見出し画像

【夢の記録】そしてどこにも行けなくなった

エレベーターの夢を、よく見る。

エレベーターには、私を含めて3人が乗っている。
私以外は男性で、一人は少し太った背の低い人、一人は痩せ型の背の高い人。

顔はよく見えない。偶然エレベーターに乗り合わせたもの同士、何かの儀式のように、三角形の位置で黙って立っている。

チン、という音がして、エレベーターのドアが開く。

ドアの向こうに見えたのは、ビルが立ち並んだ街だった。
「ここはニューヨークだな。僕はロサンゼルスの出身なんだ。だからここじゃない」

と太った男が呟いた。

そうなんだ、と私は思った。
海外に行ったことがない私は、街を見ただけではどこだかわからない。

エレベーターは静かにしまり、また動き出す。
上昇しているのか、下降しているのかすらわからない。

気にはなったものの階数を示す表示もないので、ただ黙って自分のマンションでドアが開くのを待つ。

またチン、という音がして、エレベーターのドアが開く。
そこは豪華な部屋の一室だった。
ヨーロッパにある家のモデルルームのような、あるいはホテルのスイートルームのような。猫足のテーブルと、銀糸で彩られた柔らかそうな白いソファー。白いレースのカーテンが風に揺れていたが人はいないようだった。

「ああ、ついた。ここは僕の部屋だ」

と太った男は言った。

わたしは聞いているような聞いていないような顔で黙って立っている。
だって知らない人だし。

男はなぜか少し降りるのをためらう。
わたしは不思議に思うが顔には出さない。
エレベーターは静かにしまり始め、男は慌てたように体を滑り込ませた。

お金持ちの人だったんだな、と思った。
と同時に、本当にあの人の部屋だったのかな、とも思う。
なぜ自分の部屋に入るのをためらったのか、
本当は自分の部屋じゃないのに見栄を張ったのか、それとも本当に自分の部屋だけど、帰りたくなかったのか。

いろんな想像をしているうちに、また違う階についたらしい。
開いたドアの向こうを見て、わたしはちょっとためらった。
そこはわたしのマンションの廊下に似ていたから。
だが、微妙に違う気もする。

廊下の色はこんなに暗かっただろうか。それに設置されているライトがオシャレすぎる気がする。

わたしのマンションに似ているけれど、そのものではなく、違う棟なのかもしれない。
一旦降りてから、歩いて自分のマンションに行けばいいのかと、夢の中で妙に現実的なことを考えた。

でも全然違うところだったらどうしよう。

ためらっているうちにドアは閉まってしまう。
あ!と思ったけどやっぱり顔には出さずに黙って前を向いている。

降り損なったんだな、と思われるのが恥ずかしかったので。

それから何度かエレベーターは開け閉めを繰り返し
その度にわたしともう一人の男は顔を上げて外を確認した。
そして、気づかれない程度に落胆する。

チン、と音がしてドアが開く。

エレベーターの前は道路が一直線に伸びていて、左側には田んぼが広がり、右側には一戸建ての家が並んでいた。

実家近くの風景に似ている。あるいは昔住んでいた会社の寮の近くにも。
要するに、どこにでもありそうな風景。

男はため息をついて
「もう、ここでいい。多分たどり着けない」
と呟き、降りていった。

自分の国ではなく自分の家でもないところで降りた男の行方をわたしは気にしない。
ただ「一人になってしまった」とだけ思った。

エレベーターは上昇(あるいは下降)し続け、ドアが開くたびに自分の家とは違うことに、焦りと不安を覚える。

降りてしまえばいい、と思った。

一回降りて、日本だったら駅に、違う国だったら空港に向かって自分の足で帰ればいいじゃないか。
そう思うのに、なぜか動き出せない。
だって次に開くのはわたしのマンションのいつもの廊下かもしれないのだから。

迷ってるうちに、ガタンっと今までしなかった大きな音がした。
エレベーターは緊急停止し、ライオンの飾り物(ローマの休日で見たライオンの口のような飾り)がどこからか落ちてきた。

壁に設置されていたらしい。
(こんなにインパクトがあるデザインなのに、気づかないとはさすが夢である。)

ライオンの口の中には歯車が見えて、ああこの歯車でエレベーターは動いていたのか、とわたしは思った。

どうしよう、と思って一旦歯車を取り出し、修理しようと考えるが、同時にできるわけないとも思う。

もうどこにも行けない。


・・・そして目覚め








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?