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分かりあえないまま生きていける世の中がいい――『半分、青い。』私見

「分かりあえなくて良い。分かりあえないまま生きていける世の中がいい」―― 鎌谷悠希『しまなみ誰そ彼』第3巻15話より

  「半分、青い。」のここが好きだ!をそんなスタンスでひたすら並べるメモになります。

1)一貫した制作陣の姿勢
2)欲に忠実
3)夢を追うことへの優しさ
4)私好みの要素が揃いに揃った
5)最後に ――「分かりあえなくて良い。分かりあえないまま生きていける世の中がいい」

1)一貫した制作陣の姿勢
  ストーリーが筋を通ってるということではなく、作品づくりに対する姿勢です。
 最終週残り6話という所で震災・いじめ・扇風機づくりという展開を持ってきたこと。それを描かなればいけないから描いたこと。特に震災にかかわる展開については時代ものと異なり、視聴者ほぼ全員が時代考証人となります。だからこそ批判も多くありました。
 誰かを傷つけてまで伝えたいメッセージがあっていいのだろうか。
 そうした意見も承知の上で、それでも世に出そうとした姿勢が好きです。半年という放送期間があれば、ストーリー変更は難しくとも演出や口調を少し変えることはできたかもしれません。ただ私には1話から最終話まで何一つとして変わらない姿勢を貫いてきたように感じられました。具体的にどの辺りが、と言われると難しいのですが…スズメの口の悪さなどが最後まで変わらなかったあたり、そんな風に感じ取れました。
 本作に限らず、制作陣の筋が通った作品はだいたい好きですね。

2)欲に忠実
 スズメを応援したいとある時から明確に思いました(その前からも思ってましたが)。漫画家を辞め大納言でバイトを始めたことを電話越しに草太に明かしたシーン。
 「何故漫画家を目指したのか」という問いに対してのスズメの返事が、私にはあまりにもリアルでした。

 「1番になれると思った」「褒められたのが初めてだった」

 スズメが夢見たのは「漫画家としての成功」ではなく「1番の漫画家になる」ことでした。
 最初は漫画を描くことが好きだったとしても、それが辛くなる。
『まだ漫画続ければ成功するかもしれない』『原作者としての道も』『なぜ諦めてしまうのか』
 主に本職漫画家からこうした意見が、そして批判めいた言葉が多かったと感じました。そう思った本職の方は、スズメのように辛くなったあとでも、漫画が好きだから書き続けて、そして職にしたのだと思います。辛くても乗り越えられるくらい漫画を描くことが好きだから成し得たのです。
 だからあなた達は凄いのです。スズメに対して「諦めるな」そんな意見が多く生じたのは『辛くて描くのを辞めたかもしれない自分(=スズメ)』を見るのが辛かったのではないかな、と勝手に思ってます。
 むしろ連載にこぎつけ単行本6冊出して、漫画家業が約10年続いたのが凄いのですが、そこはリツの存在が大きかったのでしょう。迎えに行く理由が、居場所がなくなったのならば、スズメが漫画を続ける理由はありません。だから漫画家の「楡野スズメ」は約10年で死んだのです。
 スズメの諦念は強い人には分かりえない感覚だなと思いました。分かろうとしないのではなく、強いがゆえに分かろうとしても分かり得ない。
 だから何度でも言います。辛い時期を乗り越え、好きだから漫画を描いて、それで生活している方は凄いのだと。そんなこと素人に言われるまでもなくご本人方が一番ご存知かとは思いますがね。

 承認欲求を『泥臭い』『人間じみた』と表現をすると語弊があるかもしれませんが、誰が聞いても美しいとは言い難い。
 だからこそスズメへの批判が多かったように私は感じました。(見てない友人にあらすじを話したら「朝からそんなしんどい思いしたくないわ」との事。なるほど…)
 しかし仙吉さんが言ってたように、人間何歳になっても褒められたい。そんな欲を持って認め、更にそれを弟に言ってしまえるようになった。承認欲求に素直になれたヒロインを、スズメをその時から明確に応援したいと思うようになったのです。
 だから離婚云々のときはとても肩入れしながら見てたなぁと自分のツイートを振り返って思いました。感情移入というよりも、友人を悪く言われて反論する気持ちに近いかなぁ。
 趣味で絵や漫画を描いてる身としては「そもそも馬車なんて描けん!」でしみじみしました。描けないです笑

3)夢を追うことへの優しさ
 夢の厳しさを突きつける本作ですが、私は本作のメッセージの中に、夢を追う人への優しさがあったと思います。
 何故そんなタイミングで起きた――そんな出来事も本作では多々ありましたが、スズメの人生に起きる出来事の一つ一つに意味はないと思います。しかし意味はなくとも、スズメの人生に起きた苦楽様々な出来事は無駄ではなかったです。
 漫画家で培ったデザイン力、大納言のバイトで得た扇風機のアイデア、離婚した旦那すら使って作ったRP映像。結果論でしかありませんが、これまでの挫折で得たものが『マザー』へと繋がった。
 失敗は無駄ではない。だから挫折してもいいのだと。
 仙吉さんがスズメに言った「どうにでもなる」という言葉が、歌った『あの素晴らしい愛をもう一度』が、羽根に傷を追ったスズメが羽ばたくための応援歌に聞こえました。
 光江さんが言うように夢は責任を取ってはくれないです。それがスズメの費やした約10年という年月です。夢を撤回することは恥ずかしいかもしれませんし、スズメも漫画家人生に未練はなくとも、辞めたこと自体は後ろ向きに捉えてました。
 だから、スズメがカンちゃんに「参加賞はすごい。メダルを取ろうとしたものしか貰えない」と言えるようになって本当に良かったなぁと。
 諦めることを責めずに受け入れてくれる本作が好きです。失敗を責めないで認め受け入れるからこそ、次の夢に向かって頑張れるのです。

4)私好みの要素が揃いに揃った
 真面目な話が一気に吹っ飛びます。単純に事前情報で私の好みが盛大に揃ってました。
・関係性重視の恋愛モノ
・幼馴染
・佐藤健(初めての円盤マラソンは電王でした)
・現代モノ
 特に幼馴染もの(ただし幼馴染♂は病まないものとする)が好きなので、放送日前に設定見て「相手役が幼馴染大勝利!やった!」と見始めました。まあ、あれですね、その、舐めてました。途中から展開がしんどくて朝ドラで情緒不安定になってました。
 リツがいつ死んでもおかしくないなぁとか色々勘ぐりながら見てましたが、スズメとリツという2人の関係は至ってシンプルでした。
 最終回前週の朝イチで佐藤健さんがスパロウリズムでのキスシーンについて「リツが裏を貸したシーンから感情は変わってない。 最初から必要だったのは表だった 。向き合い方が変わっただけ」という旨の発言をされていて、全てが腑に落ちました。
 それにしてもリツさんの愛が重い、重いです。うーん、重いとしか言いようがない。サヤさんの嫉妬や欲なんて比ではないです。ただそれがいわゆる「ヤンデレ」にならないで最終回キレイに収まって本当に良かったと心から思ってます。最終回の展開次第で心バッキバキになるの覚悟してました。
 なので実況勢の皆様のスズメとリツ考察はもういいねいいね!とかつてない勢いでふぁぼしまくってました、ありがとうございます。
 朝ドラを1話から真面目に視聴するのは初めてなので、 これが毎朝15分、何年もの間鍛え抜かれた皆さんなのかと、考察の鋭さや言葉のセンスにおどろ木ももの木さんしょの木。
 …と、前情報の時点で好みでしたが、あくまで前情報はキッカケにすぎません。そこから見続けるかは作品によります。なので私がこの文章を書いたりブルーレイ買うのは、前情報含め作品そのものが好きなのだなぁと思った次第です。

5)最後に ――「分かりあえなくて良い。分かりあえないまま生きていける世の中がいい」
 冒頭で、このスタンスを貫きたいと申し上げました。これは『しまなみ誰そ彼』という好きな漫画の一節です。
 『しまなみ誰そ彼』は主人公の性指向の気づきやその悩み、自分らしさを模索する漫画、ですが一言で表せない。全4巻で完結しております。

 そしてこの一節は、主人公である「たすく」が想い人に、仲間とも言えるNPO法人の皆(LGBT)を侮辱され、彼が想い人に本音をぶつけたあとのモノローグです。私は『半分、青い。』を取り巻く感想の嵐に、そんな思いを抱きました。
 どんな意見があっても良い。ただその意見を持つことには賛否は付けられない。だから互いにその意見をぶつける必要はないのだと。
 私はいわば肯定的に見ていたので、同じ意見ばかり見ては意見が偏るかなぁと最初はそこそこ否定する側の意見も目にしましたが、その必要も無かったと大反省しています。自分が好きと思ったことを否定されても、自分が否定される訳ではないのですが、まあちょっとグサッと来ますよね。そして感想くらい偏ってもいいのかなぁと。
 個人的に議論が巻き起こる感じは嫌いではなかったです。 どうしても相手を論破しようとする感想になると、賛否ともに言葉が雑になって目が滑ってしまったのでそこだけ悲しかったですが。

 もっと色々と好きなシーンや書きたいことはありますが、一旦この辺りで締めます。ブルーレイ買ったので、諸々用事が終わったら感想絵を書きつつまったり楽しみたいと思います。半青はまったりさせてくれませんがね!絵を描くスピードも文章を描くスピードももっと早くしたいです。

 この作品に出会えて、とても夢中になれる半年を過ごせました。やっぱり、理屈抜きで好きな作品だなぁと思います。

 
お付き合い頂きありがとうございました。
(2018.10.13 誤字修正など)
#半分青い #感想

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