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折々のチェスのレシピ(252)ダニッシュ・ギャンビット

ということで、局面を戻します。

ここでe5は黒がダニッシュ・ギャンビット対策を熟知している場合、無理だということが判明しました。では、他の手として、

第2図

Qb3は有力に見えます。黒はf7の地点を受けなくてはいけません。

受けるとすると手段はこれだけです。しかしながら、今度は逆に白が守りの手を指さなくてはいけなくなります。初手からご覧ください。

やはり途中でキャスリングをされてしまい、ダニッシュ・ギャンビットの攻撃力が消されてしまいます。

第2図では、黒の別の手として、

これもあるわけですが、

数手進んで、上のように、やはりキャスリングをされてしまい、ダニッシュ・ギャンビットの攻撃力が消されてしまいます。

あれ、じゃあ、ダニッシュ・ギャンビットって使えないの? という疑問を抱かれても当然です。結論を言えば、ダニッシュ・ギャンビット対策を知悉している人に勝つことはかなり困難です。

じゃあなんでこんなに時間を掛けてダニッシュ・ギャンビットを分析したのか、と問われるかもしれません。まずは、定跡を自分で分析する際の手順を知ってもらいたかったというのが一番大きいです。今回ご紹介した分析手順はまだ序の口です。本来ならまだまだ検討しなくてはいけない合法手はたくさん残っています。

もうひとつは、ダニッシュ・ギャンビットを分析したことによって、この定跡を採用された時に対応策がわかったということが挙げられます。もうこれからは、ダニッシュ・ギャンビットをやられても慌てなくてもいいですし、怖くもないと思います。

最後に、これが一番訴えたいのですが、強くなる過程のどこかでダニッシュ・ギャンビットを使ってみてもらいたいのです。なぜかと言えば、ダニッシュ・ギャンビットには、序盤だけで、サクリファイス、アンパッサン、キャスリングの可否とタイミングやキャスリングをするならどちらにするか、急戦を仕掛けられるか否か、どこで守りの手を入れなくてはいけないか、などなど、チェスの基本的な技術や知識を体感し、それを身につけるのにうってつけの局面が詰まっているからです。

ひとつ朗報をお伝えするとすれば、ダニッシュ・ギャンビット対策を知悉しているプレイヤーは少ないです。それは、ダニッシュ・ギャンビットがどちらかと言えば(というよりとっくの昔に廃れた)マイナーな定跡のせいだと思いますが、この定跡をある程度マスターすると、スコアが低いうちは勝ちを量産できます。

個人的な話を少々すると、この「折々のチェスのレシピ」を書いている人は、何十年も前の話ですが、ダニッシュ・ギャンビットばかりやっていました。来る日も来る日もダニッシュ・ギャンビットだけ。この定跡に可能性を感じていたこともありますが、攻守が極端に入れ替わるスリリングさにも魅力を感じていました。そのうち、この定跡対策を知っている人にはまず勝つことができないということを知ってしまいましたが、それでも使い続けていました。無駄な時間のように思われるかもしれませんが、「折々のチェスのレシピ」を書いている人はこの定跡の体験と研究でチェスの基礎体力が養われたと今でも思っています。

ここで一旦、ダニッシュ・ギャンビットの連載は終えますが、この定跡にはご紹介しきれなかった華麗な手筋が眠っています。折を見てまたご紹介していく予定です。


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