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折々のチェスのレシピ(268)

ダニッシュ・ギャンビットを目指そうと思うと、厳密には初手e4と突くと、シシリアン・ディフェンスで対抗してくるプレイヤーがいます。いきなりダニッシュ・ギャンビットができなくなります。この時の白の対応も考えておかなくてはいけません。

黒の初手はc5です。シシリアン・ディフェンスにもヴァリエーションがあり、一番多いのは基本的なドラゴン・ヴァリエーションです。

シシリアン・ディフェンス(ドラゴン・ヴァリエーション)で黒は上の局面を目指しています。ここまで作られてしまうと白は今後かなり地味な駒組みを強いられます。例えば、しばらく進むと、

第3図

このような局面になることがあります。これはこれで形勢は白やや良しなので不満はありませんが、もう少し早くなんとかならないかと考えたくなります。ということで、検討してみます。

分岐点は、

ここになります。ここでNc3やd4ではドラゴンに合流してしまう可能性が高いため、ここで別の展開を指向してみます。

チェックが掛かりますが、これは有効でしょうか。黒の受けは二通りあります。

ナイトで受けてきたら、キャスリングしてまず守りの形を作るのがいいでしょう。

ビショップで受けてきたら、基本的には交換する以外は手損になります。

この二つのパターンで白は特に損もしていなければ得もしていません。よって、積極的に採用するような手筋ではありません。ということは、ドラゴンを受け入れてしまい、少しづつ良くしていくしかないというのが早くも結論になります。つまり、第3図を白としては目指すことになります。そこにはいくつかの岐路やポイントがあります。

まず、

この局面でf3としてナイトの進出をあらかじめ防いでおきます。これには主に、いずれe3に設置したいビショップを交換されたくない意図があります。初形c1のビショップは黒の守りを壊していく時に使えるため(これについては以前ご紹介しました)、温存しておきたい駒だからです。

ここまではほぼ直線的な変化ですが、ここからは相手次第で細かい変化に違いが出てきます。基本的には、白はビショップとクイーンの可動域を広げつつ、クイーンサイドへのキャスリングに備えますが、展開次第ではキャスリングをしないほうがいい場合もあります。また、右辺のポーンを盛り上げるようにして、相手キングにプレッシャーをかけていくことになりますが、ポーンは足の遅い駒なのでそれだけではなかなかうまくいきません。

じゃあどうしたらいいのだ?と聞かれそうですが、結論から言えば、これといった対応策はありません。白は少しづつ良くしていくしかありません。これは黒も同じことなので、中盤まではほとんど形勢に差がつきません。重要なのは、無理攻めをせず最初にミスをしないこと、これに尽きます。逆に相手が焦ってミスをした時に見逃さないこと、です。将棋を指す人は相矢倉のようなジリジリした展開を思い浮かべるかもしれませんが、大体そんな感じになります。

すぐに定跡を離れることが多いチェスですが、ドラゴンは比較的珍しくほぼ定跡や既知の手筋に沿って進行していきます。細かいポイントがいくつもあり、その意味ではチェスの醍醐味を教えてくれる定跡(ディフェンス)です。ドラゴン相手に勝ち切れるようになると、かなり力がついた証拠です。


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