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『酔いどれ天使』黒澤明全作イラスト&レビュー(7)

黒澤明レビューも7作目、本作は映画史にとって重要な作品です。なんといっても初の三船敏郎主演作なのです。
本作から三船敏郎&志村喬の最高タッグが始まりまり、何本もの世界の映画界に影響を与える名作が生み出されてゆきます。
ということで、今回からできるだけイラスト付でレビューしたいと思います。左が志村喬、右が若き三船敏郎です。この頃の三船敏郎の髪型がブライアン・フェリーみたいになってるw



ストーリーはこんなかんじ(ネタバレあり)
■駅前の闇市、メタンガスの充満する空気、沼地、どぶ川
小さな病院を営む真田(志村喬)のところに手にけがをした若いやくざが来た。やくざは松永(三船敏郎)。弾を摘出するとやくざの咳が気になる真田。治療代のことで取っ組み合いになるが、やくざの咳が気になる真田は大きな病院でレントゲンで見てもらえと忠告
■真田は助手として美代(中北千枝子)をかくまっていた。かつて岡田(山本礼三郎)という男にひどい目にあわされたのだがその岡田が近く出所してくる。
■真田は旧友の医師で大きな病院の経営をしている高浜から松永のレントゲンの様子を聞いた。松永は真田の言うとおりレントゲンを撮っていたのだ。
■泥酔して現れた松永、ポケットにはレントゲン写真。やはり結核だった
■路地の下手なギター弾き、出所してきた岡田がギターを代わりに弾くと見事な音色。そのメロディーを聞いた美代は岡田が出所して近くにいるとわかった。岡田は松永の兄貴分であった。
■喀血して松永は真田の病院に担ぎ込まれた。病院を抜け出た松永は
親分と岡田の内密の話を聞いてしまう。
親分は松永は先が無いので死んでもらって、なわばりを岡田に継がせる気だった。
■怒りに燃える松永は岡田を襲撃するが結核が悪化し刺されて死ぬ。
岡田は再度刑務所に入った
■松永の死を聞いた真田、結局やくざは足を洗えないのだと思った。
すっかり結核が良くなった患者の少女は真田に理性こそが病に勝つのだと話す


🎥志村喬が闇市の医者っぽくて素晴らしいハマり具合。まあ闇市の医者に会ったことは無いけどきっとあんな感じだろうなと思わせる。
よれよれの白衣が実に似合う、この映画の中に完全にハマりきっている。
一方で三船敏郎はこれまた存在感がすごいのだが、映画の画面からはみ出てしまっているかのようだ。
肩パットのがっつり入った服も異形のやくざ感が半端ない。
映画のフレームに見事に収まる志村喬とフレームを飛び出してしまう三船敏郎のコンビが素晴らしい。

本作ではねっとりとした闇市の沼地の空気感描写が実にうまいです。首筋の汗を拭く志村喬をみているとこっちまでねっとりした空気がまとわりついてくる。

本作では音楽が重要な役割だ。音楽に関してはただならぬこだわりを見せる黒澤さん。
「ジャングル・ブギ」の笠置シヅ子は戦後の空気感をうまく出してるし、路地から聞こえるギターの音色で美代が岡田の出所を知る場面は映画における音楽の使い方として1億点のすばらしさです。

セーラー服の少女(久我美子)は可憐なのだが、おそらく黒澤明の言いたいことを代弁する役回りであり一人だけ映画の中では浮いている感じがします。高校生とは思えないセリフ、「病気に勝つには理性が大事」というのはいかにも黒澤が少女に言わせたようなセリフですね、、、

ともあれ、現代のカオスな時代を振り返るにこのような説教おじさんは大事な存在にも思えます。

「理性が大事」というセリフもふまえると、黒澤にとって病気は何か戦後の混乱期を象徴するものであるようです。
このような『隠喩としての病』(ソンタグ)はいき過ぎると臭い感じになるんですね。
本作もギリギリ臭い。ただすんでのところで臭さを回避しているような気もするのはやはり沼地の空気感のリアリティ(ネオレアリズも的な)ではないかと思います。たんなる隠喩ではなく実際にそうだったという地に足のついた感じ、、、、

この臭みとリアリズムの葛藤が黒澤映画のダイナミズムのような気がします


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