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アスリートと生理100人プロジェクト VOL.12 :まさにビリヤード“ならでは”の悩み、フォームやお客様との距離による問題とは

「普通はこうあるべき」をなくし、全ての人が自分の心と身体にあった生き方を選択できる社会を目指す「アスリートと生理100人プロジェクト」。生理を切り口に、競技も個性も悩みもちがうアスリート100人の生き方をお届けします。

第12回目となるアスリートと生理100人プロジェクト16人目のゲストはプロビリヤードプレイヤーの丸岡文子さんです。

ビリヤードは2024年のパリオリンピックの競技参入を目指して世界ビリヤードスポーツ連合やフランスビリヤード連盟が動いているなど、たくさんの魅力を秘めているスポーツです。今日はスポーツとしてのビリヤードの魅力をお聞きしつつ、ビリヤードプレイヤーとして生理とどのように向き合ってきたのかをお聞きしました。

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丸岡文子さん
神奈川県出身。1983年10月1日生まれ。横浜市鶴見区にあるビリヤード場「アロウズビリヤード」を運営し、プロビリヤードプレイヤーとして活動。2018年に第10期女流球聖位に就き、2019年には初のタイトル防衛に成功。2021年1月にプロ入りを果たす。
【今回のインタビューを振り返って】
下山田:正直、暗い地下室で(なんでこのイメージが生まれたのかは謎)、タバコをふかしながら怖い人たちが球を突き合っているイメージが強かったビリヤード。丸岡さんにインタビューさせていただいて初めて、ビリヤードもスポーツであり、ビリヤードとともにある生き方のカッコ良さに気がつくことができました。生理を切り口に、考えたこともなかった気づきを得ることのできるインタビューとなっています!


プロとアマチュアの違い、ビリヤードの魅力とは

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——世界ではスポーツとしての認識が高いビリヤードですが、日本ではこれから伸び代のあるスポーツであると認識しています。丸岡さんはプロとして活動されていますが、ビリヤードのアマチュアとプロの違いについて教えて下さい。

丸岡:私は2021年1月にプロ入りしたので、まだあまりプロとアマチュアの違いをわかっていないかもしれません。

これまでずっと日本の一番大きいアマチュアのビックタイトルを獲ろうと頑張ってきて、去年と一昨年にそれを獲ることができたのでプロになる決意を固めました。

——アマチュアを突き詰めたからプロになる、という感覚が不思議ですね。では、プロになろうか悩んでいた時期もあるのでしょうか?

丸岡:もちろんあります。私は結婚していて子どももいるのですが、旦那もプロでビリヤードをやっています。一緒にプロになってしまうと、試合日が重なると子どもを誰に預けるのかという問題などがあるので。

「あなた3年間やってよ、それで辞めたら私やるわ」と約束をしてたのですが、旦那がプロをやり始めたら楽しくてやめられなくなってしまって。

そんな中、私がアマチュアのタイトルを獲ったので、「もうプロになっちゃおう」と決めました。

——夫婦で同じ競技だとそのような悩みがあるのですね...!

丸岡:サッカーやバスケのプロとは違い、ビリヤードは生涯スポーツなので歳をとってからもできるスポーツです。

週に5回はビリヤードをしているのが当たり前で、生活リズムの中にビリヤードを置いています。さらには寝る時間を削ってでもビリヤードをするので、アマチュアもプロのような生活を送っている感じですね。

——なるほど。そこまで熱中できる丸岡さんにとってビリヤードの魅力は何ですか?

丸岡:ビリヤードは簡単に言えばただの球転がしなのですが、その魅力は球を自由自在に操れることですかね。年々うまくなっていくのを実感できます。

歳を取ると目が見えにくくなったりすると思いますが、感覚はどんどん研ぎ澄まされて逆にうまくなっていくのでとても不思議な競技です。

——面白い、歳を取ると体力的なキツさがどうしても出てしまうサッカーなどの競技とは全然違いますね!

丸岡:ビリヤードは精神的に落ち着いた状態で止まっている球をつくので、サッカーでいうとPKに近いかもしれないです。なので、常にメンタルがヤバイです(笑)

入れるのが当たり前で、「ナイストライ」とか「惜しい」という言葉もありません。外したら回ってこないのがプロの世界なので。


競技中の選択肢が変わる『PMSの影響』について

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——ビリヤードをする上で、生理が邪魔だと感じる瞬間はありますか?

丸岡:ビリヤードの試合は1時間前後と長く、試合中にタイムアウトを取ることができますが、ルールにより1回のみと決められています。なので生理用品を持っていないときに生理がきたら困ってしまいます。

あとは、PMS(※1)の影響でマイナス思考になる時がありますが、生理痛でビリヤードに集中できないなどはあまりないですね。

※1...月経前症候群。月経前、3~10日の間続く精神的あるいは身体的症状で、月経開始とともに軽快ないし消失するものをいいます。人によって症状は異なりますが、情緒不安定・イライラ・集中力の低下や、身体的症状として腹痛・腰痛・むくみなどがあります。

——先ほど、ビリヤードは精神的に落ち着いた状態で球をつくスポーツだとおしゃっていましたが、PMSで精神的に落ち着けなかった経験はありますか?

丸岡:しょっちゅうありますね。生理不順なので2ヶ月に1回、最悪10ヶ月に1回しかこないときもあって。

なので、前回の生理から期間が空いてしまったときはPMSの症状がかなり強くでますね。そうすると、競技中にイライラして負けます。選択肢が変わってしまうので。

——選択肢、というのは?

「入れるだけ」がビリヤードではありません。例えば、入れられない球が回ってきたときは、無理して入れようとするのではなく、そのあとに相手に入れられないように「球を隠す」という選択肢があるのです。でもイライラしていると選択肢を間違ってしまう。

「外すのは嫌だから隠そうかな」とか「相手に難しい球を回そうかな」など、弱気になっているなと自分で感じます。

——ビリヤードって深いですね...!

丸岡:生理中はいつもと比べて多少性格が変わると思うのですが、それがそのままプレーに現れますね。

——イライラしている状態を整えるための行動や対策はありますか?

丸岡:本当はトイレに行って叫びたいくらいです(笑)でも何をしても楽にならないから苦しいですね...。

私は生理が来る前日が一番辛くて、生理が来ると鬱憤が晴れて全ての雲が晴天に変わるような感覚です。とにかくそこまでが大変ですね。

——そうなると...生理前より生理中の方が競技に集中できるということでしょうか...?

丸岡:そうですね。力が抜けてちょうど良いかもしれないです。考えすぎると筋肉が硬直して球が外れるもあるので、考えすぎない方が良い時もあります。


顔にお尻が向くことも...ビリヤードならではの悩み

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——競技中はどんな生理用品を使いますか...?

丸岡:多い時はタンポンか多い日の夜用のナプキンをつけます。3~4ヶ月生理がこない期間が続くとすごい経血量になるので、1日で夜用のナプキンを5~6枚取り換えたりしますね。

——1日で...!夜用ナプキンはサイズが大きいですが、競技中にゴワつきなど気にならないのですか?

丸岡:気になります。例えば、お店でお客様とプレーするときは台を何人かで共有するので、席に座っているお客様の目の前にお尻を向けて構えることもあって。大きい生理用品をつけているとお尻のラインがくっきり出てしまうので嫌ですね...。遠目でも見えますからね。

ー他競技ではあまりない悩みですよね...。顔が近くになくても、お尻を突き出すフォームのときは生理が気になるのでしょうか?

丸岡:そうですね。いつも漏れていないか心配ですし、生理の時や生理前は黒いズボンを履いています。

ビリヤードにはキュー(棒)につけるチョークという滑り止めがあるのですが、その青いチョークが洋服に絶対ついてしまうので、白い洋服を着ている人は少ないと思います。そういった意味でも、基本的に黒のズボンで試合をするものなので助かります。

連盟のサポートも生理で休む選択肢もナシ

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——他競技では、所属チームのトレーナーや協会の講演会など、さまざまな手法の生理に対するサポートをお聞きしています。ビリヤード界では生理のサポートは何かありますか?

丸岡:サポートは何もないですね。「生理だから休んでいいよ」とかもありません。女として女子のプロでやっている以上、同じハンデは持っているので。

——例えば生理痛で大会を欠席した場合、なにか罰則等はあるのでしょうか?

丸岡:いえ、キャンセル料がかかるくらいですね。

プロと言っても試合にエントリー費がかかります。もし当日に欠席と言ったら、罰則とかはありませんが信頼に関わるのではないかと思います。なので生理といえど、みんな大会に行くのではないでしょうか。

——それは少し休みにくいですね。

丸岡:そうですね。アマチュアだったら日曜日だけが試合ですが、プロだと金曜日入りして土曜日に予選、日曜日に本戦と3日間必要になります。

ビリヤードのプロは仕事をしながらの人がほとんどなので、有給を使って金曜日休んだのに、生理がきたから行かないという選択をする人はあまりいないと思います。

——休みを3日間確保していることも関係しているのですね。

丸岡:そうですね。休みに加えてエントリー費や旅費などもかかっているので、生理だけでそれが全てパーになってしまうのはもったいないと考える人が多いと思います。

——本当にさまざまな要素が絡み合っていますね...!ビリヤード界では生理に関する相談先などはあるのですか?

丸岡:絶対ないです。お腹が痛いのを忘れよう、薬を飲もうという考えですかね。

——なるほど...ビリヤード界として連盟が先頭に立って、選手に「こういう食事をしたら良いよ」など伝える活動もないのでしょうか?

丸岡:食事もコンディションの管理もないですね。個人ではストレッチには気を使っていますね。利き手ばかり使っていると体に偏りが出てしまうので逆手をつかう練習などします。基本的に自ら行うものになります。

ビリヤードを始めたのは「男の人と対等に戦える」から

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ご主人さまとの対戦でお子さまをあやしながら試合をする丸岡さん🎱

——株式会社Reboltは世の中に存在する「普通はこうあるべき」をなくすべくアクションし続けています。これは、創設者である私たちが「女の子はこうあるべき」「女性はこうあるべき」という「普通」によって、生き方を奪われてきたと感じてきた経験から生まれています。そこで、丸岡さんがビリヤード界や日々の中で感じた「普通はこうあるべき」があれば、ぜひ教えてください!

丸岡:ビリヤードを始める前の趣味がバイクとスノーボードだったのですが、スノボではジャンプは低いし速度も遅いしどうしても男性に勝てなくて。

その仲間でビリヤードに行く機会があったのですが、小さなテーブルで球をつくだけだから大差ないかなと思っていたのに、見事に負けて。その次の日にキューを買いましたね。

——そういったきっかけでビリヤードを始めたのですね。

丸岡:私がビリヤードを始めたきっかけは「男の人と対等に戦える」からです。たくさん練習してある程度のクラスには勝てるようになったので、ある程度は「差がないスポーツ」だと思います。ただし、プロの世界は全然レベルが違いますね...。

同じ台上を、そんなに強いスピードでつくわけではないのに、なんでここまで違うのだろうと不思議に思うこともあります。男女で筋肉量が違うから球の動かし方とか軌道のラインが操れるんです。女に生まれた以上、仕方ないことだし、力だけは男子に譲っていると思えば私は納得しましたね。

——丸岡さんがビリヤードをはじめたきっかけは、まさにジェンダーにおける「普通はこうあるべき」を超えて楽しめることだったんですね…!


~インタビュー後~

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——(下山田)ビリヤードのゲームにはいろんな種類がありますが、ゲームによってはハンデがなくても戦えるのでしょうか?

丸岡:ハンデがなくてもやれるゲームもたくさんあります。例えば「交互ブレイク」という同じ回数のチャンスが回ってくるものがあって。外してしまったらもちろん相手のターンになりますけど、同じチャンスがある分、男子と女子の差は少し縮まりますね。

——(下山田)ゲームの形式によって楽しみ方が変えられるのはすごい魅力ですね。

丸岡:そうですよね。しかも今はコロナの影響もあってオンライン試合もあるんです。本来であれば無理ですが、交互ブレイクでやっていけばオンラインでも試合が可能になります。

——(内山)違う会場で行うということですか?

丸岡:そうです、ZOOMなどを使って違う会場で行います。ただ、それも結局プロプレイヤーが立ち上げているんです。スポンサーが少なくて付きにくいので、プロプレイヤーが立ち上げてスポンサーを探すという。

そのくらいやらないと、メジャーな競技になっていないので...。これからもっと発展させていきたいと考えているのですが。

——(下山田)なるほど。今日お話しをお聞きしていても、ビリヤードって面白いなと思ったので、今回をきっかけにみてくれる人が増えたら嬉しいなと思っています。

——(内山)やってみたくなっちゃいましたもん、丸岡さんのお話を聞いたら!

丸岡:やるべきだと思う。いろんなスポーツ選手に言っているのですが、スポーツ人生が終わる瞬間って絶対どこかであると思うんです。

例えば37歳でサッカーをやめて、その後コーチとかにはなれるけど、「自分も何か新しいことやりたいな」っていうときに一から始められるんです。どうですか?

——(内山)良いですね!これを読んでいるみなさんにもやってみて欲しいですね。

丸岡:インドアだから雨が降っても雪が降ってもできるし、台風がきても問題なし。年末年始でもやっています。

——(内山)年末年始も!

丸岡:年中無休です。ユニフォームや着替えがなくてもできるし、棒もお店にいけば基本全部あるので。

私みたいな個人店のビリヤード場を持っている人は店員さんがプロかアマチュアかビリヤード好きだったりするので、ちゃんと言えばだいたい教えてくれますし。

——(下山田)ではアロウズさんにお邪魔したら丸岡さんに教えてもらえる...?

丸岡:もちろん。どんどん教えちゃいます(笑)

——(内山)ありがとうございます!(笑)

丸岡:あともう一つ最後に、ビリヤードってハスラーブームがあったときに、「タバコを吸っている」「暗い」「怖い」などのイメージがあったのですが、今はそんなことないです。

明るいし、分煙になっているし、ビリヤードを楽しむところなので。もう昔の悪いイメージは取っ払ってぜひみなさん来てください!


(編集:仮谷真歩)

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