜだろう(底本の違いだろうか、目次の切り方が違うという可能性も……)

ということで、なかなか盛況な月でした。来月も結構色々出る模様。お楽しみに。

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