見出し画像

「食の歴史」(ジャック・アタリ著)

歴史は同じ事実を語るのでも、軸や視点の取り方で全く見え方が違ってくる。本書は「食」や「食べること」を軸に、人類がどのようにその生活を進化させてきたのか、「食」が歴史上の出来事にもいかに影響を与えてきたのかを読み解く。

さらに、未来予測で知られるアタリ氏ならではの分析として、現代の食にまつわる様々な問題と、これから起こり得る食の未来について鋭い考察がされている。

本書の要点を纏めると次のようになるだろう。

人類は食と共に、コミュニケーション(会話)を発達させてきたが、食に関わるテクノロジーの進化に伴い、家の中でも外でも、次第に会話の時間は減るようになった。より早く、安く「食」を提供しようとする食品会社の力によって、我々の食事にかける時間は近年益々短くなっている。
そうした食品を作るためには、生産、製造の過程で多量の薬剤、化学物質が使用されるため、人体にも悪影響が生じるし、環境、特に土壌に対する負の影響が大きい。
人体において特に有害と考えられるのは「赤肉」そして人工的に精製された「糖分」(果糖ブドウ糖液糖)は、接り過ぎると肥満や糖尿病、心筋梗塞等、生活習慣病の原因となる。
このままいくと、孤食をする人や、不健康な食事をする人は世界中で益々増える。ヨーロッパ肥満会議の調査によれば、2045年には人類の四分の1近くが肥満に、八人に一人は2型糖尿病になるという。さらに、人口増加に伴う食需要の高まりから、環境負荷は限界に近付く。

というかなり悲観的な未来予測となっているのだが、実際にこうした傾向は至るところで見られるし、何も手を打たなければ温暖化以上に難しい問題となるかもしれない。

アタリ氏が本書で指摘している通り、食に関わる問題は、一部の国や地域では改善に向けた努力が見られるものの、世界的にこれまであまりクローズアップされてきていないようだ。

こうした最悪の事態を避けるため、アタリ氏が提唱しているのは以下の点だ。

有機農業や環境に配慮した農業を行う小規模農家に対する支援
人体や環境に負荷をかける食品を製造する会社に対する規制
食事をする際、肉と糖分の量を減らし、野菜を多く食べる
地産地消を意識し、自分の食べているものがどこから来ているかを知る
ゆっくり食べて、食べ過ぎをふせぐ

コロナ禍の中でも重症化している人は生活習慣病等の持病のある方だ。

中長期的な意味で、今後も同種のコロナウィルスによるパンデミックは起き得るだろうから、根本的には我々の免疫力を高めることが重要だろう。

そのために我々個人として、出来ることは、まず「食事」を見直すところからなのかもしれない。


食の歴史」(副題は「人類はこれまで何を食べてきたのか」(ジャック・アタリ著 プレジデント社) 

宜しければサポートをお願いします。頂いたサポートを元に、今後もお役に立てるような情報を発信していけたらと思います。