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Split of Spilit 10

「本当に申し訳ない!!」

鳴田は松裏たちに平謝りする。

「ったく、何だったんださっきのは。」

というのも、先刻まで南場が、松裏たちと話していた。

内容としては、鳴田が拉致された件についての口外を控えてほしいとのことらしい。

俺は中学生の頃の同級生とたまたま出くわし誘われるがまま、昼食についていき、ドカ食いして気絶したことになっている。

南場が決めた設定に思わず怒鳴りそうになったが、今回に関しては自分から罠に引っかかっているので南場に対して強く出られなかった。

先生たちにも一応この説明で通してある。

多少の説教はあったが、ほとんど身に覚えのないことなので対して響かなかった。

「まぁ、無事でよかったけど。」

「ほんとに心配したんだから。」

槙野さんに指で刺される。

「ご、ごめん。」

俺を待ってくれていた班の人たちは、ほかの人よりかなり遅れて大浴場に入る。

「全く、いきなり飛び出したときは、びっくりしたぜ。」

松裏が湯船に浸かりながらため息をもらす。

「本当に悪かったと思う。」

「でもなんでお前じゃなくて、南場先生が俺たちに口止めするんだ?」

「それは………」

言葉に詰まる。

「誰だって一つや二つ抱えてるものがあるんだよ。」

南場が浴場のドアを開け、入ってくる。

「先生!!?」

「まぁ深くは聞かないでやってくれ。」

正直口の堅そうな松裏になら話してもいいかと思ったが、危険に巻き込みたくない。

話さないのが正解だろうと窮地を救ってくれた南場に少し感謝する。

だが、その後、南場からチラチラ視線を感じたので足早に浴場を出る。

のれんをくぐったところで松裏を待っていると、浴衣姿の槙野さんが出てくる。

見てはいけないものを見た気がしてその罪悪感から、思わず目をそらしてしまう。

「やっぱりお風呂はのんびり入りたいよね~」

「そうだね」

鳴田はぶっきらぼうな返事をする。

「別に今日のことは気にしてないから、いつも通りでいいよ。」

「いつも通りっていうのは?」

「それは………」

槙野さんは鳴田について早口でしゃべったことを松裏にからかわれた状況を回想する。

「何でもない。」

「何でもないってことはないでしょ」

「…………いつも通りの優しくて、誰かを助ける人でいてってこと。」

鳴田は少しだけ淋しそうな顔をする。

ちょうどその場面だけを同じ班の女子に見られていたらしく、その子と目が合った槙野さんは一目散に部屋へと走っていく。

「よかったじゃん、鳴田。」

槙野さんがいなくなったスペースに入る。

この女子の名前は確か『藤沢さん』だったと思う。

「うん。」

「何でそんな悲しそうなの?

やっぱ今日なんかあった?」

「何でもない。」

「何でもない」という言葉は、使われた側からすれば、本音を隠されたような気がする。

使う分には、自分の知られたくない心情を隠すことができるので、ありがたい。

「ふーん、大丈夫ならいいんだけど。」

藤沢さんも、槙野さんを追いかけて去っていく。

松裏が南場と一緒に出てくる。

「はぁ~いい湯だったぜ!!」

「まさか、その年になって湯船で泳ぐやつがいるとは思わなかったです。」

「おい、馬鹿にしてんのか?」

「マジかよ、南場ちゃん………」

鳴田は南場のあまりの行動に動揺を隠せない。

とはいえ、南場の尊厳のために自分の心情を隠すつもりなど微塵もない。

「おい、鳴田、ドン引きするなって。」

俺が悩んでいたり、大事な考え事をしているときにいつも南場は、ふざけた態度で俺の気持ちを晴らそうとしてくれる。

鳴田の中で1つの結論が出る。



~鳴田・松裏の部屋前の廊下~

「おい、バレるから早く!!」

「何でわざわざ……」

「修学旅行といえばやることなんて一つに決まってんだろ、女子の部屋に行くんだよ!!」

松裏の眼は静かに燃えていた。

この日のために宿泊予定地、部屋までのルート、見回りの先生のルートを調べ上げ、あらかじめ女子との口実合わせを実行した松裏。

今の松裏に死角はない。

決してインポッシブルではないミッションが幕を開ける。

「止まれ………」

鳴田が自分たちの部屋に戻ろうと体を回して、直進しようとしていたところだった。

「約20秒後に見回りの先生がそこを通る………」

松裏のいうとおり、ぴったり40秒後に、先生が通り過ぎる。

「お前、それもっとほかの方向に活かせないのかよ。」

「浪漫に生き、浪漫に死ぬ。それが漢道と心得たり。」

「えらく煩悩にまみれた漢道だな。」

松裏の完璧な指示のもと、無事槙野さんたちの部屋までたどり着いてしまう。

ドアを開けると、槙野さんたちが待っていた。

「UNOしよーぜ、UNO。」 「UNOある?」 

「UNOにする?」

「ちゃんと聞けよ、互いの話。」

「罰ゲーム何にする?」

「やっぱ恥ずかしい話でしょ?」

「「いいねー」」

女子二人が賛同する。

余ほど自信があるようだ。

松裏がカードをシャッフルする。



「「「………。」」」

予想通り、鳴田の全敗だった。

「お前、UNO弱すぎるだろ!」

そんなこと言われたって昔から賭け事には弱いのでしょうがない。

「恥ずかしい話4つも出てこないだろ。」

「そうだね。」

二人から同情される。

「小学生のころ、一人でトイレに行くのが怖くて、先生を呼んだことがある。」

「ふふっ、可愛いもんじゃん。」

「そうかな。」

「まぁこのくらいで勘弁しといてやるか。」

「助かる。」

「じゃあ次俺。

絶対に俺のこと好きだろって思ってた人が、別の人と付き合ってました。」

「うへ~」

「キッッツ」

女子たちは酷い言葉を浴びせるが、やはり松裏は盛り上げ上手だ。

不意に戸がノックされる。

「やば、先生かな?」

「隠れろ!鳴田!」

松裏は脱衣所に、鳴田はベランダに身を隠す。

藤沢さんがドアの覗き穴から確認する。

「南場先生!?」

ドアを開ける。

「どうしたの?こんな夜遅くに。」

「いや、改めて今回の件は内密に頼む。」

「うーん、何か報酬がないとね………。」

「しょうがないな、3人には数学のテスト範囲をちょっと先に教えてもらう」

「「「やったー」」」

「あ、おい。」

松裏が脱衣所から顔を出しているのを南場が見つける。

「やっぱりな!」

南場が得意げな顔をする。

松裏は強制送還された。

ただ今回の件に関してはお咎めがなかったようだ。

鳴田は一人部屋に残される。

「先生、あのー」

松裏が恐る恐る話しかける。

「あぁ、それについては知ってる。」

「あいつもケジメをつけとかないといけないもんな」

「?」

槙野さんがベランダにやってくる。

「もう先生いなくなったよ。

松裏くんもいなくなっちゃったけど。」

「そうか。」

「驚かないんだね。」

「南場ちゃんはそういう奴だからな」

「でも懐かしいね、小学生の頃って。

鳴田君、六年のころは応援団長してたもんね。

そのおかげで優勝できたし。」

「それは、俺の力じゃないよ。

みんなが頑張ってくれたから。

俺には応援しかできなかった。」

「そんな事ないよ、鳴田君は、いつも誰かを助けてる。」

鳴田は覚悟を決める。

「槙野さん、あのさ。」

「うん。」

「俺、しばらくの間学校に行けなくなる。」

「なんで?」

当然の返答だ。

「理由は………詳しくは話せないんだ。」

「今日のことと何か関係があるの?」

「あぁ」

「ふふ、『詳しくは話せない』って言ったくせに。」

「あ…………。」

「鳴田くんのそういう所、私、気に入ってるよ。

でも学校に行かないのはダメ。」

「そっか………。」

「止めてもどうせ聞かないんでしょ。」

「申し訳ない。」

「いいよ、別に、知ってるから。」

鳴田がベランダを出ようとする。

すると、槙野さんから話しかけてくる。

「ねぇ、覚えてる?『牧野君』とのこと。」

たしか小学生の頃の同級生にそんな名前の奴がいたはずだ。

「ちょっとうろ覚えだけど。」

「私が槙野で、向こうも牧野さんだからみんなに、まきの1号、2号って言われて。

私は別に気にしてなかったんだけど。

鳴田くんがさ。

『槙野さんは槙野さんだし、牧野君は牧野くんだろって』って。」

正直そんなやりとりがあったかどうかすら覚えていない。

「恥ずかしい話の続き?」

「私がよく覚えてるって話。」

「…………うれしい。」

それから自分たちの部屋へ戻ると、松裏からしつこく「告白したか」と聞かれたので、適当に返事して、寝ることにした。

布団の中で、あの時の槙野さんの話は苗字で呼んでほしいということに繋がっていたのではないかとも考えたが、あまり深く、思い出さないようにした。

〈続く〉





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