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別冊Re-ClaM Vol.4『虚空に消える』刊行告知

 2021年4月、ホレーショ・ウィンズロウ&レスリー・カーク『虚空に消える』(Into Thin Air, 1928)を別冊Re-ClaM Vol.4として刊行いたします。訳者は、Re-ClaM本誌への短編翻訳寄稿や別冊Re-ClaM Vol.1『死の隠れ鬼』の翻訳でおなじみ宇佐見崇之氏です。以下詳細。
・本書の通販の取り扱いは書肆盛林堂のみです。また、盛林堂書房(西荻窪)・古書いろどり(神保町)・古本あらえみし(仙台)・うみねこ堂書林(神戸)の各書店にて、店頭での取り扱いを予定しています。
2021年4月24日から受付を開始します(開始時間は午前の予定です。確定次第追記します。またtwitterにも記載いたします)。
・価格は2000円(税込)+送料となります。
・部数は多めに用意しておりますが、完売となる場合もございます。その際はご容赦ください。なお、別冊Re-ClaMは増刷の予定は一切ございません。お求めの場合はどうぞお早めに。

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 本書は故ロバート・エイディーから最大限の絶賛を受けていますが、同時に毀誉褒貶の振れ幅が非常に大きい作品でもあります。例えば、国書刊行会からR・A・フリーマン『ソーンダイク博士短篇全集』を刊行中(最終巻の第3巻は4/20発売、要チェック!)の渕上痩平氏は自らのブログ「海外クラシック・ミステリ探訪記」の記事(全文は以下のリンクを参照のこと)にて、本書を厳しく評しています。

>>結論から言えば、ひどい愚作としか思えなかった。
>>おそらく著者はマジックの知識に詳しいと思われるが、小道具の使用や組み合わせといったマジックの手法をそのまま推理小説に持ち込んでも印象的なプロットにはなりにくい。
>>特にひどいと思ったのはフーダニットの設定で、ある作家が用いた手法を下手くそに真似た代物にすぎない。
>>“A Catalogue of Crime”のバーザンとテイラーは、「全くとるに足りない本」という素っ気ない評でにべもなく斬って捨てているが、個人的にはこちらの評価にほぼ同感である。

 その上で渕上氏は、記事の末尾で「とはいえ」と断り、このように記しています。

>>我が国では密室はじめ不可能犯罪物が特に人気が高いようだし、四の五の言うより、まずは紹介されてみれば、この“Into Thin Air”にしても、エイディによる高い評価を支持する人が案外たくさんいるのではないだろうか。

 実際紹介を心待ちにしていたという方も決して少なくはないはず。この記事(2011/7/9)から約10年、ついに日本の読者の皆さんの前に本書をお目見えさせることができたかと思うと感無量です。貴方はエイディーを信じますか? 10年、いや『これが密室だ!』から数えれば20年越しの「真実」をぜひその目で確認してください。

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 以下、本作ジャケット裏表紙のあらすじを掲載いたしますので、購入検討の材料としていただければ幸いです。

【裏表紙あらすじ】
 セイラム・スプークは死んだ。警察からは凶悪な強盗犯として追われ、人々からは超自然的な力を持つ悪党だと恐れられている男。閃光とともに消え失せ、鍵のかかった部屋から易々と脱出、痕跡を一切残さず獲物を奪い取る、恐るべき悪魔。警察に囚われてもなお鮮やかに脱獄してみせたスプークは、しかし不慮の事故で落命、犯罪学者のクロッツ博士によってその死を確認された……はずだった。手品師フィトキンによるいかさま霊媒暴露の会で自分を逮捕したクロッツへの復讐を宣言した幽霊【ルビ:スプーク】は、不可思議な事件を次々に起こしながらその魔手をクロッツへ伸ばしていく――究極の不可能犯罪ミステリマニア、ロバート・エイディーの絶賛を受けた「幻の作品」、ここに本邦初訳なる!

 さらに、訳者の宇佐見崇之氏の許可をいただき、「訳者解題」の一部を抜粋して掲載いたします。(太字は編者による)

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 ここに紹介する『虚空に消える』は名のみ知られる不可能犯罪物の作品である。敢えて傑作とは言うまい。
 本書の存在を訳者が知ったのは森英俊と海外のミステリ研究家ロバート・エイディーのアンソロジー『これが密室だ!』の中である。アンソロジー末尾に置かれたそれぞれの選ぶ不可能犯罪物ベスト・ファイブで、不可能犯罪物研究における大家エイディーが本書を挙げていた。そのラインナップを引用しよう。

長編ベスト・ファイブ
 ピーター・アントニイ『衣装戸棚の女』(一九五一年)
 ジョン・ディクスン・カー『三つの棺』(一九三五年)
 ないしは、カーター・ディクスン『ユダの窓』(一九三八年)
 エラリー・クイーン『チャイナ橙の謎』(一九三四年)
 ヘイク・タルボット『魔の淵』(一九四四年)

これらの四長編プラス、左記のいずれか一編
 ジョン・スラデック『見えないグリーン』(一九七七年)
 クリスチアナ・ブランド『ジェゼベルの死』(一九四八年)
 ホレーショ・ウィンズロウ&レスリー・カーク『虚空に消える』(一九二八年)本書

 最初の四作に比べると、やや劣るという判断だろうが、カー『三つの棺』『ユダの窓』、クイーン『チャイナ橙の謎』に準ずる存在で、ブランド『ジェゼベルの死』やスラデック『見えないグリーン』と伍するというのだから、どんな傑作かと期待する人も多いだろう。
 エイディーは密室トリックを二千近く解説した主著 Locked Room Murders and Other Impossible Crimes の中でも、本書を称賛し高く評価している。本書はそうしたエイディーの再評価によって注目されるようになった。
 しかし、そうした熱心なコレクターに対して、本書は再版されることなく、海外でも本作の原書の入手は非常に困難だった。まだ見ぬ不可能犯罪物の傑作として、訳者も時々ネット書店で検索をかけていたが、ほとんど見つからない。最終的に本書を手にすることができたのは幸運だったとしか言いようがない。本当ならここで、大いに誇らしく「まだ見ぬ傑作」の紹介をすべきかもしれない。
 しかし、少なからずいるはずだ。同じくエイディーが高く評価する作品を読んで失望した経験がある読者は。「密室物の傑作」では、往々にしてトリックが期待される。不可能状況と謎の解明のトリックには大きな落差がある。そして、魅力的な解決という読者の期待に応えた作品には、惜しみない称賛が与えられる。ただし、あまりに期待値が高すぎると、どんなトリックを読んでも不満が残るということもあるだろう。「密室物の傑作」とはそういう宿命を持っている(訳者にも世評ほど驚けなかった様々な「傑作」がある)。そういう期待をしてしまう人は、この作品にも失望させられるかもしれないことを念頭に置きながら読んでほしい。
 そもそも、密室や不可能犯罪物にはさまざまな種類がある。トリックの発想一つだけで一点突破した作品(エイディーの褒める『衣装戸棚の女』がその好例)、一つ一つのトリックは平凡でも多重解決を図ることで高い印象を与える作品、濃厚なサスペンスとオカルティズムで魅せる作品、あるいは小さなトリックを重ね合わせ雰囲気を盛り上げていく作品などなど。そして、本作も小さいトリックの重ね合わせに近い。一点突破のトリックを期待する向きには、そうではないとはっきり書いておきたい。
 考えてもみてほしい。このプロローグはどうだろう。状況説明もろくにない、不可能消失の数々だ。エイディーは絶賛するが、多くのミステリ読者はこう思うだろう。「こんな謎、合理的に説明できるわけがないじゃないか」と。そうなのだ。本作の不可能興味はあまりにも多く、派手で、合理的な解決など期待できないように見える。そして、敢えてまた言おう。すべてに満足できる解決がなされるわけではない。(中略)
 では、この作品はエイディーによって過大評価されただけの愚作なのか?――必ずしもそういうわけではないと訳者は思う。

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 続きはぜひ書籍版でお楽しみください! どうぞよろしくお願いいたします。


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