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アスリートと生理100人プロジェクト VOL.10 :発信することの「怖さ」、それでも埋めたい“男女の差”とは

「ノーノーマル」を掲げるReboltが、世の中に存在する「ジェンダーの当たり前」に問いかけるべくスタートした「アスリートと生理100人プロジェクト」。

日々挑戦し続けるアスリートは、生理とどのように向き合ってきたのか。そのリアルな声を、生理で悩む人たちへの解決策・周囲がサポートするきっかけへと繋げることを目的としています。

第10回目となるアスリートと生理100人プロジェクト13人目のゲストはラグビー選手の村上愛梨選手。

ラグビーだけでなく野球やバスケットボールなどさまざまな競技を経験されている村上選手から、競技ごとの生理の悩みなどを詳しくお聞きします。

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東京出身。1989年11月11日生まれ。中学までは野球、そして高校から社会人までバスケットボールをプレー。現在はラグビーに転向し、東京のラグビーチーム「横河武蔵野アルテミ・スターズ」に所属している。ラグビー(15人制)女子日本代表に選ばれ国際試合出場の経歴を持つ。


【今回のインタビューを振り返って】
下山田:生理に関するエピソードを、ユーモアたっぷりにお話していた姿が印象的だった村上さん。それでいて、周囲との関係や発信の仕方など、ものすごく悩み考え続けている姿勢も垣間見えて、人間らしい魅力が伝わるインタビューです。

白いユニフォーム、競技ならではの生理の悩み

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ー野球からバスケ、そしてラグビーと、トップレベルでの経験があるとお聞きしています。それぞれの競技を行う上で、生理に悩んだ経験はありますか?

村上:野球をしていた頃は小学生だったので、そこまで印象には残っていません。バスケは社会人になるまで13年間やってきたのですが、ラグビーと比べて動きの切り替えが多いのでナプキンが擦れることが多くて...。とても痛かったですね。

ープレーの動きがそのまま悩みに直結していたのですね。

そうですね。あとは、バスケは「白と黒」「赤と白」といったように濃淡でユニフォームを分けるのですが、白いユニフォームのときに経血がモレるとすぐに分かってしまいます。でも当時の自分は知識上ナプキンという選択肢しかなかったので、とても辛かったです。

ーラグビーではどうでしたか?

バスケに比べてユニフォームは分厚くなるので、多少モレてもあまり見えませんでした。ただ、ラグビーは独特なプレーも多いので、そういった面では気になる部分はありましたね。

あとは競技関係なく生理前になると偏頭痛がひどかったので、かなり悩んでいました。


骨折はかすり傷、とはいえ気になる問題

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ーラグビーはユニフォームのズボンが短いですが、気になりますか?

村上:最初はとても抵抗がありました。バスケからラグビーへの転向だったので余計に。でも生理に関しては、長いスパッツを履くので特に問題はありませんでした。

ースパッツを履くことで対策していたのですね。

ただ、どのスポーツでもそうだと思いますが、試合中は気にしている場合ではないので経血が流れてしまっていても関係なくプレーを続けることになります。試合中に生理がきてしまっても抜けたり中止にしたりはできないので。

ーラグビーは身体の接触が多いですが、いかがですか?

村上:私はフォワードの中のロックというポジションなのですが、スクラムを組むときに3人いる最前列の一番端にいる選手の股に手を入れます。股に手を入れて、3人の間に頭を突っ込むときに相手が生理だと気になることもありますね。

逆に後ろの人に頭を突っ込まれるときには自分が生理だとにおいとか不安になることもあります。試合では少しの時間だけですが、練習だと何度も行うので...。

ープレーする上では仕方ないと考えられているのでしょうか?

村上:そうですね。骨折もかすり傷って言ってしまう競技なので、みんなあまり問題にしないでいるのかなと感じます。

ーなるほど。生理前になると偏頭痛になるとのことでしたが、その場合練習は休むのですか?

村上:今は薬を飲んだりしてそのまま練習入ります。逆にバスケのほうが練習が長かったので、休むことはありましたね。


チームによって異なるサポート体制

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ー今のチームでは偏頭痛のときはどういう対応をされているのですか?

村上:今は2チーム目で「横河武蔵野Artemi-Stars」に所属しているのですが、自分の身体を第一に考えてくれます。身体の不調などがあればすぐに休ませてくれて、選手のことを優先している姿勢がとても伝わってきます。

外国人の監督なのですがとても理解があるし、トレーナーさんも生理のことなどについて親身になって相談に乗ってくれます。

ーチーム全体で生理に対する理解があるのですね。

はい。あとはチームのクリニックがあるのですが、そこの婦人科の先生を呼んで診察してもらったりと、とても安心感があります。

ー前のチームとは対応などが違いますか?

村上:そうですね。チームによって良いところ悪いところがあって、今のチームではサポート面がかなり良かったということなのだと思います。前のチームも良かったところはたくさんあったので、どこも全然違うチームですね。


選択肢がないからナプキンを使う

ー村上選手はピルを使用したことはありますか?

村上:ありません。痛み止めの薬を使ってなんとか生きてきた感じですね。

ーピルを使用しようと思ったことはありますか?

村上:婦人科に行くことに対してすごく抵抗があって。「ピルを飲めば生理をコントロールできるし楽だよ」とはよく聞くのですが、やっぱり婦人科に行くことができないのです。

ピルを使用しないにしても、定期的に検診は受けたほうが良いのでしょうけど...。「なんでこんなに嫌なんだろう?」というほど嫌なのですよね。

ーそれでは、ずっとナプキンのみを使用しているのですか?

村上:そうです。でも外国人の選手とかからは「どうしてタンポンを使わないの?」「使ってみたら良いじゃん」などと言われます。

タイの遠征時にすごい経血量だったので仕方なく使ってみたらとても良かったのですが、今も使ったり使わなかったりです。うまくいくときといかないときがあるので、ナプキンで済ませることが多いですね。

ーではナプキンを使う理由としては、「仕方ないから」でしょうか?

村上:そうですね、それしか選択肢しかないので。月経カップとかも見かけますけど、形を見るだけで体内に入れるなんて考えられないですね...。


相性の悪い、雨×生理用品

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村上選手のInstagramより引用 雨の日の動画

ー試合や練習中にナプキンが落ちることはありますか?

村上:落ちているのはみたことあります。ただ、おそらく多くのチームメイトがタンポンを使っているのだと思います。タンポン+小さめのナプキンといった形で。なので頻繁に落ちているといった訳ではないですね。

でもモレが心配な子は30cmくらいの大きめのナプキンを使ってたりするので、ムレはすごいと思います。試合も80分と長いので...。

ー競技時間が長いことで生理の悩みも大きくなるのですね。バスケでの悩みはお聞きしましたが、ラグビーではいかがでしょうか?

村上:私はアトピーを持っているのでムレによるかゆみや痛みが結構ありますね。スポーツはわりと天候関係なく練習や試合が行われると思うのですが、雨の日に「ナプキンってこんな大きさだった?」というくらい大きくなることがあります。プレーの性質上、お尻から地面に転ぶことが多いので。

ーナプキンが血だけでなく雨まで吸っているということですね。

村上:はい、それがとても重たくて。加えて、ナプキンだけでなくタンポンにまで雨の影響があります。

ーナプキンを超えてタンポンまで水で膨らむのですか?

村上:膨らむというより、水っぽくなりますね。これまでは練習さえ乗り越えられれば良いかなと過ごしていましたが...。知識が増えれば選択肢も増えると思うので、それこそ吸水パンツの存在などは他の人に教えてあげたいですね。

「生理の捉え方は人それぞれ」と伝えたい

ー生理用品のデザインについて、気になる点はありますか?

村上:レジに持って行くのが恥ずかしいと思うほど、パッケージのデザインが気になります。買いに行くのも嫌で、社会人3年目まではパートナーに買ってきてもらっていました。

ーパートナーさんに代わりに行ってもらっていたのですね。

私はパートナーが女性で、社会人の3年間は秋田にいたのですが全然理解してもらえない地域もありました。ただ、理解されないことは分かっていたので...。でも自分を変えることはできないので、デザイン面では生理用品を使うのが苦しかったですね。

ー「生理というものが自分にくること」に対してどう捉えられていますか?

村上:私はトランスジェンダーではなく、子どもも産みたいと考えているので、生理については「子どもを産む準備」かなと。将来子どもを産むためになくてはならないものだと思いますし。

あとは体調が悪くなると生理が止まったりすると思うのですが、「今回も生理が来たから身体は大丈夫か」といった判断材料にもしています。ただ生理に対する対応だけが本当に苦痛ですね。

ー女性として生まれてきてLGBTQの当事者となると「生理がくるのが嫌ということ?」「そもそも子どもを産みたくないのでしょ?」と思われてしまうこともありますか?

村上:最初から決め付けられることはありますね。

LGBTQの当事者でパス度(自分が認識している性自認が、外見上第三者から認識されているかどうかを表す度数)が高いと、治療したいと考えている人と思われやすく、友達にもそう言われたりします。

ーみんな一人ひとり異なるのに括られてしまうのですね。

村上:本当にそうです。LGBTQ+という言葉ができたのは良いと思いますが、それによって括られることが多くなりました。私は自分のことをひとりの人間としか思っていないのですが...。


男女の差を埋めるためにも動きたい

ーアスリートと生理100人プロジェクトは、「ノーノーマル」を掲げるReboltが、世の中に存在する「ジェンダーの当たり前」に問いかけるべくスタートしたプロジェクトです。これは女子サッカー界や女性スポーツ界にいる中で、「女の子だから」「女性だから」という「ジェンダーのアタリマエ」で選択肢が制限されることが多いと感じてきた経験から生まれたビジョンです。

今回、村上選手から、女子サッカー界や女性スポーツ界の「ジェンダーのアタリマエ」があれば、ぜひ教えてください。

村上:今、「スポーツを止めるな」という活動がありますが、男子ラグビーは(コロナ禍の中で)プレーできるのに女子ラグビーは試合をさせてもらえないことが結構あります。

私が出ているリーグは無観客で、どこで試合をしているのかも口外できません。でも男子は観客が入っていて。大きいスタジアムで試合があるというのも関係しているとは思いますが、男女の差もあるのかなと感じます。

ーなるほど。

メディアでも男子に比べて女子は取り上げられることがなく、ラグビーが有名になっても「女子ラグビーなんてあったの?」と言われることもあります。対応や知名度において女子と男子で全然違うなと感じますね。

ーさまざまな場面において男女での差を感じているのですね。

村上:はい。でも、不満に思うなら行動したら良いと思うのです。各チームのリーダーを集めて選手団とかを作って、男女の差を埋めることができないかなといつも考えています。

私が言っても影響力がないかもしれませんが、ラグビー界のひとりとして動いていきたいなと考えています。


~収録の裏話~

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ー(下山田)中にいる選手の考えを発信することはとても大事だなと思っていて。先ほどもおっしゃっていたように、メディアに取り上げられる機会が少ないからこそ自分自身で発信する場所を作ることが求められているのかなと感じているので。ラグビー界が結束したらすごく大きなパワーになりそうだと思いました。

ー(内山)村上さんを筆頭に動いていくのはすごく面白そうだし、自分たちも関わって行けたら嬉しいし、何かを一緒にやっていきたいですね!

村上:最近私もInstagramやTwitterでLGBTの当事者であることを発信し始めているので、発信することの「怖さ」はものすごくわかります。だからこそ、私に賛同してくれる人がいるのか不安で...。

村上選手はさまざまなSNSを通じて発信を行っている
Twitter     :https://twitter.com/jinwagorira 
Instagram: https://www.instagram.com/jinairi5/?hl=ja
note:https://note.com/jampwin
『誰も1人にしない』LGBTQ🌈相談所無料LINE:https://line.me/R/ti/p/%40909pwgrb

サッカー界では下山田さんがまず始めに発信したと思うのですが、ラグビー界ではおそらくまだ私だけなので。でも発信することについてもっと考えないといけないなと思いますね。

ー(下山田)私もそう思っています。

ー(内山)発信することは大きな「覚悟と責任」が伴うと考えていて。自分たちも身を持って感じているからこそ、発信している人は素晴らしいと思います。なので、発信している人たちを「応援している」「仲間として一緒にやってきたいと思っている」という気持ちをもっと表していくことは大切だなと改めて感じました。自分も村上さんのこととても応援しています。

村上:すごく熱くないですか?とても嬉しいです...!(笑)

ー(内山)さまざまなことをお話ししていただきましたが、今回もいろんな方に聞いていただきたい内容になっています。村上選手、貴重なお時間とお話を本当にありがとうございました!


(編集:仮谷真歩)


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