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サイケデリック療法が医療科への道

2017年4月、世界中の幻覚剤コミュニティがサイケデリック・サイエンス会議の為にオークランド・コンベンションセンターに集まった。

リック・ドブリンが1986年に設立した幻覚剤学祭研究協会(MAPS)が、数年ごとに開催するイベントである。

2016年米食品医薬局(FDA)はMDMAの第三相試験を承認し、シロシビンもすぐにそれに追随すると思われた。第三相試験についても第二相に近い結果が出れば、政府はその2種類の薬品の分類を再検討せざるを得なくなるはずで、そうなれば医師達もMDMAとシロシビンを処方できるようになる。

わずか7年前の2010年には、主流からはみ出した一部の研究者達が集まるこじんまりとした会合だったものが、今では25カ国の研究者たちの業績発表を聞くために世界中から3000人以上の人々が集まる、6日間にわたる会議/大会に成長したのである。

医学関係者や科学者はもちろん、セラピストの巨大代表団がセラピーに幻覚剤を熱心に取り入れようとし、さらには投資家や映画製作者、わずかながら起業家連中までもがビジネスチャンスを探してあたりを嗅ぎ回っていた。

どのセッションがいちばん印象的だったか参加者達に尋ねると、だいたい口を揃えて、幻覚剤精神医学の未来と題した大会最大の討論会を挙げた。この討論会の何が注目に値すのか、それは錚々たるパネリスト達であり、幻覚剤学会という場にあって、それが会場内になんとなく漂っている違和感の原因になっていた。

米精神医学会の元会長ポール・サマーグラッド医学博士が国立精神衛生研究所の元所長トム・インセル医学博士の隣に座っていた。

討論会を計画し司会を務めたのは、アメリカ人の企業家で、ロンドンを拠点に健康保健産業コンサルタントをしているジョージ・ゴールドスミスだ。

この数年、彼とロシア出身の医師である妻のエカテリーナ・マリエフスカイアは、EU内でシロシビンを用いるセラピーを承認させる事にかなりの努力と資金を注ぎ込んできた。

3人のパネリストが何を象徴しているかは、立ち見さえ出ているその会場の聴衆たちの誰の目にも明らかだった、すなわち精神医学会の主流派がついにサイケデリック療法を認めたという事である。

「幻覚剤には大きな将来性があります」インセルは言った「だが、安全性、厳密性、世評にさらされる危険とらいった諸問題はつい忘れがちです」
一般の人々の頭にある幻覚剤のイメージをブランディングし直す必要があるかもしれない、そして何より「娯楽のための使用」を匂わせるものにはいっさい近づかない事が大切だとした。一人でも杜撰な研究者や恐ろしい経験をする患者がいたら、それだけで全員の信用が失望すると警告した。

サイケデリック療法が認可され、当たり前に利用されるような世の中は本当に間近なのだろうか?その時の世の中はどうなるのか?

医療科への厳しいハードル

第三相試験として、複数の場所で何百人という被験者を対象に試験をする必要があり、それには数千万ドルの費用がかかる。

その手の試験は普通、大手製薬会社が資金援助するものだが、今のところ幻覚剤にはどこもあまり関心を示していない。

ひとつには、幻覚剤は知的財産にはなるとしても、ほかにあまりうまみがないからだ、シロシビンは自然界に存在するものだし、LSDの特許権は何十年も前に失効している。
また、大手製薬会社が投資するのは定期的に使用される薬品、つまり毎日摂取しなければならない薬が大部分だ。一生に一度必要なだけの薬に投資しなければならない理由がどこにある??
精神医学界側にも同じ事が言える、例えば毎日飲む抗うつ剤とか、週に一度のカウンセリングとか、永続的な治療が主流なのだ!

サイケデリック療法のセッションは何時間も続き、普通は二人のセラピストがつかなければならないが、期待通りにセッションがうまくいけば、何度も繰り返す必要はない。どういうビジネスモデルを想定すればいいか、今はまだはっきりしない。


幻覚剤による神秘現象(スピリチュアル体験)はただ摂取するだけでは神秘現象にはならない。それが医療現場にしろ、そうではないにしろしっかりとした知識やガイド役がなければただのドラッグ体験のままだ!

幻覚剤による意識の変容、自我の崩壊、などと言われるとちょっと怖く聞こえるかも知れないけど、精神疾患者やがん患者への効果がハッキリと出ていて、その後の体験談では、このサイケデリック体験は人生の中で最高の体験だと言う人が沢山いる。

幻覚剤による神秘体験は、言葉で表すのが難しく私たち一般人にはよくわからないが、神秘学者によれば、神秘体験に共通する特徴として、一般に次のようなものが挙げられるという。

自分自身も含め、ありとあらゆるものが一つになるというイメージ。
何かに気づき、知ったという確信、歓喜、幸福感、満足感、時間、時空、自我など、世界を構築する秩序の超越。何にせよ自分が感じ取ったものは神聖で、しばしば相矛盾する感覚。

そして最後に、体験のちからを人に伝えようとどんなに言葉を尽くしても、結局は言葉にできないという確信。


幻覚剤による神秘現象(スピリチュアル体験)はただ摂取するだけでは神秘現象にはならない。それが医療現場にしろ、そうではないにしろしっかりとした知識やガイド役がなければただのドラッグ体験のままだ!

参考書籍 幻覚剤は役に立つのか マイケル・ポーラン

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