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22.天の采配

私の地元の教務支庁には『誠錬寮』という短期の布教実習所(2024年現在は既に閉鎖)が併設されており、地元の教会後継者や布教熱心な布教所の子弟、時々他県からも入寮者がやってきて、6か月間、若干名の志願者が布教寮さながらの共同生活している。

私は布教の家出身歴があり、また誠錬寮所在地域の人間であることから、寮の育成担当者のひとりとして教区から役目を仰せつかっていた。


その日私は、誠錬寮に顔を出すに当たって、ふと何気ない思いつきから、食べ物の差し入れをしようと某有名チェーン店に立ち寄り、そこでハンバーガーのセットを寮生の人数分買ってから向かった。

寮生の皆さーん、いいもの買ってきたよーん(^O^)!ジャジャーン 

とサプライズ的にハンバーガーの入った紙袋を彼等に見せると、2名の寮生さん等は互いの顔を見合わせて大層驚いている様子だった。

「ピ、ピーナッツさん…まさにたった今それがテレビのCМで流れてて、『あ~これ食べたいなぁ』って2人でつぶやいていたところなんですよ!
ワオ、グッジョブ(≧▽≦)!!!」

と、そんなリアクションで歓喜する寮生。


日々にをいがけに励み、布教の道中でお供えをいただくことがあれば懐には入れず、両者とも所属教会にお供えしていたという。
だからいつも余分な手持ちがなく、お与えものだけで生活することに振り切っていた彼等には、神が手厚く味方についてくれていたのであろう。

そんな彼等と神様とを繋ぐ通路のような役割を、私は知らず知らずのうちに担っていたようなのだ。

“アレ食べたいなぁ”と思っていた寮生さんの念を神様はしっかり受け取って、私に信号を送る。
受信したピーナッツは、自分の意志のままに買ってきたつもりの差し入れでも、実のところ神様が発信した信号のままに“自分で思いついて”と何ら疑わずに行動していたに過ぎなかったわけだ。

全ては神様の意図通り…おそるべし。

“心一つが我がの理”と教えられながらも、やはり神様は全体の帳尻を合わせる為に、時に応じて我々の心や選択・行動にこうやって介入しているような気がしてしまう。

しかし、そう考えると徐々に、日々起こって来る様々なことの全てにはどれも意味があるのだと思えるようにもなってくる。

車を運転しているとやたらと赤信号につかまる…

急な頼まれごとが発生して、当初の予定通りに物事が進まない…

想定外の出来事に見舞われ、予想もつかないタイムロス…

人間の都合や視点から見ればいずれも煩わしいことだけれど、そういう形をとって人智を超越した“天の采配”がそこに働いていて、そういう大局的な面からひとりひとりの運命があちらへ、またこちらへと左右されている。

一点、肝心なのは、そういう中にあっても全ては最善の形をもって方向づけられている、ということだ。

そう、だから何がどうあろうと一喜一憂するには及ばない。
全てはちょうど良くなっている。
そう信じようと思えた。

【2013.3】



おまけ(余談)

この記事を編集する少し前に、出会って十年来のWさん(90代女性)のお宅へ訪問し、おさづけを取り次がせてもらってきた。

右足のひどい関節痛に悩む彼女。
かつては脊椎管狭窄症に悩まされ、当時度々おさづけに通っていたこともあった。所属教会が他県にあって、もうおそらくそちらには参拝にいくことも難しいご高齢のようぼくさんだ。

おさづけを取り次ぐと、

「わあ掌があったかい、あなたの手はポカポカとしている」
と感嘆する彼女。

「全く…いつになったらこの痛みが治るんだか…」

おさづけの取り次ぎが終わると、そうボヤくWさん。内心、

(これが治るという気持ちをまだ捨てられないんだ…(';'))

と、言葉を飲み込むピーナッツ。長年の患い、年齢的なことも含めて、この痛みとは付き合っていくしかないんじゃないかと考えている私と、当事者との間には認識のズレが生じている。

彼女に限ったことではなく、ご高齢のおさづけの通い先の方々に多分に見られる傾向で、彼等・彼女等は、身体的な苦痛からの解放を願い、それを“治る”という言葉で表現する。でもおそらくやっぱりそれは、年齢に伴ったものでもある。だから根治は如何ともし難い。

力不足の私は、残念ながらそんな皆さんの願いは叶えて差し上げられない。

ならば、一体何の為のおさづけなのだ?

…そんな自問が繰り返される。

病気を治す、痛みを消す、困りごとをきれいさっぱり解消する…

そんな風にしてあげることは何ひとつできないけれど、今日も私は、そんな様々な拾われない心の痛みだけでもせめて精一杯受け止めさせてもらおうと思った。

いや、ほんと、それしかできないんだ。
それしか…。



ここまで読んでいただきありがとうございました!
それでは、またぁ(´ー`)        

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