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はじめてのおつかいがい_02

 1番の難関だと思っていた出国〜入国を無事抜けたことで、正直、随分ホッとしていた。今回、僕をバリ島まで呼んでくださったKさんの案内で最初にやってきたのは『WARUNG LAOTA(ワルンラオタ)』という、中華レストラン。機内でインドネシア料理を選択できなかった僕としては、到着早々のご飯が中華ということで、「バリ島よ、ずいぶんオイラと距離をとってくるじゃないか」と思ったけれど、日本人が毎日和食ばっかり食べてないようなもんで、これはこれでリアルな体験だったように思う。実際とても繁盛していたし、ここで食べた香港粥は抜群に美味しかった。

 『風土はfoodから』という名前のお店をプロデュースしたことがあるくらい、まず食べ物からその土地の風土を感じるというのは僕の旅の基本だけれど、じゃあ僕がその土地の郷土料理や発酵食品みたいなものばかりを求めているかというと、そんなことはない。その土地の人がふつうにいま食べていたり、好んで行ってるお店に行きたいのだ。だからこそ、誰を頼るかというのがとても大事なポイントで、街を歩く人に「よく行く店どこですか?」って聞いて「駅前のサイゼかな」なんて言われたら、それは聞くほうの問題だ。あくまでその土地らしさについて考えてくれる関係性が前提にあってこそ。

 その点、Kさんはとてもよくわかってくれているからこそ、最初のお店としてここをアテンドしてくれたのだと思う。バリ島についたばかりでビックリしてる僕の心とお腹をお粥で満たしてくれるなんて、最高の心遣いじゃないか。そして次々出てくる料理が全部美味しかった。興味津々で拝見したメニューには日本語表記もあって、それもまた僕を安心させてくれた。けれど以降、そんなふうに日本語表記のある店に出会うことは一度もなかったから、そういう意味でもなんか愛を感じたなあ。ありがたい。

 ちなみに写真のとおり、海鮮おかゆは48,000ルピア。とても高級なお店なのでは? と思うかもだけど、日本円にするとだいたい480円。バリ島にしてはちょい高めだと思うけれど、お手頃価格だ。ルピアはとにかく0を二つ取ったくらいが日本円の価格だよと教えてもらった。でもこれがなかなかな慣れなくて毎回頭バグってたな。

生簀の魚をピックアップして……
しばらくしたらこうなって出てきた。アガる。

 お腹いっぱいになった後はホテルへ。と、その前に「できれば地元スーパーに行きたい」と無理を言う僕。では寄りましょうと連れて行ってくれたのは、Pepito(ペピト)というバリ島に18店舗もあるスーパーマーケット。連れて行ってもらったお店はコンビニくらいの小さなお店だったけれど、それでも僕にはすべてが物珍しくて興奮した。

関西で言えば地ソース棚みたいなもんかな。
ドリアンってもう見た目がパンク過ぎてこわい
こういうの見て安心したり。

 色々と目移りしつつも、お腹いっぱいだし、とりあえず気になったナッツのお菓子とヨーグルトと水を買って帰る。ちなみにオレンジのパッケージのカシューナッツとココナッツスライスが入ったやつが抜群に美味しくて、その後も何個か買った。決済はふつうにカード決済できたので楽ちんだった。

 そして到着したホテルがなんだかとても高級感のあるホテルで驚く。しかし実のところ日本の安めのビジネスホテルくらいの値段だと教えてもらった。それでもバリ島のなかでは高級に違いない。この頃から僕は、我々観光客と現地の人たちとの間にある経済的な差異が気になってきていた。それもこれも空港からの道中の交通量の多さ、特にバイクの多さと、何よりその運転の奔放さに圧倒されていたからだ。あまりにカオスなその風景は明らかに発展途上の渦中に映った。どこか終戦直後の日本のイメージと被っていたのかもしれない。

 明朝またホテルのロビーまで迎えにきてくださるということで、竹内くんと一緒の部屋に泊まることに。竹内くんはなんだか疲れていたのか早々に眠りについていたけれど、僕は妙に興奮して寝付けず、少しホテルの周りを散歩してみることにした。とはいえもう夜中だから、気をつけなきゃなと、最低限のものだけを身につけて外出。いよいよ日も暮れていたけれど、目の前の道は相変わらずなかなかの交通量だ。信号はないものの、ホテルのすぐ前に横断歩道があったので、そこから向こう岸へ渡ろうとするのだけれど、車がなかなか途切れない。日本なら横断歩道に人がいたら停まるのがルールだけれど、バリ島はお構いなし。いやきっと交通ルール的には停まることになっていると思うんだけど、そのルールはまるで浸透していなかった。横断歩道の真ん中で立ち往生していようと、だ〜れも停まってなんかくれない。

 この動画のブレっぷりでわかるように、とりあえずおっかなくて仕方ないんだけど、でも僕は決してここでネガティブな感情になったわけではなくて、どちらかというとなんだか少し楽しかったというか、心地よかった。僕は決して冒険好きなタイプではないけれど、それでも、決められたルール以上に、それぞれが自分自身の身をこそ最優先に思うことを前提とした結果の混沌とした調和みたいなものに、やわらかなリスペクトが芽生えていた。

「この街、好きかも」この夜の散歩で僕はそう思った。

 ホテルの近くだとはいえ、夜中の一人散歩は少々こわい。整理されたスーパーというよりは、露店的な小さな商店がいくつも並び、夜中にもかかわらず、その前で何をしているのかわからない人たちがたむろしていた。いずれこういうところでも買い物をしてみたいと思った僕は、歩道を歩きながら見つけた両替所の前で、翌朝あらためてここに来ようと決めた。数多ある小さな商店で、およそカードが使えるはずはなかった。

 ホテルに戻るとようやく眠気もやってきて気づけば朝だった。Kさんが朝食もつけてくれているとのことで、竹内くんと行ってみる。ビュッフェ形式ということで、広い会場をそれぞれに物色。お互い適当に見繕って席につき、竹内くんの朝食を見たら、アメリカの子供みたいなセレクトでほんとこいつどうかしてるなと思う。

「なんなんその朝食」と、言ったら「そっちこそなんやねんそれ」と言われる。そもそも今回のバリ島は、取材ロケハン的なニュアンスなので、基本は招待してくださったKさんのアテンドをベースに行動する。それゆえ今後の日程を想像すると、意外にこういうタイミングでしか、ステレオタイプなインドネシア料理を食べられないかもしれないと、唯一知っているインドネシア料理と言っても過言ではない、ナシゴレンとミーゴレンをお皿に盛っていた。しかしホテルのビュッフェで欲張っていいことなどないというのが自論の僕は、基本的にホテルビュッフェで腹を満たすことはしない。なので僕のお皿はこれだった。

たしかに、まるで残飯だ。これなら食べなきゃいいのに。って自分でも思うから、まあどっちもどっちだな。

ホテルのプール 夜は若者が騒いでた。

 迎えにきてくれるまで少し時間があるので、昨夜歩いた道を竹内くんと二人で歩いてみる。そこで思い出したように両替をした。竹内くんはふだんからあまりカードを使わない人だから、とりあえず1万円両替するという。僕はまあカード使えるところはカード使うしと半分の5千円にしようとするも「少ないやろ、そんなんでええの?」と竹内くんが詰めてくるから謎に千円だけ上乗せして6千円を両替した。

両替屋はみんな派手
レート換算したら6,000円は、613,500ルピアだった。

 昨夜はカード払いしたのでなんかイマイチ買い物した感が持てず、やはり現金で買い物がしてみたいと思った僕は、道端の商店や、露店をのぞいてみるのだけど、そもそも目の前のものがなんなのかがよくわらず、買うまでにはいたらない。

 そこで昨夜連れて行ってもらったスーパーよりも少し大型のお店を見つけて、竹内くんと入ってみた。生鮮品だけでなく、日用品も多く揃うそのお店にときめきながら、ナシゴレンとミーゴレンのミニチュアみたいなものを食べただけの僕は、あとでお腹減った時のためにと、バナナを購入。いわばこれが僕にとって初めて海外で現地通貨を使った買い物だった。

フルーツいっぱいだったけど、そもそも食べ方わかんないからバナナにした。
まさにはじめてのおつかい。日本円で35円くらいか。安っ!
バリ島の米袋の賑やかさ

 その後も、おじさん二人でおしゃれなカフェに入ってみたりして、ずいぶん午前中から楽しんだもんだ。カフェラテ的なものを頼んだらなんだかとんでもなくおしゃれな容れ物に入ってやってきてビビる。

おしゃれが過ぎるだろ。
この人またパン食ってるし、欧米に行け。

 とりあえず二人仲良くホテルに戻ったら、すでにお迎えに来てくれていたKさん。そしてなんとまあまっすぐ最初に連れてってくれたのが、Kさんがおすすめのコーヒー屋さんだった。実はKさんはバリ島でコーヒー農園とカフェを経営されている。バリ島での事業をはじめて10年以上が経ち、いよいよコーヒー農園に対する思いや、カフェが果たしているさまざまについてまとめた本を作りたいと、僕らに話がきた。しかしそもそもKさんに、我々Re:Sを紹介してくれたのは、長野県松本市にある印刷会社、藤原印刷の藤原隆充くんだ。

 今年の2月だったか、長野市で市役所職員のみなさんにむけて講演をさせてもらったときに、会場までやってきてくれた彼が僕の講演を聞いて、そう言えば……と偶然そのタイミングで依頼があったKさんと僕を繋げることを思いついた。そういうところが藤原くんは編集者的だなあとつくづく思う。

 しかしながら僕は、海外に行かないと公言していたくらいだ。さいしょに概要を藤原くんから伺った時点では、申し訳ないけれど、まあ、うちの竹内くんがきっといい仕事してくれるだろうから、もう少しだけ詳細を聞いてみてもいいか、くらいに考えていた。それがまさか僕までバリ島にいて、ニコニコとコーヒー飲んでるんだから、人生は面白い。

「ここはうちのカフェ以外だったら、バリ島で一番美味しいと思います」とKさんがいう『SECOND FLOOR COFFEE』。勧められるままにいただいたラテがとんでもなく美味しくて、珈琲、というかラテでここまで感動したのは初めてだった。ナチュラル精製と言われる、コーヒーの実を果肉のままに乾燥させたコーヒーが使われていて、この製法だとワインのような芳醇な香りが現れるという。まさにその果実味ある香りを感じるラテで、普段はあまり好んでラテをいただくことはない僕でも、これはラテがいちばんいいと感じた。自身のカフェや農園に行く前に、他店のコーヒーの美味しさを伝えるKさんもまた、とてもディレクションの巧い人だなあと思う。僕のまわりは編集者で溢れている。

アジアぽさもあるよいキャラクター

 しかし竹内くんに至っては午前中にしてすでに今日3杯目のコーヒーだ。ほんと竹内はそういう無計画なとこあるよなあと思っていたら、朝、嬉しそうにバナナ買った僕に、現地スタッフのユニさんがバナナをくれた。

 またもや、どっちもどっちだ。幸先いいようなわるいような、不思議な1日のはじまり。

 実はこの「どっちもどっち」という感覚。今回のバリ島旅において、なんだかとても大切にしなきゃいけないんじゃないかと考えていた。というのも僕は、バリ島という土地に対するイメージを、まさに昨夜ホテルについたときに感じたような、リゾート風のイメージしか持ち合わせていなかった。

 けれどそれはとても表面的なものであることももちろん自覚していた。だからこそ昨夜一人で散歩した時に触れた、およそリゾートとはかけ離れたリアルな空気に安心感を覚えたんだと思う。どっちもどっちという感覚は、つまりどちらが正しいとか、正解ということではなく、どちらもがたしかに存在するという当前の感覚で、これをきちんとお腹の中に横たわらせておくことが、今回僕がバリ島を旅するにあたって、とても重要だと感じていた。

 例えば僕は朝の散歩中、こんな写真を撮っていた。

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