創作小説一弾「ライク・ナンバー」
この物語の主人公は、周囲の人間の頭上に「数字」が見えている。10年前からそんな状態で生きているのに、彼は鈍感すぎるがために、ただ忌々しいと思うだけなのだ。だが、彼は気付くこととなる。その「数字」が自分への好感度なのだと。
~第一章~ 何かが見える
それが見え始めたのは僕が六歳の時。小学校に入ってすぐ、家の階段から落ちて頭を打ってからだ。最初は大して気にならなかったが、如何せん。はっきり言って邪魔になった。それが見えることで、黒板の字が見えにくいのだ。特に算数の時なんて、うざくてたまらない。だから、「消えろ!」と言った。そしたら、驚くことに消えたのだ。まあ、正確には透明に変化したと言うほうが正しい。それでも、嬉しいことに変わりはない訳で、教室で一人盛大に飛び跳ねた。今思えば恥ずかしくて死にそうだ。まあ、その後に軽く怒られたが。そんな経緯があり、小学校の頃は卒業まで普通に平和に過ごせた。当時の僕、ナイス。
~第二章~ 最悪の組み合わせ
さっきまでが小学生の話だから、今度は中学生の話。それが消えなくなったのは、中学に入学してすぐのことだ。小学生の時に「消えろ!」と言ってからずっと透明だったのにだ。だが、今回は一切、何をしても、消えない。最悪だ。でも、それだけじゃなかった。前から兆候はあったんだが、遂に手に入れてしまった。スキル「鈍感」を。当時は分からなかったけど、今思えば最悪の組み合わせだ。スキル「鈍感」の効果は、こういう風に作用した。
例えば、こんな時。
「ねえ、人上君。」
「どうしたの。」
「放課後、何か用事ある?」
「別に。」
「じゃあ、二人でどっかに遊びに行かない?朝まで。」
「いいよ。」
次の日は土曜日で、人上家は放任主義だから、夜帰らなくても怒られない。ただし、成績を落とさないという条件があるが。
五時半。
「ごめん、待った?」
「今来たばっかりだから。」
「人上君の服って、シンプルで似合ってるね。」
「あ、ありがとう。」
ここであるような、「今来たばっかりだから。」というセリフはよくドラマであるような、「本当はもっと早く来てたけど」という嘘で言ったのではなく、事実である。また、「可愛い」というのも、お世辞ではなく事実を言ったまで。そんなこんなで二人は街中をブラブラしながら買い物を楽しんだ。そして、八時半。二人は駅の近くの立派なホテルにチェックインし、ホテルのレストランで食事をし終わり、部屋に戻った。
「ねえ、人上君。」
「ん?」
「人上君って、私のことどう思う?」
「好きだよ。」
「えっと、…どこが?」
「可愛いし、頭いいし、運動出来るし、優しいし、面倒見いいし、他にもいい所いっぱいあるから。」
「そうなんだ…ありがとう。実は、その……ね。私も人上君のことが好きなんだよね。何気ない所で優しくしてくれたり、勉強教えてくれたりしてくれるから。あと、カッコいいし。」
「ありがとう。……もう遅いし、お風呂に入っちゃいなよ。」
「う、うん。じゃあ、お先に。」
可愛い女子と同じ部屋で、女子のほうは部屋のシャワー室の中。おそらく、男がよほどの変態であるのなら、覗くだろう。だが、鈍感少年である人上君は決してそんなことをしない。と言っても、普通の人はしないけど。
「人上君、お風呂空いたよ。」
「分かった。」
十時。
「どうしたの、最上さん。」
「えっと、それが……。」
「ん?あれ、ベッドが一つしかない。」
「そうなの、どうしよう。」
「結構大きいし、机が二つあるから一緒に寝ようか。」
「え?ええぇぇぇぇ…!?いいの?」
「いいよ。ただ寝るだけなんだし。だから、入りなよ。」
「じゃあ、お邪魔します。」
「ん。じゃあ、おやすみ。」
「お、おやすみ。」
普通のやつは「ヘタレ」と思うかもしれないが、彼の「好き」が「友達」としてのなのだから、致し方無い。ちなみに、この時の最上さんのそれは98だった。僕の家族より一つ上だった。
翌朝七時。
「おはよう。」
「お、おはよう、人上君。」
「どうしたの?」
「えっと、あの、その、……私と恋人になってくれる?」
「なんで?」
「え?だって、人上君が私のことが好きで、私も人上君のことが好きだから。」
「友達として好きなんだから、友達でしょ?」
その瞬間、最上さんのそれは51になった。僕が一番勿体ないと思ったのはこれだ。だってそうだろう。僕が鈍感だったから、最上さんに無駄な期待をさせて傷つけたんだから。こんな感じで少しずつ失敗を繰り返した。それは、日に日に減っていった。90、80、70、60、50、40、30、20、10、5、4、3、2、1、……0。そして、0は増えていく。それから、あることに気付いたのは、中学3年の3学期だ。そのころには、もう学校に0より高いやつは教師以外にはいなかった。多分。さらに、0たちは決まってこの反応をする。
「ちょっといい?」
「……。おい、行こうぜ。」
そう、「無視」である。それだけならいいが、中には、冷たい目を向けてくるやつもいる。だがそれも、まだいいほうで、後ろから蹴られることもあった。早い話がイジメだ。そのイジメは、日を追う毎にエスカレートし、物を捨てられるのは当たり前で、それが日常だ。でも、僕はある日その理由に気付いた。屋上で一人、うずくまる。二時間以上居るが、まだ涙は流れている。
「なんでこうも鈍感なんだろうな。」
今更だ。
「もっと先に気付いてたなら。」
後悔?もうどうにもならない。
「あんなのが見えなければ。」
こんなにも悲観する大きな要因はそれの存在だ。
「自分への好感度なんて見たくないよ。」
そう、周囲の人間の頭上に見える「数字」は、その人間の「自分に対する好感度」だったのだ。
「これからどうするのか考えないとな。」
幸い、僕の行く高校に同じ中学のやつは一人も行かないはずだから、まあ、卒業までは我慢してやるかな。
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