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[雑記]2023年ノーベル経済学賞はハーバード大学のクローディア・ゴールディン教授に。

公式イラストに描かれている犬については後述・・・
<本記事はジェンダー論、ジェンダーイシューについて問うものではありません>

2023年のノーベル経済学賞として、女性の労働環境や男女の賃金格差などについて研究をされていたクローディア・ゴールディン教授が選ばれました。専門は「経済史」のようで、歴史的な背景を重視した研究アプローチに特徴があります。
良いですね。弊方もIT史みたいなことをやってみたいと思っています。

3行で

  • 時代と共に男女の労働格差・賃金格差は縮小している…わけでは『ない』

  • 未来は、多くの人が期待した通りに『ならない』

  • 施策や投資の内容が正解かどうかは『数十年後でないと分からない』


ちなみに「ノーベル経済学賞」と日本のメディアでは報じられていますが、そんな賞はノーベル賞には無く、スウェーデン国立銀行が賞金を出している『スウェーデン国立銀行賞』というのが元タイトルに近いかも知れません。

※ノーベル賞はアルフレッド・ノーベルの遺言に書かれていた物理学、化学、医学/生理学、文学、平和に貢献した人に贈られる賞であり、"経済学"については子孫もスウェーデンアカデミーも認めていないとのこと



クローディア・ゴールディン教授について

1946年ニューヨーク生まれ。ニューヨーク州にあるコーネル大学を卒業、その後シカゴ大学で1969年に修士号取得、1972年に博士号を取得。

旦那さんも経済学者で、ハーバードの同僚でもあるローレンス・F・カッツ教授。ゴールデンレトリバーを飼っているらしい。by Wikipedia

ということで、スウェーデン・アカデミーのイラストの犬の正体はゴールデンレトリバーでした。ゴールデンレトリバーが寄り添って一緒に調べてるように描かれているのが良いですね。

https://scholar.harvard.edu/goldin/pages/pika

研究活動の初期はアメリカ南部の奴隷制と都市経済の関係性についての本を出したり、「The Economic Cost of the American Civil War」という南北戦争を題材にした研究論文を発表するなどしていた模様。

Urban Slavery in the American South, 1820-60 , 1976年

その後、児童労働や移民の労働環境などについても研究を進めていく中で、女性の労働についてフォーカスしていくようになったとのこと。1990年、「Understanding the Gender Gap: An Economic History of American Women」(アメリカ人女性の経済史:ジェンダーギャップについて)を出版。1991年、「The Role of World War II in the Rise of Women's Employment」(第二次世界大戦の女性の雇用への影響)を発表。その後も教育との関係性や、家庭との両立などについて論文を発表。

授与コメントによると、アメリカの女性の労働状況に関する200年以上のデータを収集し、収入と雇用率における男女差について研究を行い、発見した成果を取りまとめたとのことです。


研究成果

こちらのプレスリリース(一般向けライト版)よりピックアップしてみます。意訳、抜粋している部分あり。

産業の高度化=女性の就業率向上・・・では「ない」

工業化の前の時代の方が、女性が労働に参加していたことが分かった。
例えば子供が成長した後に職場に戻ろうと思えば、そこには10年前、20年前と変わらない同じスキルが使える労働環境が存在していた。また子供を畑など作業場に連れて行くこともできた。(下図、1820年頃には働く女性の傍に子供がいるが、その後は姿が消える)

結果として、工業化が進めば進むほど特に既婚女性が労働と家庭の両立をし辛くなってしまい、女性労働者が減ってしまった。(下図の落ち込み箇所)

The U-shaped curve. © Johan Jarnestad/The Royal Swedish Academy of Sciences


都会では「女性は結婚前に少し働き、結婚後には労働市場のメインストリームから退出するようになる」と誰もが思っていたが、そんなことはなかった

かつてアメリカやイギリス、オーストラリアなどで結婚した女性の労働を制限する慣例が一時的に存在していました。特に第一次世界大戦や大恐慌の後などで、より職に就くことが重要な人々や独身女性などに就労の機会を与えるべきという考えがあり、それを"結婚バー"と呼んでいたようです。
アメリカにおいては都会の公共施設や教育機関などで働く比較的に高い教育を受けた中流の女性が結婚を機に退職するという状況となったものの、その一方で農村などにおいては教師が不足しており、結婚した女性も仕事に就くことができたとのこと。
これらは不平等であるとされ、多くが現在では廃止もしくは法律で禁止されています。

工業化が進み効率化されたはずが労働力の需要は高まり続け、サービス産業の時代に突入すると「働く女性」が求められるようになりました。また子供が巣立った後、労働の場に戻ることが期待される状況が発生しました。

ということで、都会のハイ・ソサエティな環境においては『将来、女性は働かなくて良くなる』と多くの人々から期待されていたが、むしろ働くことを求められる時代が訪れた。というストーリーが明らかにされました。
そして、そもそもそんなキャリアを前提とした学習をしていないために、多くの女性が就労環境も賃金も難しい状況に直面することとなってしまった、、ということがあるようです。

女性を取り巻くポジティブな要素としてピルが挙げられています。異なる年、異なる州でのデータを調査したところ、ピルを使えるようになったことで女性の学習に変化が生まれたとのこと。
つまり、女性が自分自身をコントロールできるようになったことで自己投資が進み、経済や法律、医療の道に進む女性が増えたとのこと。これらのことからピルが男女の格差の縮小に効果があるとしています。今ではピルは当たり前の存在ですが、過去の人々が予想できたでしょうか。

未来は良くも悪くも思い描いたようにはならないのであります。

The importance of expectations. © Johan Jarnestad/The Royal Swedish Academy of Sciences


安定した"雇用"の誕生が、男女の賃金格差を縮小させては「いない」

フリーランスと雇われの違いと言いますか、かつて出来高払いで働いていた時期の男女の賃金格差は比較的小さかったようです。それと比較し、月給制への移行が男女の賃金格差を広げたとのこと。
「安定した雇用がある経済環境」は長期に中断なく働ける人材を評価します。雇用する側の評価システムとして「そりゃ、そうなる」わけではありますが、「男女の賃金格差はその前は違かったんだよ」ということをクローディア教授は明らかにしました。
過去の、作業成果のみが評価されていた時代の方が、男女の賃金格差というものが少なかったという。

どちらかと言えば、安定した雇用環境が実現され「高度な社会」が実現しても、それイコール男女の賃金格差を減らすことではないということですかね。



興味深い内容でした。

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