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【SSW15:WORKS】シンガーソングライターの枠を超えて、『記憶に結びつく作品』を届けたい

シンガーソングライターとして、ギターやピアノでの弾き語りを中心に活動してきた、中山大之(なかやまだいし)。これまでの活動の集大成として、21年10月にリリースした1st Albumの内容と、今後の活動方針を聞いた。

1st Album『Dummer manN』について

中山は、大学生になるまで、ほとんど音楽に触れてこなかった。

「子どものころは、母が好きだった玉置浩二やスティービー・ワンダーの楽曲を、聞くともなく聞いていました。クラシックは身近にありすぎて、逆に、あまり好きじゃなかったですね。陸上時代は、EXILEばっかり聴いて、カラオケで歌っていました」。

大学の友人の影響で、流行のJ-popなどを聴くようになったと語る。

「秦基博とか、Mr.Childrenとか。フォーク系以外の弾き語りアーティストや、アコースティックサウンドに近いバンドを好んでいました」。

これまで作ってきたオリジナル曲の総数を訊ねると、「数えきれません」と笑った。

「一時期は、ライブのたびに新曲をやっては、『手応えがなかったな』と封印したり…。使い捨ててしまった曲を含めれば、100曲は超えると思います。同じ曲でも、ギターでやったりピアノでやったり、幾つかのバージョンがあります」。

曲作りでは、メロディと言葉が同時に出てくることが多い。

「たとえば『それなりの人生』という曲は、コードを鳴らしたとき、『それなりの人生について考えてみたよ』ってフレーズが、言葉もメロディもそのまま出てきたんです」。

一つの閃きを膨らませて、ストーリーを作っていく。

作詞作曲については、独学で研鑽を積んできた。

「メロディは自分のなかから自然に出てくるけれど、詩は、いつも苦労しています。気を抜くと、『嘘でもいいから泣ける話にしよう』とか『綺麗な言葉でまとめよう』とか、ずるい自分が出てくるんです。ちゃんと自分の言葉を書くよう、気をつけています」。

歌詞が完成しないために、発表を見合わせている楽曲も多い。

「僕がシェフだったとして、味だけで勝負する勇気はまだないんですよね。どんなに美味しい料理でも、ぴったりの皿が決まるまでは、お客さんに出したくない。『とりあえず、どんぶりでどうぞ』とは言えないですね」。

苦しみながらも、納得のいく作品を世に出そうともがき続けている。

そんな彼の代表曲と呼べる8曲を収録した、1st Album『Dummer manN』。なかでも、一曲目の『群青』には、思い入れが強い。

「プライベートで病んでいたころ、音楽でも自分を見失って、曲作りが苦痛になっていました。『もう音楽なんてやめたい』ってなっていたある日、空がものすごく青かったんです。『青ってこんなに青かったんだ』と、『これが生きるってことか』というくらい、心に突き刺さりました」。

その素晴らしさを歌にしようと、試行錯誤した。

「言葉をこねくりまわして、誰かを感動させようとするのは違う。ただ純粋に空を見たこと、それを描こうとしていることだけが真実だ、と」。

『群青』が完成して以降、自分の軸を持てるようになったと語る。

「以前は、周囲から批評されると、『もうダメだ』と思ってしまっていました。でも『群青』やそのあとに作った曲たちは、周りの言葉に左右されていません。この曲はこうだと、こうあることが正しいんだと、胸を張れるようになりました」。

中山が、本当の意味でシンガーソングライターとして立つきっかけとなった楽曲たちが収録された『Dummer manN』。ぜひ手に取っていただきたい。

誰かのプライベートに寄り添い、刻みつける作品

「ずっと、シンガーソングライターらしい目標がありませんでした」と語る中山。「みんな『武道館で歌いたい』とか、『ワンマンやりたい』とか言いますよね。僕は、そこまでライブにこだわりがありません。もちろん、やったらやったで楽しいんですが」。

そんな自分に不安を覚えたこともあるが、ようやく、納得のいく答えを見出した。

「きっと僕は、シンガーソングライターとして本気で頑張っているみんなとは、やりたいことや、そもそもの視点の方向が違ったんです。僕にとって音楽は、日常のなかで楽しむものという比重が大きい。だから僕の作品も、聴いてくれる方それぞれのプライベートの時間にあってほしいです」。

根底には、中山自身が歌を好きになった原体験がある。

「幼いころ、母と一緒にウルフルズの『事件だッ!』を練習していました。どうしてその曲だったのかは、ふたりとも覚えていません。歌詞を印刷して、毎晩のように覚えて、出かけるときは車のなかで歌っていました」。

20年近く経った現在も、『事件だッ!』を聴くと、様々な情景が蘇る。

「何気ない日々の喜びや、家族4人での長野旅行などを、まるで昨日のことのように思い出します。『事件だッ!』の歌詞とか、曲自体とは全然関係ないけれど、記憶と密接に結びついているんです」。

他にも、土砂降りのなかのドライブで聴いていた曲には、それが晴天を歌った曲であっても、雨のイメージがついている。

大好きだった彼女に振られたころ聴いていた曲を聴けば、視覚的な映像はもちろん、匂いや感触まで呼び起こされる。

「自分は今、ここにいるけど、音楽を聴いている間は別の場所、別の時間に行けます。僕の作品も、誰かにとってそんな存在になれたら嬉しいです」。

ゆえに、インターネットや地上波を通じて音源を聴いてもらう機会を増やしたいと考えている。

「たとえばSpotifyのプレイリストに入れてもらうとか、Amazon Musicのおすすめに入れてもらうとか。どこかの企業のCMソングとして使っていただけたりしたら、最高ですね。そうしたきっかけで、誰かの日常に存在できたら嬉しいです」。

『音楽』という枠組みにもこだわっていない。

「10月のワンマン以降、写真にハマっています。せっかくなので、とことんやって、これまでやってきたことと組み合わせたいです。まずは写真を撮って、そこに絵を混ぜて、音楽も流そうかな」。

いずれは、まったく新しい展開に繋げたいと語る。

「20年前に、iPadというデバイスはありませんでした。コロナ禍が起きるまで、無観客配信ライブという概念は浸透していませんでした。そんな風に、今はまだ想像もつかない何かが生まれる予感がしています」。

音楽だけでなく、幾つもの要素を組み合わせて、『記憶を呼び起こす』作品を届けていきたいと考えている。

「これからは『シンガーソングライター』じゃなく、『クリエイター』として、幅広く活動したいですね」。

かけがえのない今日を、色褪せない永遠に変える。そんなクリエイティブの誕生に期待したい。

text:momiji

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