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【R22:STORY】「ようこそ、漂流教室へ。 」・音楽の先生と教頭

Pf.&Vo.あやか先生とGt.教頭(きょうとう)による音楽ユニット、音楽の先生と教頭。配信ライブとSNSを軸に、独自の世界を構築しているふたりは、路上やライブハウスなどの現実空間では生演奏を披露したことがない。そのこだわりと、「いつかリアルに自分たちの学校を作る」という夢の詳細に迫った。

宇宙を漂う『惑星〇214』と、『学校』の誕生

「もともと、創作全般に興味があったんです」と、教頭は語る。「昔から絵を描いたり、文章を書いたりすることが好きでした。『音楽で表現してみたい』と思ったのは、中学生になったくらいのころです」。

父親からアコースティックギターを譲り受け、弾き方を教わった。その後、独学で技術を磨きながら、バンド活動に傾倒していった。

「バンドは楽しかったです。ただ、人数が多いとメンバー同士の情熱の共有が難しくなるなぁと考えるようになりました」。

もっと少ない人数で、アコースティックなユニットを結成した方が、自分のやりたいことをやれるのではないか。そう考えた教頭は、インターネット掲示板でメンバーを募集することにした。

そこへ応募したのが、あやか先生だった。

「私は、教頭先生とユニットを組むまで、音楽活動らしいことは何一つしていませんでした」と、彼女は振り返る。「子どものころから、声優になるのが夢で、養成所に通ったり、舞台に出たりしていました」。

しかし、声優養成所に通い始めて3年が経ち、「私が本当にやりたかったことは声優ではないのかもしれない」と感じるようになった。「今年のオーディションで成果が出なければ他の道を考えよう、と思いました」。

新しい目標として見つけたのが、音楽だった。

「具体的にリスペクトしているアーティストがいるとか、明確なきっかけがあったわけではありませんが、とにかく『音楽をやろう!』と思い立ったんです」。

以前から、歌うことは好きだった。日常のなかで鼻歌を口ずさんだり、カラオケへ通ったりしていた。とはいえ、一人でどのように活動していけばいいか分からない。仲間を探してインターネット検索をするなかで、教頭の募集を見つけたのだった。

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ふたりが初めて顔を合わせたのは、2018年2月14日のことだ。

当日、教頭はギターを持参したが、あやか先生は何も持ってこなかった。

「私は、ボーカルとして歌うだけのつもりでした。小学生のころにピアノを習っていましたが、長い間弾いていなかったんです。でも、教頭先生から『ピアノを弾いた方が音楽的に厚みが出る』と勧められて、もう一度がんばることを決めました」。

最初はカラオケボックスで、互いの好きな曲を一緒に演奏することにしたが、全くしっくりこなかった。「すぐに『オリジナル曲を作ろう』『いつかCDを出したいね』と、方針が決まっていきました」。Twitterアカウントを作り、練習の模様を配信するようになった。

「『配信の場を学校に見立てよう』という発想から、我々が先生、見に来てくれる方が生徒で、『宇宙を漂う惑星の学校で音楽をする』というコンセプトが徐々に定まっていきました」。

いずれ現実世界にも、自分たちの学校を作りたい

現在は、ライブストリーミングプラットフォーム・Bigo Liveでの配信を軸に活動しているふたり。

「結成してすぐのころは、僕がギターを弾いて、あやか先生がピアノを弾きながら歌う、アコースティックな配信をしていました。コロナ禍で集まることが難しくなってからは、あやか先生ひとりでの配信が増えています」。

配信では、トークで視聴者とコミュニケーションをとったり、生演奏と配信ライブ用にアレンジした音源を織り交ぜて歌ったりしている。ピアノはもちろん、ウクレレ、リコーダー、アコーディオンなどを奏でるあやか先生の姿は、見ているだけでも飽きない。

「『あやかは普段はぐうたらだけど、夢中になると、妙なところで集中力を発揮するわね』と母に言われました。それが音楽の先生と教頭で発揮できていればいいなと思います。ここ2、3年、音楽に集中してがんばった結果、自分たちの曲くらいはきちんと弾けるようになりました」。

さらに、オリジナルキャラクターが登場するコーナーもある。

「我々がデザインしたキャラクターのぬいぐるみを私が作って、ドールハウスに飾り付けています。背景の森は、アクリル絵の具で描きました」。

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まるまるとした黄色の体に、青いラインとでべそが特徴的な『デベべ』。長い耳と、突き出した口が愛らしい『うさふぐ』。他にもたくさんのキャラクターがおり、まるで子ども向けの教育番組のワンコーナーのような、ほのぼのした時間を楽しめる。

彼らの学校の校長である『髭玉校長先生』も、オリジナルキャラクターの一体だ。「我々はあくまで『教頭』と『音楽の先生』という歯車の一つにすぎないのです。一番偉い人を決めてしまうと、活動が窮屈になると思いました。だから、みんなが自由に意見を言えるように、誰が方向性を決めてもいいように、校長先生のキャラクターを作ったんです」。

他の科目の教員も存在する。

「国語の先生は、配信中に歌詞を出してくださったり、告知をしてくださったりします。美術の先生が描いてくれた絵は、今、我々のTwitterのアイコンになっています。メディア顧問の先生は、配信中の映像を編集してTwitterへ投稿してくださったり、SNSへの布教活動をしてくださったりします」。

教員として参加するにあたって、特別な資格は必要ない。「やりたいと言ってくださる方にお任せしたり、こちらからお願いをしたりしています」。

今後も、仲間が増えていけばいいと考えている。「算数の先生とか、理科の先生とか、いつか全科目の先生が揃ったら嬉しいですね。みんなで一つの世界を作り上げたいです」。

ミュージシャンの枠を超えて、独自の世界を構築しているふたり。

「やっぱり、我々は創作全般が好きなんです。音楽が主軸だけれど、必要とあらば絵を描くし、ハンドメイドもする。他にも、いいアイディアが思いついたら、臆さずやっていきたいです」。

2021年10月10日には、1st full Album『惑星〇214』をリリース。耳馴染みのよいポップなサウンドをベースに、ロック、民族音楽、クラシック、電子音楽など、幅広いジャンルの12曲を収録した。アートワークも自分たちで担当し、一目見たら忘れられない独創的な作品に仕上がっている。

現時点での彼らの最終目標は、現実世界に、自分たちの学校を作ることだ。

「廃校を買い取って暮らしている人の新聞記事を読んだことをきっかけに、『デジタルの中にしかない我々の学校を、リアルに作りたい』という夢を持つようになりました。廃校を買い取って、いつも配信を見に来てくださる方、生徒さんや他の教員さんたちを招待して、ライブができたら素晴らしいなと妄想しております」。

彼らはこれまで、ライブハウスや路上など、現実の空間で生演奏を披露したことがない。

「普通のライブでは、『学校のなかで、生徒さんとコミュニケーションをとりつつライブする』という我々のコンセプトを表現することは、難しいと思っています。もし我々がブッキングライブに出たとして、他のアーティストさんを見に来たお客さんに、音楽の先生と教頭のコンセプトを長々と説明するわけにもいきません」。

仲間たちと共に作り上げてきた世界を大事にしてきた結果、インターネットという仮想空間を拠点にして活動してきたふたり。

しかし会場を借り切って、内装にもこだわったワンマンライブならばコンセプトから逸れることなく楽しめるのではないかと考えた。その究極が、『廃校を買う』ことなのだ。

「莫大なお金がかかるし、手続きも大変だろうし、実力や知名度が必要になってくると思います。10年後、20年後、いつか実現できるように頑張りたいです」。

文部科学省の『みんなの廃校』プロジェクトのHPを見ると、22年1月現在、300を超える廃校施設が活用方法を探していることが分かる。音楽の先生と教頭の夢も、あながち荒唐無稽ではない。彼らの学校がこの世に現れたときは、その土地も人の心も、大いに潤すことだろう。

text:momiji

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