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「音楽は自由にする」坂本龍一

 本書は、坂本龍一が自分の人生を振り返るという形で幼稚園から2008年までの自分について記したものだ。雑誌「エンジン」の編集長によるインタビューを元にモノローグ風にまとめてある。
 坂本龍一については、YMOで初めて知り、その後「戦場のメリークリスマス」や忌野清志郎との共演、ダウンタウンのコントへの出演など様々なところで目にしていたし、東京芸大出身、「教授」という呼ばれ方などを通じて、天才という印象を持っていた。また、地雷ゼロやモア・トゥリーズの活動では、その志や人柄を想像して親しみを感じていた。
 でも、それ以上の強い関心を常に持って彼を追っていたわけでもなかった。だから本書の存在も――発行は2009年だが――つい最近まで知らなかった。きっかけは、テレビ朝日「関ジャム」で坂本龍一を取り上げた回を見てのことだった。番組内で本書を紹介していたかどうかも忘れてしまった。見た後で坂本龍一をネット検索して、本書が出てきたのかもしれない。そんな感じで手に取ったのだが、読んでよかったという読後感に浸っているのが今の状態である。
 57年の人生の振り返りを計27回の連載で、時系列で語っている。インタビューベースということもあり、もともとそういう話し方をするのだろうが、言葉遣いが優しくて、内容が分かりやすい。目の前で坂本龍一が語りかけてくれているかのように感じる。彼について今まで知らなかったことがたくさんあり、巻末に年譜も載っているので、自分がこの年齢の時には、とか、この時代に自分は何歳で何をしていただろう、とか、彼の人生に自分を照らし合わせながら読み進めるという楽しみも感じた。そこではもちろん、ほとんどが自分に比べて坂本龍一はやはりすごいなと思うのであるが。
 自分から見ればやはり、羨ましい教育や大人との出会いを感じるが、それ以上に自分と異なるのは、それに対する感受性なんだとも思った。自分だったら何も感じずに過ぎ去ってしまっただろうことも、坂本龍一は吸収したり、違和感を持ったり、行動として発露したり、何かしら反応が起きている。子どもの中にもある「大人心」というものがしっかりと活動していたように思えた。
 そのせいかどうか、最後の方で「若いころはいろいろうまくいかなかったけれど、年を取ってよかった。若さなんて、全然いいものじゃない」というようなことが書いてあるのを見た時、彼の人柄のようなものを――うまく言葉ではまだ表現できないが――感じ取ることができた気がした。

【追記】
4月2日夜に、坂本さんが亡くなったというニュースが飛び込んできました。ご冥福をお祈りいたします。

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