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『起業家の自己変容と、社会と共創する熟達とは』〜福岡・九州から生まれる産業創造を目指して〜

「研究と実践を通じて、産業を創造し、社会に貢献する」。そのためにReapraが新しい産業創出のための「理論」として研究と実践を続けているのが「社会と共創する熟達」です。これはなぜ「社会と共創する熟達」という行動様式をReapraの価値の源泉としているのか、どのような背景でそれに至ったのか、なぜ地方で産業創造をやろうとしているのか。

諸藤の半生と共に皆様とReapraの原点をたどっていければ幸いです。

本記事は2020年8月に福岡県ベンチャービジネス支援協議会総会で弊社CEO諸藤が登壇した内容となっています。

それではお楽しみください!

諸藤さんの生い立ち

私は福岡で生まれ育ちました。生まれ育った環境が今の自分の自我を作り、それにより自分の行動様式が学習傾向が作られるということをReapraはサポートの際にも強く意識しているので、先に私の生い立ちを説明させてください。

私は「いい大学に入っていい企業に入ることで、良い人生を送ることができる」という価値観を持った両親の元で育ちました。父親の家系は元々商売人でしたが、父は商売を継ぎたくないという理由でサラリーマンになり楽しそうな生活ができたようです。

母も、母自身が大学に行きたかったり就職したかったりというのがあったようですが、できなかったということで、自分の子どもには良い大学に行きいい企業に就職するという選択肢を持って欲しいと思っていたのでしょう。

子育てというのは、親の価値観の重心がそのまま反映されます。そんな両親の元で愛情を受けて育ちましたが、小学校3年生くらいで自分はどうやら多動で、勉強が得意でないようだと気付きました。母もそれに気付き危惧したのでしょう、悪意はなかったと思いますが、私に「勉強ができないと工場労働者になっちゃうよ」と囁くようになりました。

兄弟は比較的勉強ができるということもあり、自分には焦りや恐怖が芽生えました。いい大学に入り良い企業に入らないと幸せになれないのに、自分はそれができないかもしれない。「今の自分の楽しさは長く続かないんだ」と思い込むようになりました。しかし、叔父などは勉強があんまりできなくても商売で成功して楽しそうで、そういった例を見ているうちに「頭が良くて、言われたことをそのままできる人が優秀なわけではない」と自分を正当化するようになりました。

こういった考えで長年やってきたために、いまだに泥棒や脱獄をテーマにした映画が好きでなのですが、これは何か社会のルールや仕組みを出し抜いているというところに惹かれているのだと思います。複雑性が高いものが好きだ、というのも、世の中は「頭の良い人だけが幸せになれる」という単純なものではないはずだと考えることで自分を正当化してきた結果だと言えます。

しかしそんな中、父が私に根気強く向き合って勉強のサポートをしてくれたことで、結果的に私は九州大学に入ることができました。この経験から、人は根気強く向き合うことで変わることができるのだと知り、それは今もReapraの起業家支援に生かされています。

ずっと幸せになれないと思っていましたが、九州大学に入れたことで、後は楽ができそうな大手企業に入って楽しくやろうと考えていました。

しかし、大学生の頃、山一証券や拓殖銀行などの大きな企業の倒産が起こります。これは自分にとって非常に衝撃的な出来事でした。「大企業に入っても、幸せになれないかもしれない」。この恐怖が自分の中に生まれた時に頭をよぎったのが自分の叔父のことです。彼は商売人として楽しくやっていたことから、大企業にしがみついても幸せになれないのなら、自分でやったほうがいいんじゃないか。起業した方がいいんじゃないかと考え、サラリーマンとして2社程度経験したあと、SMSを立ち上げました。

SMSでの経験から、Reapraの立ち上げの動機

「大企業にしがみついても幸せになれないから」という非常な後ろ向きな理由で起業したのがエス・エム・エスで、私が25歳の時に立ち上げた高齢化社会にアプローチする会社です。当時は介護保険制度ができたり、これから高齢化社会がくると言われていた頃でした。すでに多くの企業がこの業界に入ってましたが、「情報を提供すること」というアプローチでやっている会社がなく、おそらくこれから情報が価値を持つようになるだろうと考えて事業を立ち上げました。

後ろ向きな理由で始めたものの、やってみると非常に楽しんでいる自分に気付きました。本当は35歳までに3億円稼いでハワイに移住すると言っていたのですが、しばらくやってみて、まだ事業も成功していないのに自分はめちゃくちゃ楽しんでいてやめたくないという思いも出てきました。

自分が人間として成長している実感もあったし、社会にとっても価値のある領域でやれているという感覚もありましたが、なぜ自分が成功したかは分からず、それを知りたいと社長やベンチャーの人々、アカデミアの人々など、多くの人に会い話したりもしました。

事業を伸ばし続けている人を見てみると、みな尊敬できる、人間性も良い人が多いように思いました。しかし、だからといってその周りの人も成長できているのかというと必ずしもそうではなく、起業家の葛藤や苦しい意思決定とは対象に、周りの人はただ言われたことをやるだけということも多く、自分はそうしたくはないと思いました。

エス・エム・エスが軌道に乗り成功し始めると、周りの人に「頭が良くてすごい」「なのに謙虚だ」といったことを言われるようにもなり、何者でもなかったはずの自分がそういった扱いを受けることに違和感を感じ、ピエロのようになってしまうのではないかという恐れが出てきたことと、先ほど話したように創業者の周りの人を成長させることができないワンマン社長になってしまうことを危惧し、自分は35歳までで事業を次世代に渡せるようにし引退しようと決めました。

もちろんやめるにあたって葛藤はありました。35歳になったら一度リセットしようと決めた後、とにかくビジネス紙を読み、これは高校の頃からですが…四季報を全部読み、また時間軸を入れて考えたいという癖もあり戦後発刊された日経ビジネスを全部読み…としたので多くのビジネスアナロジーが取れましたし、やめた後にも高齢化社会において情報を提供するということがGDPレベルで社会に関与できること、先進国や東南アジアなどを見てもこれから高齢化すること、ロボットなどの可能性…これから触れることはたくさんあるなと思い、それを手放したらどうなってしまうんだろうかと考えもしましたが、とにかく35歳でやめるんだと決意したので後任に引き渡しました。実際、後任の方は優秀でエス・エム・エスは今も伸び続けています。

社会と共創する熟達とは

それからシンガポールに行って、ベンチャーキャピタルであるReapraを創業したわけですが、自分の関心ごととしては「どうして何者でもない自分が成功したのか、どのような人が伸び続ける事業を作ることができるのかを解き明かしたい」という点にありました。

エス・エム・エスがなぜ成功したのか?というと、エス・エム・エスはもともと何の社会性もない私個人の視座の低い目的から始めたものでしたが、今振り返れば、テーマが伸びていくことが重要な要素だったと考えています。これが環境の設定です。そして、環境と合わせて、私の自我として、複雑性と長い時間軸のマネージがしたいという欲求があり、そこが重要だったのだと解釈しています。

事業を作って伸ばせる人がどんな人なのか、ということを研究し、Reapraを創業して3年目くらいでようやく言語化できたのが「社会と共創する熟達」というWayです。このWayは今、Reapraが普遍的な価値を生み出す源泉としておけるのではないかと考えています。

社会と共創する熟達※1の定義は「社会と共創しながらあるテーマにおいて熟達していく行動様式」ですが、それだけではわかりにくいのでこのWay紡ぎ出されるまでの変遷をお話しします。

まず、事業を伸ばしている人を研究するときに、「ひたむきに学習している人ってどのような人なのだろうか」という問いからはじめ、そうして見つけたのが「熟達」という研究テーマです。アカデミアでも研究が進んでいますが、基本的にはデータの取りやすさからも将棋、チェス、野球などルールが決められた分野での「熟達」の研究が多いのが現状です。

そういった分野で熟達している人というのは、何かに執着してルールのある中で反復の練習を繰り返したり、思考を重ねていった結果、徐々に自分の世界観ができたり、深い思考とつながっていくというボトムアップなアプローチをしていることが多くなります。はじめは有無を言わさずやり続ける、という方法ですね。

しかし、私がターゲットとしている「複雑で今は小さいが将来伸びる」という領域を相手にした時、そうしたボトムアップなアプローチだけでは限界があるのではないかと考えています。このような複雑な領域では、最初からその領域に関わっている人々に向き合い、情報を得ながらマーケットの解像度を上げていく必要があります。これは、社会との接点を持つということです。

翻って、現状の起業家がどうやって学んでいるのか、ということを見てみますと、その人の生い立ちや育ってきた環境から身に付けた特性から学習の傾向が形作られていることがわかりました。人にはそれぞれ、これが得意だとか苦手だとか、こういう時に感情が動くというものがあると思うのですが、そういった自我傾向と、現状のマーケットの歪みが合致した時に価値が出るようになっています。場合によってはその人の欲望に従ってどんどんやって行った方が、株式会社としては利益がでることもあります。

しかし、これが長期で複雑な課題に取り組もうとした時には、自我を暴走させて必ずしもうまくいくわけではありません。人がついてこなかったり、社会がそれを許さなかったりということが起こります。どんなに志が高くて頭の良い人でも、学習が自我傾向に寄ったものになると課題の解決には至らないことがあるということもサンプルとして多く見ました。例えば、ロジカルなものしか触りたくないと言ってそれ以外を見ないとか、自分の直感しか信じたくないといったりすると、学習に偏りが出て扱える範囲や変数が狭まります。

そのため、世代を跨ぐような、社会性があり、複雑さゆえにまだ小さいというテーマに取り組むときには、起業家自身が自我を認識し、今の立ち位置をわかった上で学習をしていくことでできるだけ学習の範囲を広げ、深度を深め、かつその学習様式を組織に組み込んでいく必要があるのではないか、それって社会とともに創っていくもので、その学習プロセス自体に熟達することが必要なのではないかーーそう考えて、この学習様式を「社会と共創する熟達」と名付けました。

学習科学や脳科学、感情や情動のメカニズムなどに照らして考えると、そうした複雑な領域で事業を伸ばしていくためには、自我と環境が相互に作用していることを念頭に置き、今自分がどんな人間で将来どうなりたいのかということと、自分の会社のミッション・ビジョンをつなぎ合わせることが重要なのではないかと考えています。

今考えると、この「社会と共創する熟達」というWay自体、自分が幼少期から持っていた願いから紡ぎ出されたものなのだと感じます。幼少期に刷り込まれた価値観から、人を年収や肩書きで見るようなことしかしてこなかった自分は、全く社会と共創することはありませんでした。しかし、本当は小さい頃から社会と向き合って共創したいという願いがありました。

その願いをReparaでは「囚われ」とも「らしさ」ともいいますが、そうした囚われを持った人々が、それを認識しそのらしさに基づいて事業を作っていく。そしてReapraも、社会と共創したいという囚われを持って起業家と共に学習しながら支援にあたる。それがReapraの価値だと考えています。

※1:詳しくはこちらのReapra Bookをご覧ください。

なぜ地方なのか

ではなぜシンガポールから今福岡に来て産業創造をやろうとしているかと言うと、以下の2点の理由で地方だからこそできることがあるんではないかと考えたからです。

一つは、日本マーケットはグローバリゼーションと情報社会の相性が悪く、比較的今ディフェンシブになっていて、未来がなかなか展望できないことにあります。IT社会においては、英語圏で所得があり、人材リソースがあるところが勝っています。日本にもいわゆる「スタートアップ 」は数多くありますが、言語の壁や文化を参入障壁にしながらシリコンバレーのコピーキャットをやっているところが多いのが現状です。今はまだIT化の潮流に乗れていますが、それも都会を中心にしたもので、地方は取り残されています。そこが私が地方から産業創造を試みている理由の一つです。

2つ目、先ほど述べたことと重なってきますが、取り残された故地方から先に、世代を跨ぐ多くの地域課題が顕在化しやすいと考えています。

例えば、当たり前に受けられると思っていた医療や介護に差が出たり、地方自体のサステナビリティが担保されなかったり、年収格差が出たりといったことが地方では起こっていますが、それを解決するための産業クラスターは雇用を伴った形ではまだ起こっていません。

都会では人材が豊富なこともあり、それらを解決するためにIT革命が起こりその恩恵を受けていますが、地方は取り残されているが故に課題の顕在化が早いでしょう。Reapraはそこに向き合っていきたいと考えています。

地方では課題の顕在化が早いと踏んで、長い時間軸を入れてこれから求められていくと考えられる事業を作っていくことがReapraが今やりたいことです。そこには、高度な技術は必ずしも必要ではなく、ヒト・モノ・カネをただ集めて東京・シリコンバレーを目指すのではなく、福岡らしさを活かすことが必要なことだと考えています。

自分が今まで環境と自我の相互作用によって得たこだわり、囚われを自覚し、そこから事業を拘って作っていくことができる人材と共にReapraも学習を進めていくことで、産業を創造し世代を跨ぐ社会課題の解決へ進むことができるでしょう。そうした人材をReapraは福岡から探しています。

▼Reapraでは世代を跨ぐ社会課題を解決する企業を生み出すために、起業家の内面成長やのびゆく領域選定、オペレーション強化、学習する組織等の研究実践しています。引き続き皆さまに有益な発信をしていきたいと考えていますので、フォロー、コメントやいいねお待ちしております。

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