見出し画像

アスリートと生理100人プロジェクト VOL.2 : 高校女子サッカー部を指揮する指導者が話す「話をしてもらえる関係」の大切さ。

「ジェンダーのアタリマエを超えていく」をビジョンに掲げる株式会社Reboltが企画する「アスリートと生理100人プロジェクト」。日々挑戦し続けるアスリートは、生理とどのように向き合ってきたのか。そのリアルな声を、生理で悩む人たちへの解決策・周囲がサポートするきっかけへと繋げることを目的としています。

第2回は、流経大柏高校の女子サッカー部で監督を務める浦田佳穂さん。(略:かほさん)2018年まで、当時なでしこリーグ2部のニッパツ横浜FCシーガルズで選手としてプレー。その後、順天堂大学でスポーツ科学・コーチングを学んだ知見を活かし、指導者の道へ。

選手としても人間性を高く評価されていたかほさんが、高校生年代のアスリートと日々過ごす中で感じる生理の問題、指導者に求められていることとは何か。生理で悩む選手や生徒を、支える立場の人は必読です。

画像1

浦田佳穂
流通大柏高校女子サッカー部監督。静岡県出身。幼稚園の頃からサッカーを始め、中学校から日本サッカーのエリート校JFAアカデミー福島へ。高校卒業後、順天堂大学へ進みスポーツ科学・コーチングを学ぶ。2018年までニッパツ横浜FCシーガルズで選手としてキャリアを積み、引退後は指導者の道へ進んだ。


生理の思い出は”ハプニングだらけ”な現役時代

画像2

-2018年まで、かほさん自身も女子サッカー選手としてキャリアを積み上げていましたね。現役時代に生理に対して悩みは抱えていましたか

私は生理痛のような身体的な悩みはなかったけど、生理に関するハプニングはたくさんありました。練習中にナプキンが落ちてみんなで隠すこともあったし、ナプキンのズレも。ナプキンのズレはよくありすぎて「"ナプズレ"して痛い」って略称までありました。

あとは、遠征などで環境が変わると急に生理がくることも。遠征先で「やばい、誰か生理用品持ってる?」と聞いていました。

画像3

(JFAアカデミー福島時代の写真。後列右から2番目の選手がかほさん)

アカデミー(JFAアカデミー福島の略称)のサブユニフォームが白で、ハーフタイムに「ズボンに赤いのついてるよ」なんてこともありました。貴重な10分のハーフタイムがトイレで終わってしまうこともあったな。

-ズレやモレに対して、何か対策はしていましたか

絶対に生理用品のメーカーを変えなかった。これだって思ったものをずっと使っていました。他の生理用品を使ったら股ずれが起こるんじゃないかって怖くて、変えられなかったのかも。

-では、生理用品はずっとナプキンを使っていたのでしょうか

大学に入った時、初めてタンポンに出会いました。高校の頃はタンポンを使う人があまりいなくて。大学の友達に水泳選手がいて生理の話になったんだけど、水泳はタンポンが当たり前だから「絶対楽だよ」って教えてくれたのがタンポンとの出会い。その後からはずっとタンポンを使っています。タンポンへの抵抗はあったけど。

-その抵抗の理由は何でしょう

“入れる”ってことに対しての嫌な感じ。その作業をしてるんだって思われるのが嫌でした。

-なるほど。タンポンにしてから、ラクさは違いましたか

違います、気にならなくなりました。試合中にナプキンがズレたり、雨の日の試合のあと、パンツの中でナプキンがどこにいったか分からないことがない。タンポンにしてからは、生理だって感覚がないのが楽でした。

-ズレやモレ以外に、痛みなどの不調はありましたか

自分がではなくて、チームメイトで生理痛が強い人がいました。生理痛が理由では練習も休みづらくて、無理矢理参加して苦しそうだったのはよく見ていました。

部内やチーム内であれば、日頃から一緒に過ごしているから理解があるけれど…。U-17の代表合宿の時に生理痛がひどい子がいたんです。合宿が4日間しかない中で、アピールの時間でしかない1日を生理痛で休むことに泣いていたんです。生理痛の辛さは分かってはあげられないけど、休むことに対する悔しさは分かりましたね。


「100%を最初から最後まで」生理の悩みを伝えられる環境を

画像4

-かほさんが指導者の立場になって、指導するチームで生理に関して対策をしていることはありますか

選手の話を聞くようにしています。生理の話をしてもらえる人間関係を作らなければいけないなって。選手が生理痛だと言えずにプレーをしても、うまくいくわけない。指導者である自分が知らない状況でプレーをされても嫌だし、無理せずに言ってもらえるような雰囲気作りが大事だなって思います。

普段、選手とのラフな会話の中で生理時のハプニングの話をすると「それ、あるあるですよね」って盛り上がることもあります。そうすると、生理の話も恥ずかしがらずにしてくれたりするんです。

-なるほど。生理の話ができる関係づくり、すごく大切ですね

2020年から、流経大柏高校の女子サッカー部で指導者をしていますが、全員分のカルテをクラブで管理しています。そこには既往歴も書かせるし、生理痛や生理の悩みも書かせています。チームのトレーナーが鍼灸師の子で、生理痛がひどい子には生理痛に関係するストレッチや筋トレをレクチャーすることも。それにプラスして、体温や体重を書く紙を毎日提出してもらっているのだけれど、そこには生理の欄もあって。練習前に提出してもらって、チェックしてから練習後に返すようにしています。

-徹底していますね

自分の教育論として、100%の身体でプレーできることが選手にとって1番だと思っているのできつい時に頑張れるんじゃなくて、頑張る身体を保ち続けられる。自分の100%を超えてやれではなくて、100%を最初から最後まで保てるところからスタートしたい。

その考えを普段から伝えているから、選手も「今日は生理痛がキツイんです」と言いにきてくれる。それは、怪我に関しても同じで「痛いのでここまででいいですか」って意見が選手から出てきます。

-なるほど、すごい。100%の状態で練習をスタートしようって基準は選手も分かりやすいと思います。しかも、普段から指導者と生理の話ができているとなれば、風通しがとても良い環境ですよね

今までの高校サッカーの概念を変えたいよねと指導側では話しています。練習で休んだら次の週の試合に出れなかったり、次の日はずっと走らされたり。怪我してるってことも、生理痛できついってことも言えない。それは人権として違うと思います。3年間の限られた時間をきっちりと過ごさせてあげたいから、今から生理の悩みを言える環境や言える人たちを用意してあげたい。私に言いづらかったらトレーナーでも良いんです。人によって言いやすさがあると思うから、個別に対応してるよって。


高校生年代特有の問題は「知識の少なさ」

画像5

- 生理の話を選手がしてくれるとのことですが、かほさんから見て高校生年代特有の生理の悩みはありますか

知識が少ないのは問題だと思います。自分以外が、生理に対してどのように考えてるのかの情報が少ない。高校1年生の中学からあがったばかりの子は、恥ずかしがって生理の話はできないこともあると思います。

知識が本当に少ないからこそ、こちらが与えてあげなければいけない。生理に関しては元の選択肢が少ないので、コーチングではなくティーチングから入らないといけないと考えています。生理痛は我慢するしかないと思っている子もいますが、生理痛を和らげる食事法やストレッチ法、筋トレもあると選択肢を与えてあげる。そうすると「そんな方法もあるんだ」と選手の間で新しい選択肢が広がっていく。だから、こちらが与える知識は大切だと思っています。

-確かに、選択肢が少ないですよね。我慢以外の選択肢を指導者が教えてくれたら違うんだろうなあ。

指導者全員が、教えられるだけの知識を持っている訳ではないですよね。女性指導者だからこそ理解できることもあります。男性指導者が積極的に生理について勉強するかと言われたら「俺は分からない」「難しいよね」で片付ける人が多いです。

-- 現場にいても指導者の知識不足を感じているんですね。


教育現場に根強く残るジェンダーのアタリマエ

画像6

-最後の質問です。Reboltは「ジェンダーの当たり前を超えていく」をビジョンに掲げています。これは女子サッカー界や女性スポーツ界にいる中で、「女の子だから」「女性だから」という「ジェンダーのアタリマエ」で選択肢が制限されることが多いと感じてきた経験から生まれたビジョンです。

かほさんの中で、現役時代・そして指導者をしている中で感じた「ジェンダーのアタリマエ」は何かありますか

男はこうあるべき、女はこうあるべきっていうのが社会のアタリマエだと思い込んでいたから、そのアタリマエに収まらない人は社会に対して尖って生きるしかないと思っていました。

一方で、女子サッカー界でのアタリマエは社会のアタリマエとは少し違っていて、多様性を受け入れることが容易な風潮が強い。でも、引退して社会に出てみると、やっぱりアタリマエの許容範囲の狭さや性別による線引きの強さを感じることは多くなりましたね。

-指導者としてキャリアを歩み始めてからですね

指導者としてのキャリアの最初は男子サッカー部でした。そこでは、女性指導者と男性指導者の扱いの違いや、女子サッカーと男子サッカーの区別をものすごくされました。

私はルールやチームのやり方に反したり、プレーの失敗が起きたりしたとしても論理的に会話することが多いです。それは、相手の目線で何を考えてそうしたのかを知りたいからだけれど「そのやり方は女性らしいよね」「女性にはそのやり方が向いてるよね」と言われる。「男にはそれじゃ通用しない時もある」と言われた時には、ものすごく疑問を持ちました。これは男女ではなくて、人としてや指導者として持っている指導論/教育論なだけであって、性別は関係ないでしょと。男性でも私のような考え方を持つ方もいるだろうし、逆に女性の中でも声を荒げて熱血に指導する方もいるのでは。

-なるほど

そして、学校現場に入ってからは、疑問を持つことが山ほどあります。制服がある理由も良く分からない。流経大柏高校は制服に関しては自由で、女子にもパンツスタイルがあります。なので、パンツを選択したい子がいることを受け入れられやすい学校だとは思うのですが。でも、そもそも制服という型にハマらなきゃいけないのかと思いますね。制服があることが、アタリマエになっているなって。

-男女の枠組みや区別を無くそうとする動きは、社会的にも徐々に広まってきていると思いますが、教育現場は変化が遅いですよね

本当に遅いし、変えづらい部分がやっぱりある。学校現場の中では、アタリマエがアタリマエになりすぎているのかな。女性だから男性だから、学校規則だから。その方が、今までやってきて楽だったじゃんって。


----------終わりに-----------


「100%の身体でプレーできることが選手にとって1番」

そんなアタリマエのことがアタリマエではなくなっている高校生年代の現実を教えてくれたかほさん。「自分の身体を大切にすること」を教える場として、高校生年代の指導の場は機能するべきではないのかと、改めて考えさせられるインタビューでした。

インタビューのあと「自分を大切にできなければ、他人を大切にすることはできない」と語っていたかほさんの言葉が印象的だったので、ここに記しておきます。

生理に悩みを抱える人を指導する・教育する立場にいる人にこそ、是非このnoteを読んでもらいたい。そう願わずにはいられません。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?