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【SSW24:STORY】ギターをしばく歌い人・こばやしゆうと

関東を中心に活動しているギター弾き語りシンガーソングライター、こばやしゆうと。中学生のころからギターを趣味にしていた彼は、観客としてライブハウスへ通うなかでスラップやボディヒットを多用した特殊奏法と出会い、本格的な音楽活動を開始する。彼が目指す未来とは。

客席からステージへ

兵庫県神戸市出身のこばやしゆうとは、幼いころ、音痴だったという。

「音楽の授業は苦痛でした。合唱で歌っていたら、明らかに自分だけ、音を外しているんです。でも、直し方が分からなくて。親も、僕には音楽の才能がなさそうだと察したようです。テレビの音楽番組すら見ずに、ほとんど音楽に触れない生活をしていました」。

彼が変わったのは、中学生になったときだ。

「周りの友達と、話が合わなかったんです。流行りのバンドとか、アニメの主題歌とか、何も知らなかったから」。

このままではいけないと、ケーブルテレビの『MUSIC ON! TV』や『スペースシャワーTV』などの音楽番組を見始めた。「最新のヒットチャートを100位から1位まで、延々と、時間のある限り見ていました」。

そんなある日、flumpoolの『どんな未来にも愛はある』のMusic Videoを目にした。

「ビルの屋上でギターを弾き語るボーカルの姿を見て、『カッコいい!自分もこんな風になりたい』と思いました。彼らについて調べるうちに、他のアーティストにも詳しくなりましたね。WEAVERとか、NICO Touches the Wallsとか、いいなと思ったアーティストたちが、たまたま、同じレーベルに所属してることも分かりました」。

他にも、両親が好きだったコブクロやMr.Childrenなど、様々なJ-popを聴いて過ごした。

もっとも、当時のこばやしは、所属するバドミントン部の活動で忙しかった。自ら演奏するようになったのは、中学3年生になってからだ。

「中高一貫校に通っていたので、受験もなくて、暇な期間があったんです。『よし。ギターやるか!』と、お年玉貯金を崩して、買っちゃいました」。

部屋にこもり、好きな楽曲のコピーにいそしんだ。

「一ヵ月くらい経つと、ある程度、コードを押さえられるようになりました。曲作りにも興味があったので、『よくわかる作曲作詞講座』みたいな本を買って、勉強しました。学校の授業を無視して、内職してましたね」。

オリジナル曲が完成すると、スマートフォンで録画し、Twitterへ投稿した。

「SNSを通じて音楽仲間が増えて、ますます楽しくなりました」。

高校へ進学すると、バドミントン部に加えて、軽音楽部に所属。ギターボーカルとしてバンド活動を始めた。

「そのころにはもう、歌うことへの抵抗はありませんでした。毎週、学校の音楽室やスタジオで、メンバー達と練習をしました」。

しかし、長くは続かなかった。

「やっぱり高校生だし、音楽への熱意も、演奏のスキルもバラバラで、あんまり上手くいかなかったんです。結局、2年生になる前に辞めてしまいました」。

その後は、バドミントン部での活動に集中。家でギターを弾くことさえなくなった。高校を卒業し、関西の大学へ進学すると、バドミントンのサークルに入った。「音楽はもういいや、と思っていました」。

だが3回生になり、サークルを引退したころ、転機が訪れる。

「高校生時代にSNSを通じて知り合った友人から、『帰省してライブします』って告知があったので、観に行くことにしました」。

そのライブの対バンに、様々な奏法を駆使するギター弾き語りシンガーソングライター・あおいはるか氏がいた。彼女の演奏を見たこばやしは、大きな衝撃を受ける。

「はるかさんは、ポップで可愛い曲を、バチバチに叩いていました。あの奏法で、こんなキャッチーな曲がやれるのかと、感動しました」。

スラップやボディヒットを使った奏法自体は、中学1年生のとき、MIYAVIを見て知っていた。

「当時は、『アップテンポで激しい曲じゃないと合わなそう。汎用性がない奏法だな』と思って、大して練習せず、捨ててしまっていたんです。でもはるかさんを知って、新しい可能性を感じて、『自分でも演奏してみたい!』ってなりました」。

再びギターを手に取ったこばやしは、彼女の楽曲をコピーし始めた。

「はるかさんのライブの物販で、『あれはどうやって弾いてるんですか』と訊いてしまいました。でも明確な解答をもらえなくて、これは自分で再現するしかないなと思ったんです。『トリコグラム』という曲を家で弾いてみて、『ちげぇなあ』ってなって、本人のライブに行って、手元ばっかり見て、家に帰って真似して、またライブに行って…ということを繰り返しました」。

2019年秋から翌年にかけて、100回以上、ライブハウスに通ったと語る。

「はるかさんだけじゃなくて、色んなアーティストのライブに見に行きました。ギターの技術を盗みたかったんです。ライブバーとか、40人キャパくらいの小箱にも、たくさん足を運びました」。

オリジナル曲の制作や、Twitterへの動画投稿も再開した。

「適当に撮って、パッと上げて、100回再生されればいい方でした。でも『rainy』というオリジナル曲は、3000回くらい再生されたんです。それが自信になって、『自分もライブハウスに出てみたいな』と思うようになりました」。

ちょうど就職活動が終わり、時間ができた。これまでは観客として通っていたライブハウスに「出演したい」と連絡をとったことが、音楽活動を開始する契機となった。

自分の世界を好きだと言ってくれる人たちに報いたい

こうして2020年7月から翌年3月まで、ステージで歌ったこばやし。「就職を機に、シンガーソングライターとしては第一線から退くつもりでした」。

表舞台での活動を休止する一方で、アコギ弾きためのオンラインサークル・『サウンドホール』を立ち上げた。

「アコギ弾き語りを趣味にしている人を集めました。SNSのフォロワーを中心に、アーティスト仲間数人にも参加してもらっています」。

その後、大学を卒業して上京。仕事に邁進したが、一年ほど経って、違和感を抱く。

「『僕がやりたいことはこれじゃない』と思うようになりました」。

今の会社で働きながら音楽をするのか、もっと音楽活動がしやすい仕事に転職するのか、音楽にすべてを振り切るのか。 幾つかの選択肢で迷っていたころ、坂上太一氏のワンマンライブがあった。

「会場は、名古屋のダイヤモンドホールっていう、300人くらい入る大きなホールでした。坂上さんは、昔から尊敬しているアーティストの一人ですが、『ここまでやれるのか』と、改めて心が震えました。もう一回、自分もステージに立ちたいと思いました」。

23歳という、自身の年齢も理由になった。

「正直、メジャーデビューとか考えると、ギリギリですよね。ここで一回、本腰を入れてやってみてもいいのかなって」。

決意を胸に、22年5月から音楽活動を再開。10月9日には、渋谷gee-ge.にて初の自主企画『HallReverb』を開催した。

「学生時代は関西で音楽活動をしていたので、東京ではゼロからのスタートです。目標がないとやりづらいので、『自主企画のチケットを100枚売る』と決めました」。

オンラインサークルの立ち上げから1年が経ち、オフラインでのイベントを企画したいと考えていたことも、動機の一つだった。

「個人の目標として、『自主企画を見に来てください』と宣伝するために、ライブ活動をがんばる。さらにオンラインサークルの仲間へ『一緒にライブイベントやりませんか?』と声をかける。僕にとっては、一挙両得でした」。

営業職として働いていた経験を活かし、戦略的に告知や配信を行った。

「当日は87名に観ていただくことができました。目標にはあと一歩及ばなかったけれど、やれることはやりきったし、自分の好きな人たちに最高の演奏を聴かせてもらって、良い一日になりました」。

イベント後は音源制作に集中し、23年2月24日、御茶ノ水KAKADOにて、1st EP レコ発LIVE『ギター1本、ヒト1人』を決行。

「それまでは、ラフミックスしたデモ音源を無料配布していました。初めて、ちゃんとレコーディングしたCDを発売することができました」。

続く目標として、「ワンマンライブへの道」という名の連続したイベントを企画。前編として6月10日に真昼の月 夜の太陽で『指板と鍵盤』、中編は9月2日に下北沢DY CUBEにて『音の幻像』、後編は昨年と同じく渋谷gee-ge.で、11月25日に『HallReverb vol.2』を開催する。

「企画を打って、次の企画の宣伝する、っていうサイクルを作りたいんですよね。今回は、前編から後編まで合わせて200枚、さらに後編単独で100枚のチケットを売ることを目標にしています。達成して、ワンマンがやりたいですね」。

5年後、10年後の目標を聞いてみた。

「まだ言えませんが、いつか叶えたい夢があります。そのために今、アーティストとしてがんばって、大きくならないといけません」。

憧れの一つは、武道館のステージへ立つことだ。

「実は、flumpoolのギタリストの阪井一生さんのオンラインサロンで、オープニングアクトとして演奏させてもらったことがあるんです。2023年にデビュー15周年を迎えるflumpoolは、アニバーサリーライブとして、3度目の武道館に立ちます。プロとして憧れていたミュージシャンの姿を間近で見て、自分も同じ舞台を目指したいと思いました」。

どんな人に曲を聴いてほしいですか?と質問してみた。

「ずっと、自分のなかの世界観を形にして、発表できればいいと思っていました。でも最近、大阪や名古屋へ遠征して、それだけじゃ足りない気がしてきて。どうすれば響くのか考えて、『君に届け』という曲を作りました」。

こばやしが音楽に熱中するきっかけとなった、flumpoolの代表曲のひとつと同じ曲名だ。

「純粋に曲だけを聴いてもらっていいんですが、僕がflumpoolを好きってことを知ってたら、違う聴こえ方がすると思います。そういう人を増やしていきたい。僕は、広い人に歌うというより、僕の曲を聴いてくれる人に歌いたいです」。

彼の原点は、SNSに動画を投稿していたことだ。

「Twitterに動画を上げるだけだったころから好きだと言ってくれる人たち、もちろん今後出会う人たちを含めて、僕の世界観を肯定してくれる人たちに報いていきたいです」。

客席からステージへ上がった彼が、次はどこを目指して進むのか、見守りたい。

text:momiji 

Information

1st EP『ギター1本、ヒト1人』、ライブ会場でCD盤を販売、および各種ストリーミングサイトにて配信中!

https://open.spotify.com/artist/4JNqQircxL0EMp7ws89lk7 他

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