2022年振り返りと2023年展望

政策変更は突然に

9月の金融機関のポジション調整に翻弄されてスタートした今四半期。よくわからないアセットアロケーション調整とか、よくわからない大口の売りとか、需給的にはネガティブなイベントをこなしながら推移し、「P/NAV1倍が下値」という簡単なバリュエーション目線で投資していれば大けがをしなかったのに、日銀による突然のYCC修正により崩壊。政策変更が発表された日の東証REIT指数の下落幅がTOPIXより大きかったのは、「不動産は金利上昇に弱い」という連想も働いたのでしょう。

年間で見れば、東証REIT指数は▲8.34%の下落となりました。1月はウクライナ侵攻、アメリカでの利上げ加速観測などにより2,050ptあった東証REIT指数は一気に1,800pt台まで下落。一方、春先の海外勢の旺盛な資金流入、安値圏での金融機関のETF買いなどにも支えられ、日銀の政策変更発表までは心地よい水準感でした。

個別銘柄の年間の騰落率から2022年を振り返ってみましょう。
2022年の騰落率ランキングは以下の通りです。

ベスト5

  1. インヴィンシブル +40.11%

  2. ジャパン・ホテル・リート +37.90%

  3. いちごホテル +37.23%

  4. ユナイテッドアーバン +11.39%

  5. ヘルスケア・メディカル +11.25%

ワースト5

  1. 産業ファンド ▲31.65%

  2. サンケイリアル ▲25.44%

  3. 三井不動産ロジスティクスパーク ▲25.43%

  4. 日本プロロジス ▲24.20%

  5. GLP ▲23.93%

分かりやすくホテル好調、物流不調という1年でした。ホテルに関してはリオープンによる業績改善期待、物流は米国物流不動産の変調や、金利上昇による成長ストーリーの変化が要因として考えられます。
個人的には夏前ぐらいに「ホテルの上昇は9月まで、物流は秋からリバーサル」となんとなく思っていたのですが、ホテルは夏に買ってもまだ儲かるという環境でした。一方、物流は秋にPOが相次いだことや、YCC修正のあおりを受けたことから浮かび上がることができませんでした。
ファンダメンタルズではオフィスが最もやり玉に挙げられていたと感じましたが、投資口価格という面ではソニーグループが退去したサンケイリアルがワースト5に名を連ねているのみで、ディスカウントPOとなったグローバルワンや稼働率苦戦中のジャパンエクセレントはワースト5に入りません。それぐらい物流系銘柄がボロボロだった1年となりました。みんながこぞってPOしまくった2018年を思い出すような展開です。

さて、来年のREITマーケットはどうなるでしょうか。

まずオフィス。三鬼商事発表の都心5区空室率については、今年の第1四半期は空室率の下落傾向が表れるのではないでしょうか。ただ、2023年はご存知の通り大量供給の年であり、今年後半にかけてはやはり空室率は上昇に転じて7%台半ば程度となると思っています。
一方、外資ITでかなり出社率を上げているなど、オフィス回帰への動きが見て取れるのも事実です。今後、オフィス回帰の動きが進んで、テレワーク前提で床を減らしたけどやっぱり手狭!と転換する企業が増えてくればポジティブなのですが、果たしてオフィス回帰が2023年に進むのか。
投資口価格という面では、合併や敵対的買収を期待したいバリュエーションであれば手を出してもいいのかなと思います。外部成長・内部成長ともに期待はできないですし、「割安感」だけで手を出したいのであれば、そのぐらいしか材料がない。ここ最近は、自己投資口取得を行っても投資口価格上昇の持続性が弱いことが気がかりです。

住宅と商業のファンダメンタルズについては特にいうことはありません。東京都心の賃貸住宅は、東京への人口流入が戻ってきていることから堅調でしょう。賃貸営業系のアカウントの方の動向を見ていても、繁忙期はキッチリ稼働を取れるのではないかと思っています。商業もラグジュアリー中心に売上は戻ってきています。一部飲食ビルでは後継テナントのリーシングに苦戦が見られますが、REITの業績を悪化させるほどのインパクトはないと思います。
住宅セクターはかなり調整されて、少し目に優しいバリュエーションになってきました。商業もいいのですが、そもそも構造不人気セクターなので、業績の安定性と上値を追えるかはまた別のお話かと思います。

難しいのは物流。こちらも商業同様に、2022年の下落でだいぶ目に優しいバリュエーションとなりました。本邦の物流マーケットは供給増の影響で空室率は上昇していますが、堅調なファンダメンタルズを考えれば、金利上昇とグローバルの物流市況の変化だけで説明をつけるのは難しいような印象です。
2018年の状況に少し似ているとも述べましたが、翌年の2019年はキッチリとリバーサルしています。なので、米国を中心としたグローバルの金利上昇が一服すれば、物流銘柄に期待していいのではと思います。但し、POの時期、サイズには注意を払う必要があるでしょう。

もう一つ難しいのはホテル。セクター全体としては悪くはないと思うのですが、流石に2022年のようにどれを買ってもOKとはならないでしょう。コロナ前の水準まで投資口価格を戻した銘柄もあり、バリュエーション上の魅力が薄まったことも事実です。
ホテルセクターの業績が完全回復するには、インバウンド(特に中国)の回復が不可欠ということはご存知の通りです。昨今の中国における行動制限解除はポジティブですが、中国のコロナ感染者数の増加とそれに伴う水際対策の強化などもあり、2023年中に中国からのインバウンドが完全復活するかはやや疑問です。しかし、コロナ禍前は中国人が900万人以上訪れていたため、せめてその2割程度でも戻って来ればそれなりのインパクトはあるのではないでしょうか。
ファイナンス面では、業績の好転に伴いコベナンツヒットの状況から脱出し、好転の兆しが見えます。バリュエーションもいいところまで来ていますし、パイプラインを抱えている銘柄では2023年にPOも復活もあるのでしょうか?

全体的にはYCC修正は確かに短期的にネガティブですが、業績・NAVにそれほど影響を与えないと思われるので、そのうち落ち着くんじゃないでしょうか。
借入金利の上昇を指摘する声も聞かれますが、REITの借入金は固定比率が高いため、一気に金利が上昇する可能性はほぼないでしょう。リファイナンスのたびに金利が上昇することは否定しませんが、変動金利での調達を増やしてマネジメントすることも可能です。
NAVの面では、教科書的に考えれば金利上昇=キャップレートの上昇=物件価格の下落に繋がります。しかし、実勢の売買価格と比して、REITの保有物件の鑑定価格は依然として乖離がある(ということを教義としている宗派に属している)ので、継続鑑定におけるキャップレートが上昇に転じるとは考えづらいです。新規取得する物件で変調が見られるのであれば、低LTV銘柄はチャンスだと思います。
そもそも、REITの市場参加者はYCC修正はある程度覚悟していたのではないでしょうか。僕程度の知見でもYCC修正の可能性について触れていましたし、聡明な皆さんは10年債金利0.25%→0.50%程度の修正ではもちろん狼狽えていないものと思っています。一方で、3月前後の指数の居所と中銀の姿勢については注目した方がいいと思います。黒田総裁の後任人事で嫌でも注目するでしょうけど。

2023年も上値は追わず、火傷しない水準で拾うスタイルになるのでしょうか。それができたら苦労しないんですけど…来年はもう少し外部環境に振り回されないことを願います。

良いお年を

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