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超倍速の技術を駆使し、超高速の成長をめざす - Startup Interview #007 株式会社Epsilon Molecular Engineering

技術の力を、未来の力に──当社が投資支援する“リアルテックベンチャー”の代表や開発者に、解決したい社会課題や研究内容について聞くインタビューシリーズ。今回は画期的な技術を駆使し、「バイオ分子で未来を創る」をミッションに掲げる株式会社Epsilon Molecular Engineering(略称EME)の代表取締役社長 根本直人氏と、リアルテックファンドの担当グロースマネージャー室賀文治に、進化分子工学の可能性や従来のバイオ創薬企業との違いなどについて聞きました。

<プロフィール>
根本 直人(ねもと なおと)
株式会社Epsilon Molecular Engineering社 代表取締役 兼
埼玉大学大学院理工学研究科物質科学部門教授
1958年生まれ。茨城大学理学部物理学科を卒業後、高校教諭を経て、埼玉大学理工学研究科博士課程生物環境科学専攻に入学、指導教官は伏見譲教授。論文「遺伝子型/表現型対応付けにおけるウイルス型戦略の研究」にて博士(学術)を取得。三菱化学生命科学研究所特別研究員、株式会社ジェンコム主任研究員、バイオビジョン・キャピタル株式会社研究企画部長、産総研招聘研究員、創薬ベンチャー・ジュナシス株式会社の立ち上げなどを経て、2015年より埼玉大学大学院理工学研究科物質科学部門教授、2016年に株式会社Epsilon Molecular Engineering社を設立。
[企業サイト]https://www.epsilon-mol.co.jp/

進化を早送りするテクノロジー

ーー初めにEMEのコアテクノロジーである、革新的な進化分子工学技術について教えてください。

根本 進化分子工学技術をひと言で表すなら「タンパク質や核酸などの生体分子を、in vitroつまり試験管の中で高速で進化させる技術」です。

室賀 ただし類似技術と決定的に異なるのが、進化の速さがとてつもない点ですね。

根本 地球に生命が誕生したのは、35億年くらい前です。従ってそれだけ時間をかけた進化の結果として、今があるわけです。この途方もないほど時間のかかった進化を、我々は試験管の中で短時間で再現できます。話を未来方向に向ければ、これから自然に進化を重ねていけば1億年後ぐらいに誕生するであろう分子でも、おそらく1週間ぐらいで試作できる。進化分子工学技術とは、進化を超倍速で早送りできるテクノロジーです。

ーーその技術を使えば、具体的にどのような価値を創造できるのでしょうか。

室賀 最近、とみに注目されているタイムパフォーマンスに極めて優れたバイオ技術であり、その応用先としてまず考えられるのが創薬分野です。

根本 我々のコア技術である次世代抗体VHH(※1)を活用すれば、薬効成分のある分子を超高速で見つけられます。しかも、ターゲット分子は薬になるものだけとは限りません。人類が工業化を本格的に進めるようになって以来、地球には本来なかった数多くの物質が人工的に創り出され、その結果としてさまざまな環境破壊を引き起こしています。これら有害物質を分解する酵素を人工的に作成できれば、問題解決の可能性が出てきます。また、生分解性プラスチックなどを合成する上でも新しい産業用酵素が求められています。

※1 VHH抗体
アルパカやラマなどのラクダ科動物が持つ特殊な抗体。熱などの変性条件にも強く、低コストで大量生産可能など創薬分野で注目されている。ただし生体から取得するには、動物の確保や飼育などの手間がかかる。これに対してEMEのVHH抗体は、完全に人工的かつ天然のものより優れたものが作成されている。

ーー根本社長がリアルテックファンドと出会ったのはいつ頃でしたか。

根本 もう6年ぐらい前でしょう。JSTで技術発表を行う機会があり、VHHを使って次世代抗体をスクリーニングするプレゼンを行いました。そのあとリアルテックファンドとの連携をしていたリバネスの西山哲史さんと面談したところ、最初はあまり興味がなさそうでした。ところが環境問題を視野に入れていると話した途端、身を乗り出して話を聞いてもらえました。

室賀 西山からは「よくあるバイオベンチャーかと思ったら、良い意味でズバッと裏切られた」と聞きました。確かにバイオベンチャーといえば高分子の抗体医薬がよくあるケースで、そこはレッドオーシャンになりつつある。ところが根本社長が見据えている世界は、通常のベンチャーとは次元が違いました。これ以来ですね、私たちが深く関わるようになったのは。

めざすのは社会貢献、創薬から環境、エネルギー問題まで

ーーとはいえ、まずはバイオ創薬をめざしているのですね。

根本 可能な限り速やかに事業ベースを固めるため、共同開発と自社創薬開発の両面作戦で進めています。その際に強力な武器となるのが高速スクリーニング技術です。創薬における最難関の課題が、特定の疾病に効力を持つ分子の発見です。候補となる分子が数千万個もある中から、有効なものを絞り込んでいく。この作業に通常なら最低でも1年以上はかかります。ところが我々のVHH抗体スクリーニング法を使えば、1カ月以内に取得可能です

室賀 VHH抗体といえば、通常はアルパカなどの動物由来ですから、いろいろ手間がかかるものと思っていました。

根本 我々のVHH抗体はバイオインフォマティクスとタンパク質工学を駆使してデザインした人工VHH抗体ライブラリと無細胞翻訳系を利用して、試験管の中だけでスクリーニングが完結します。だからスピード感がケタ違いとなるわけです。

ーーコロナウイルスの中和抗体も、いち早く作製されたと聞きました。

根本 新型コロナウイルスの抗原を入手してから2ヶ月後の2020年の4月でした。これは日本では一番最初の中和抗体(コロナウイルスの感染を防ぐ能力をもつ抗体)でした。仮に試験管内ではなく、アルパカから抗体を採集して実験を繰り返していたのでは、1年以上かかっていたと思います。

室賀 その技術を創薬に役立てるために起業した。ベンチャー起業の理由は、一定の資金が必要だったからですね。

根本 私自身は過去に2回、ベンチャーを立ち上げた経験があり、起業の大変さは骨身にしみています。ようやく大学にポストを得たのだから、あえてもう一度ベンチャーをやろうとは考えていませんでした。それでも今回チャレンジした理由は2つあります。第1には所属していた大学では運営費が限られていたため新しい助教を採用できなかった事です。従ってこのままでは、私が20年かけて培ってきた技術を継承できなくなります。また、第2の理由として、EMEで開発しているようなスクリーニング技術を実現するには、大学の研究室レベルでは到底まかないきれないほどの設備投資が必要になったことです。

ーーベンチャーを起業するにしても、ご自身が経営者を引き受けなくても良かったのでは?

根本 その点は、リアルテックファンドの丸幸弘さんから釘を刺されました。要するに技術が一番わかって、責任を持つ私が代表をやるべきだと。

室賀 根本社長は20年にわたり「in vitro virus」技術(※2)を自ら研ぎ澄ませてきた研究者であり、しかもベンチャー起業も経験している。研究と経営の両面に目配りできる稀有な存在です。実際、根本社長だからこそ、その人脈を活かしてバイオベンチャーのキーパーソンとなる創薬のプロを外部から引っ張ってこれたと思います。

※2 「in vitro virus」技術
根本教授が師の伏見譲・埼玉大学名誉教授(EME科学技術顧問)と共同開発した、試験管内でウイルスを人工的に合成する技術。根本教授はこれをテーマとした論文により博士号を取得している。

誰よりも弱点を熟知している、だから誰よりも強い

ーー創業から6年を経過して、企業との共同研究などはどこまで進んでいるのでしょうか。

根本 現在、共同プロジェクトを進めている大手企業が5社あり、一方では独自のパイプライン(※3)も14個あります。いずれもVHHを活用していて、非臨床ながらin vivoレベル(※4)まで進んでいるものもあります。自社開発分については、メガファーマへの導出をゴールに見据えています。

※3 パイプライン
医療用医薬品の候補となる創薬分子。製薬企業にとっては、新薬候補となるパイプラインの所有数が、将来性を示す指標の一つとなる。
※4 in vivoレベル
in vivoとは「生体内で」を意味する。製薬プロセスにおいて、試験管内(=in vitro)での実験を終え、マウスなどの実験動物での反応をみる段階を表す。

室賀 VHH抗体については、おそらく世界トップの技術力と高く評価しています。根本社長の経験を踏まえてのことば「この技術の難しさ、弱点については、世界の誰よりもよくわかっています」が、強く印象に残っています。

ーーしかも、過去の起業経験を踏まえてベンチャー経営の勘所も抑えている。

根本 まずは技術力、創薬ベンチャーの場合はスピードが命といっていいでしょう。それも少し良い位ではダメで圧倒的に良くなくては世界では戦えません。そこで、最大の強みである高速スクリーニング技術に関しては常に弱点を認識して日々改良しています。さらに、最近ではこの圧倒的なスピードを分子デザインに応用して最適なデザインに短時間に到達することがEMEの本当の強みに成りつつあります。その上でクライアントとなる製薬企業については大手と中小で異なるニーズを理解した上で、どちらにも対応できる体制を整えています。もう一点、過去の体験で身にしみているのが資本政策の重要性です。資本政策は後戻りできないとよく言われますが、EMEはベンチャーキャピタルからの投資を受ける際に上場でEXITしたい考えを明言しています。上場後にEMEとして実現したい夢があるため、競合相手や製薬企業に買収されないことを第一に考えました。

室賀 資本政策に関しては、我々も全力でサポートしています。

ーーVHHにはさまざまな可能性があると聞いています。

根本 革新的ながん治療法として注目されている、光免疫療法(※5)にVHH抗体を活用できる可能性も見えてきました。現時点での光免疫療法は皮膚に近い部分のがんに限られていますが、VHH抗体を活用すれば、現状では対応できない大腸がんや食道がんにも適用範囲を広げられるのです。

※5 光免疫療法
米国立がん研究所主任研究員である小林久隆氏が開発した、新たながんの治療法。がん細胞だけに結合する抗体に、近赤外線により化学反応を起こす物質をつけて体内に投与する。抗体はがん細胞と結合し、そこに近赤外線を照射すると、化学反応によりがん細胞だけが破壊される。がん細胞の破壊は1~2分で終わり、体内でほかの副作用は起こさないため、革新的ながん治療法として期待が集まっている。最近では東京大学の児玉龍彦名誉教授らの研究グループも​​独自の光免疫療法を開発し、効果を上げている。

ーーVHH抗体はBBB(Blood-Brain Barrier:脳血液関門)もすり抜けられるそうですね。

根本 もちろん脳をターゲットとした共同研究も進めています。もう一点、大手がやらないような希少疾患、いわゆるアンメットメディカルニーズ(※6)にも応えていきたい。特に、未来のある子供たちに少しでも役に立ちたいという思いもあり、小児疾患への対応を視野に入れています。

※6 アンメットメディカルニーズ
現時点で有効な治療法の見つかっていない疾病に対する医療ニーズ。

室賀 具体的な事業展開が見えているわけで、そうなると当然、上場も視野に入ってきています。

100年先の理想を描く

ーー上場は大きな目標となりそうです。

根本 たしかに一つの節目ではありますが、我々にとってはゴールなどではなく、そこからがスタートだと考えています。というのも、我々は持てる技術を、使えるものなら何にでも使って世の中に貢献したい。だからといって闇雲に多角化を進めるのではなく、まずは医薬品事業がガッチリと足場を固める。そのうえで株式公開を経たうえで一気に横展開に乗り出していきたいのです。産業用酵素の応用範囲は幅広く、環境汚染物質の分解やアルコール合成関係に使えば、環境問題やエネルギー問題の解決にも貢献できますから。

ーーリアルテックファンドとしては、どのような展開を期待しているのでしょうか。

室賀 私自身はEMEの強みとしてサイエンスだけを評価したわけではありません。それは当然の話であり、私が何より惹かれたのは根本社長の人間性です。先日も埼玉大学内にある本社に行ったのですが、若い人たちが多くて、授業でもやっているのかと思ったほどです。もちろん集まっていたのは学生さんではなく、研究員たちで彼らが一様に目を輝かせている。そんな人材が自然と集まってくるのが、根本社長の人間力の証であり、これほど活気にあふれたベンチャーは強いと思います。

ーー今後の成長や事業展開を考えれば、まだまだ人材が不足しているのではありませんか。

根本 これからのEMEの成長を牽引する、30代を中心とした、コアメンバーを固めていきたいと考えています。しかも、世界を変えるものづくりに取り組みたいと、そんな大志を持った人たちに来てもらいたい。私自身が経営に関われるのは、長くてもあと10年まででしょう。だから、次の世代を担ってくれる人材を求めています。

室賀 決して大げさではなく、ものづくりによる課題解決で世界を変えるビジョンを持つベンチャーです。そのスケール感を理解すれば、自分ならどんな貢献をできそうかと未来像を描けるのではないでしょうか。それだけ大きなステージが手の届くところにあるわけです。

ーー最後に次世代を担う人材への期待をお聞かせください。

根本 次の経営者に引き継いでほしいのは「さすが、EMEだね」と世界からリスペクトされる事業への拡大です。10年単位ではなく、100年単位の大志を抱いて、EMEを飛躍させる。そんな人材を期待します。



株式会社Epsilon Molecular Engineeringでは現在、創薬企画に興味のある方、経験をお持ちの方、また、in vitro薬効薬理試験の経験がある研究員候補を募集していますを募集しています。
詳しくは以下をご覧ください。
https://www.epsilon-mol.co.jp/careers/recruit/

構成(インタビュー):竹林篤実