彼がバツイチ子持ちだと知った時

「彼氏が、バツイチ子持ちだった。」

いつものメンバーで飲んでたら、Aが、そう打ち明けた。
「そうなんだ。え、今知ったの?付き合って何年だっけ?」
「三年。三年も隠してたんだよ。もう許せない!」
「今時バツイチなんて珍しくないけどね。でも三年も黙ってたってのはね。」
「何かさ、時々"俺が凄い犯罪者だったらどうする?"って聞くから、何か隠してるな、とは思ってたの。人でも殺して前科とかあんのかな、って。まさかバツイチ子持ちとは。」
「犯罪者!凄い大げさー」
みんながゲラゲラ笑ってる中、Aだけが憮然とした顔をしている。
違う話題に移った後も、Aは、一人、元気がなかった。

駅で解散した後、私はAに言った。
酔い覚ましに、茶でも一杯どう?

そして駅近のガスト。

「何か女モンがちょこちょこ家から出て来てたの。でも、同棲してた事がある、って言うから、そん時のかな、ってあんまし気にしてなかったの。あたし、元カノとか気になんない方だから。」
Aはメロンソーダの氷をストローでかき混ぜながら話し出した。
「バツイチが許せないんじゃないの。年上だし、若い時に色々あったんでしょ。あたしが許せないのは"言ったらこの人、離れていくな、って思って怖かった"って、それで言わなかった事!それが許せないの。」
「嘘ついてたのが嫌なの?」
「んー、なんてゆーの、つまりさ。付き合う時に、バツイチ子持ち、ってくらいで引くような、そんなちっちゃな女と思われてた事がムカつくんだよ!」
見た目は細いけど、芯の太い女。それがA。
元カノが気になんないくらい、おおらかなんだよな。
「確かに、Aならそれぐらいの事じゃ、びびんなそう。」
「あったり前じゃん!あたし、付き合う時に聞いても、絶対、受け入れたと思うよ。それをさ、ずっと、けつの穴の小さい女と思われてたなんて…プライド、ずたずた、だよ。しかも、こんな好きになってから言うなよ!最初に言っとけ!」
「そーだね。でも、まぁ、Aが寛容なのは分かってても、好きだから、余計言えなかったんじゃん?相手がどんな反応するかなんて、分かんないし。引け目があるほど、ネガティヴに想像しちゃったんじゃないかな。」
「…それがさ、全然寛容じゃなかったんだ、あたしって。暴露された後にさ、たまたま二人で知り合いんち行ったら、赤ちゃんいて。彼が抱っこして"かわいーねー"なんてニコニコしてんの見たらさ、あ、この人自分の子供も、こうやって可愛がってたんだ、って、凄い嫉妬しちゃってさ。赤ちゃんに、だよ。もの凄い嫉妬で、死ぬ程、辛かった。帰りのコンビニのトイレで号泣した。あれから、どの赤ちゃん見ても、胸が苦しくて苦しくて。」
年上彼氏に可愛がられてた、A。前に"今の彼はね、お風呂入った時、髪洗ってくれんの。そんでね、ドライヤーで乾かしてくれるんだー。"って、ニコニコしてたな。
甘やかされすぎだ!って、みんなに突っ込まれてたけど。
「あたしが一番だと思ってたのにさ。自分の子供なんて絶対可愛いじゃん。その子を愛してるに決まってるよ。」
「子供とは、今も会ってるのかな?」
「会ってないって。凄い喧嘩別れで、離婚する時、養育費いらないから一生子供に会わせない、って言われたらしい。でも、今はお金払ってるみたいだけど。」
「会ってないとさ、男の人って、自分の子でも情がなくなるって言うよ?そりゃあ、何か、引け目とか、何らかの感情はあるかも知んないけどさ、一番可愛いのは、Aだよ。遠くの親戚より近くの他人、って言うじゃん。いつも一緒にいて、近い方が、絶対、強いんだよ。ネガティヴな想像より、実際の行動を見てあげなよ、ね?」
するとAはほろほろ泣き出した。
「自信崩れちゃって。でも、彼、今までより、旅行いっぱい連れてってくれたり、誕生日じゃないのにプレゼント買ってくれたり。慈音、あたし、自信持っていーのかなぁ。」
「行動、してくれてんじゃん。償ってるんだよ。Aが大事な証拠じゃん。自信持っていーよ。一番に愛されてるよ。間違いない。」

そして、まだ明け方になる前に、私達は解散した。

狂いそうなほどの嫉妬。苦しいよな。
それだけ彼を大好きなんだろう。
Aは今、自分の中で産まれた感情と、闘ってる。
その嫉妬する自分を、いつか越えられた時、Aは、もっと魅力的な人になるんだろう。

死ぬ程苦しい恋愛かぁ。
青春だなぁ。

私は、もう、すれっからしになってるから、嫉妬に狂ってる姿すら"いーねー、その情熱!"と、微笑ましく感じるけどさ。
なーんか、私、おっさんみてーじゃね?

皆さん、燃えるよーな恋愛、してます?










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