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冷静に霊性を。

 スピリチュアルなもの、不思議なものに自然に高揚し、奇跡を奇跡としてありのままに感謝して楽しんでいきたい。

 そう思ったのは、服部みれいさんの「わたしと霊性」を読んだから。


 みれいさんと一緒にお食事をさせてもらったりすると、みれいさんと僕は同じタイプの編集者だねと、その場のみんなで笑いあうことがしばしばある。

 「思う」から「やる」までの距離の短さとか、周囲の巻き込み方とか、似てるかもというところが多々あって、恐縮しつつも確かにそうだなあと思っていたのだけれど、今回この本を読んだことで決定的に同じだ!と思ったのは、僕もみれいさんも雑誌編集者という経歴で得た最も大きなものが「霊性」だというところ。

 例えばこれは、僕が編集ワークショップをするときに偶に配る、取材のコツ7か条が書かれた「りすの巻」という小さなZINEだ。

画像1

 その第5条にこう書いてある。

 「演出、神さん」

 は? だよね。ちなみにそのページを公開するとこんな感じ。

画像2

 二度目の は? だよね、きっと。

 これだけ見てもなんのことだかわからないと思うけれど、そもそも1〜4条には「頭で考えず、体で動き、ある意味、非効率的に寄り道しまくれば、その先にとんでもない奇跡が、偶然のような顔をしてやってくるから、その奇跡を全身で感じればいいよ」というようなことを書いている。
 からの、5条だ。

 そんなミラクルをプレゼントしてくれる神様の演出家としての才能マジやばくない?! と。

 我ながら言ってることがあやしいな。

 けれどこれは僕にとって、とても現実的かつ実践的な方法論の話でもある。僕の雑誌づくりの基本は極力アポをとらず、台割すら作らず、取材旅に出ていき、その出会いから一冊をつくっちゃうという、一般的な編集者からすれば暴挙でしかない作り方だ。

 しかしそれもこれも、僕みたいなものが少ない脳みそで考えたプランなど現実は軽く超えてくる。という経験を何度もしたからこそ。自分よりも神様の演出プランに身をまかせた方が、絶対によい取材になるし、何より「想定」がないのだから「想定外」がない。どんなイレギュラーな展開にも対応できるのは編集者として最強だ。これは僕の動きの肝であり、軸であり、根っこだ。

 実際、この冊子をお守りのように持って取材に出かけたワークショップの生徒たちは、見事に面白い出会いを経て帰ってくる。

 あ、ここで断っておくと、みれいさんもそういう雑誌づくりをしているという意味ではない。誤解を解くべく、「わたしと霊性」の中の、みれいさんの言葉を少し抜き出してみる。

もうひとつ編集者をしていて磨かれた霊感がある。それはファッション撮影のロケの日取りや場所を決める際に磨かれた。
編集者というところでいえば、以前から国語の能力を極めると霊感に通じると信じている。行間を読む、などというけれど、行間のさらに行間を読むという行為を深めていくと、霊的な世界にタッチすることにどうしたってなる気がする。

 うん、とてもよくわかる。方法論は違えど、編集者という仕事の中で磨かれる霊性があるのは間違いない。

 そんな霊性について思うとき、僕の頭をよぎるのは「発酵」だ。

 昨年の春に渋谷ヒカリエにあるd47museumで開催した発酵ツーリズム展。キュレーターの小倉ヒラクが日本中を旅しながら得たその知見を、各地でつくられる発酵食品とともに展示するその展覧会は、展覧会としては異例のヒット。動員数は4万5千人を超えた。

 この展示のアートディレクターとして、会場構成を任された僕は、展覧会の冒頭にこんな言葉を掲げた。

「あ、麹が呼んでる。」

D_イントロダクション

 この一言は小倉ヒラクの友人の醸造家が、仕込み中の蔵に戻らねばと、ヒラクの目の前で突然言い放った言葉だ。「麹が呼んでいるから帰らなきゃ」と、彼はそそくさとその場所を後にしたという。この感覚を僕たちは「そんなバカな」と一蹴することができるだろうか?

 発酵は微生物の活動だ。目には見えないけれど「在る」ちいさな生き物たちと日々接している醸造家が、それらの声を聴くのは当たり前のようにも思う。僕は、霊性の否定は、目に見えないものをないものと考えることに限りなく等しいことだと感じている。だからこそ、「麹が呼んでる」「んなアホな」と片付けることが出来ないその気持ちは、発酵というものの理解において、とても大切だと思ったし、ある種のリトマス試験紙として、展示冒頭の言葉に起用した。

 ちなみに、この展示から生まれた書籍『日本発酵紀行』の編集も担当した僕は、キュレーターの小倉ヒラクが執筆してくれた紀行文のなかで、醸造家だけが知る霊性の様々を知った。

 ゆえに僕は、発酵が持つ不思議なシンクロニシティに心が震えすぎて、『発酵シンクロニシティ』というタイトル案をヒラクに提案したくらいだ。(もちろん不採用だったけど)

 酒、味噌、醤油、納豆、漬物、ヨーグルトなど、発酵と言われれば思い出す発酵食品たちに対する健康思考な興味を超えて、そろそろ世間のみなさんにも「発酵」をとりまく世界の不思議と、目に見えない微生物たちのチカラを感じてほしい。発酵というコントロール仕切ることができない微生物の活動と寄り添うところから、目に見えない存在の確かさに気づき、それが特定の宗教や思想に依るものではない、極めて冷静な霊性へのリスペクトになっていくといいなあと思う。


 ということで、この先は定期購読いただいている方にボツになった『発酵シンクロニシティ』の表紙案をこっそり公開(内緒だよ)。いやあ、しかしタイトルは『日本発酵紀行』にしておいてよかったなあ。 ヒラクさすがだわ。

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藤本智士(Re:S)

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編集者。1974年兵庫県在住。『Re:S』『のんびり』編集長。著書に『風と土の秋田』『ほんとうのニッポンに出会う旅』共にリトルモア、『魔法をかける編集』インプレス。『ニッポンの嵐』『るろうにほん 熊本へ』など手掛けた書籍多数。
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