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【R33:STORY】書道アーティスト・遼太郎

国内外での展示やライブパフォーマンスなどで活躍している書道アーティスト・遼太郎(りょうたろう)。東京2020応援プログラム芸術祭『25th OASIS 2020 Osaka & TOKYO』への出展を皮切りに、本格的な活動を開始した彼は「新しい挑戦を積み重ねて、書の文化を次世代に残したい」と語る。その活動の内容に迫った。


自分にしか残せない書道があると思った

神奈川県厚木市出身の遼太郎は、小学生のときに書道教室へ通い始めた。

「一緒に通おうと誘ってくれた友達はすぐに辞めちゃいましたが、僕は『意外と面白いじゃん』と思って、続けました」。

当時は書道だけでなく、ソフトボールにも打ち込んでいた。中学校と高校では陸上部へ所属し、長距離で全国大会に出た経験もある。

まさに文武両道だと編者が言うと、彼は「自分にできることをやってきただけです。得意なことを伸ばしていって、自分を磨くのが好きなんです」。

さらに「書道と陸上には似たところがあります」と語る。

「自分と向き合って、高めていくという本質は同じです。ただ『新しい景色を見たいなら、書道だな』と思うようになっていきました。純粋に、陸上競技者と書道家の人口の違いもあります。書道界にはまだ、ブルーオーシャンが広がっている気がしたんです」。

そんな遼太郎が、ますます書の世界にのめりこむようになったきっかけは、書家・紫舟氏が手掛けたNHK大河ドラマ『龍馬伝』の題字だった。

「紫舟さんの字を見たとき、初めて『この字が好きだ』と思いました」。

卒業後は会社員として働きながら、書道を続けた。書道家としての活動を本格化させたいと思ってはいたが、今一つ踏み切れずにいた。

「色々と、考えすぎていたんでしょうね。きっと、『自分が書道をやらなければいけない理由』が欲しかったんだろうな」。

周囲の声に背中を押され、葛藤を乗り越えた。

「色んな人に『お前ならやれる』と言ってもらいました。僕自身、『自分の活動を誰かに還元したい』と思うようになって、まずはSNSを始めました」。

2020年春に世界を襲ったコロナ禍も、転機となった。

「自粛要請が続いて、みんな沈んでいくなかで、『このままじゃダメだ』と感じたんです。何かやらなければ、と」。

また、急速にデジタル化が進む社会に対して、燃え上がる思いがあった。

「リモートワークが推進されて、AIなどの技術が発展して、『これからはデジタルの時代だよね』って空気が強まりました。でも、たとえばタブレットの画面を指でなぞって、筆で書いたような作品に仕上げても、表現しきれないものがあるはずです」。

実際に手を動かして筆で紙に書くこと、アナログならではの良さを、この世界から失わせてはならないと感じた。

「もちろん僕も、最新の技術は勉強しています。だけど、この世界に書道で残したいもの、自分にしか残せないものがあると思ったから、本格的にやっていこうと決めました」。

国内外を舞台に、本格的な活動を開始

書道アーティストとして最初の本格的な活動の場は、東京オリンピック・パラリンピックへとバトンを繋ぐ、東京2020応援プログラム芸術祭『25th OASIS 2020 Osaka & TOKYO』となった。

自身の代表作である『響動(どよめき)』を応募したところ、見事に審査を通過。21年3月4日から6日まで、池袋にある東京芸術劇場で展示された。

「国内外の著名なアーティストの作品が並ぶなかに選ばれて、とても嬉しかったです。一般の方はもちろん、オリンピック関係者の方々にも見ていただくことができました」。

芸術祭の模様は、 国民みらい出版の『芸術紀行 vol.2』に収録。また2023年10月現在、『響動』は、東京にある虎ノ門ヒルズビジネスタワー15階の展示スペースに飾られている。他にも日本を代表する芸術家・村上隆氏などの作品も展示されているので、ぜひご覧いただきたい。

さらに、この芸術祭をきっかけとして、パリで開催されたコンクール『第2回 サロン・ド・アール・ジャポネ2020』へ参加。出展した作品『嵐』は、グランプリこそ逃したものの、高い評価を受けた。

翌年には、アートを通じて社会と美術界の架け橋になることを目的としたイベント『J. Arts Bridge 2022 for SDGs』へ出展。22年1月7日から10 日まで、京都文化博物館で開催され、遼太郎自身も会場へ足を運んだ。

本展示会は、カンボジアの子どもたちへの教育支援も行なっており、今回の展示作品を中心に日本の芸術文化をまとめた小冊子を制作。約170 点の作品のなかから、遼太郎の書『炎』が表紙に選ばれた。

「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編に感銘を受けて、『炎』を書きました。この教科書は、カンボジアで、日本文化を学ぶ教材として使われているそうです」。

国際的な展示会だけでなく、神奈川県厚木市・秦野市・伊勢原市・海老名市が合同で開催した『第38回県央連合書展』や、自身が通う餘目書道教室の展示会などにも参加。勢いそのまま、23年に個展を開催することを決意した。

「原点に立ち返って、自分が生まれ育った場所で、みんなに作品を見てもらおうと思いました。でも、ありきたりな『書道の展示』にはしたくなかったんです。もっと面白いことをしたいと考えていたとき、友人から、イラストレーターのKENさんを紹介されました」。

KEN氏が描く、独特な色使いの花々に心惹かれた。

「この人となら、新しい芸術を作れるんじゃないかと思いました。KENさんの友達のバリスタに出店してもらったり、僕の友達のミュージシャンにライブしてもらったりもして、型にハマらない展示会を作り上げることができました」。

23年2月23日から27日にかけて、厚木市の複合施設・アミューあつぎで開催されたイベント&コラボ展『FREE』は、4日間で300名を超える入場者を記録。見事に成功を収めた。

「全く交わらないジャンルを織り交ぜて、化学反応を起こせたと思います。お互いに良い刺激を受けられたので、やってよかったです」。

挑戦を積み重ね、みんなを新しい景色に連れていく

23年夏ごろからは、イベントへの出演に力を入れている遼太郎。

「自分の書を展示したり、掲載されたりっていうのも大事です。だけど、次のステージへ行くためには、より多くの人に僕を知ってもらわないといけません」。

ライブパフォーマンスは、その場での一発勝負だ。

「会場によって使える道具も限られるし、とにかく経験が必要です、今は、ミュージシャンで言えば、ライブの本数をこなしているところですね」。

23年6月3日に下北沢DYCUBEにて開催されたライブイベント『蒲田めい×犬塚モブ企画【雨のち太陽】』では、題字を揮毫。

8月26日には、厚木市立北小学校にて開催された『4小学区(北・依知・上依知・依知南)依知北地区合同 小学生対象地域限定夏祭りイベント 依知北大子ども祭り』に参加。オープニングとして、小学生約1000人を対象に、依知北地区ジュニアリーダーと、地域の踊り【なりわい節】と共に、書道パフォーマンスを披露した。

10月5日に虎ノ門ヒルズビジネスタワーで開催された、グローバルに活躍するイノベーターが集結したイベント『GLOBAL GATHERING TOKYO 2023』では、四谷琉球倶楽部「かなさんどー」とコラボレーション。音楽に合わせて、『百花繚乱』を書き記した。

「友人や知人はもちろん、SNSで繋がった方から声をかけていただいています。これからも、お誘いがあれば、どんどん予定を入れていきたいです」。

目標はありますか?と訊ねると、彼は首を傾げた。

「未来って、誰にも分からないですよね。だから、先のことは決めすぎないようにしています。今、目の前の楽しさを積み上げていけば、きっとどこかに辿り着く。そのくらいラフな方が、自分の限界も超えていけるんじゃないかな」。

ただ、一つの通過点として、憧れはある。

「僕が最も尊敬している人は、ONE OK ROCKのTAKAさんです。彼の音楽はもちろん、人生そのものに共感しています。今年の8月に、TAKAさんのインスタライブで、幸運にも直接お話する機会がありました。ご本人に伝えたんですけど、いつか彼らが東京ドームでライブをするとき、書道パフォーマンスでコラボしたいです」。

リスペクトするアーティストと、仕事相手として、同じ場所に立ちたいと語る。

「きっと実現できる予感がしています。今の流れに乗っていけば、行けるって。もちろん東京ドームで終わりじゃありません。書道を広めるために、5大ドームツアーをしたり、新しいことをやっていきたいです」。

さらなる高みを目指す上で、人との繋がりも重要だ。

「実は、2月に個展をやったとき、1日目に倒れてしまったんです。一般的な個展に比べて準備期間が短かったし、頑張りすぎていたかもしれません」。

大変な状況だったが、仲間がカバーしてくれたおかげで、事なきを得た。

「『人に頼るべきところは頼らなきゃ』と思いました。これから、特に東京ドームのような舞台を目指すなら、チームを組んでやっていかないと。同じパッションでやれる仲間を集めて、いつか、会社を作ったりできたらいいですね」。

しばらくはSNSを通じて発信力を強めつつ、イベントへの出演経験を積み、繋がりを増やしていくつもりだ。

「自分のモットーは『誰が見てもカッコよくて、迫力があって、なおかつ分かりやすく、はっきりした書』です。書道をよく知らなくても、誰もが素敵だと思える作品を届けていきたい。『書道家』ではなく『書道アーティスト』を名乗っているのも、こだわりです」。

書道界の現状に危機感を抱きつつ、「まだ捨てたもんじゃない」とも言う。

「書の文化を失くしちゃいけないので、次世代に残すって目線を忘れずに、活動していきたいです。数年後、数十年後、若い子が『遼太郎さんの字を見て、書の世界に入りました』と言ってもらえたら嬉しいな。僕が紫舟さんの字に心打たれたように」。

日本にごく当たり前に存在する文化として、書道を残したいと考えている。

「そのためには、今のままじゃダメなんです。新しいことをやっていかないと。僕が先陣を切って、みんなを巻き込んで、想像もできないところに連れて行きたい。まだ誰も見たことのない景色を共有したいです」。

果て無き挑戦を続ける彼の行く末を見守りたい。

text:Momiji cover photo:Tsubasa Suzuki

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