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博多ホッピングのステップ 〜前編〜

 久しぶりの博多。コロナ禍には来れてなかったし、かれこれ4年ぶりだな〜なんて思っていたら、なんとまあiPhoneに去年博多入りした写真が残ってた。あ〜あ〜またこれだ。お得意のやつ。そう思えばたしかに福岡パルコでの展覧会準備で博多までやってきてたじゃないか。そしていつものようにウェルビーの強冷水風呂でバッキバキにととのえて帰ったことを思い出した。しかしこの「忘れる」ことに関しては、僕は特技だと思っていて、2度目3度目の体験を何度初見のごとく楽しんだことか。マジ編集者に最適人材で万歳。

 そんな僕ですら一向に記憶が目減りしない、思い出がある。それが5年前の #博多ホッピング  

 博多ホッピングとは、僕を博多に誘ってくれた、友人の日野ちゃんが提唱している言葉だ。

 星の数ほどうまいものがある博多の夜を味わうには、一つの店にガッツリ腰を据えるより、街そのものをビュッフェ会場に、何軒もハシゴしまくる「博多ホッピング」がまさに福岡の正解だと彼は言う。それもこれも県外からのお客さんをアテンドすることの多い日野ちゃんのサービス精神の表れだと思うけれど、その根幹には一品だけ頼んでさっと帰るようなお客さんを良しとする文化が博多にはあるってことなんだろうか?

2018年note記事『博多ホッピング』より

 5年前の博多ホッピングの記憶がいかに鬼の一夜だったかは、記事を読んでもらえたら伝わると思うけれど、それ以前に、冒頭のように直近の博多の記憶を消しにかかってることからも明らかだ。しかし今回は博多愛の鬼こと、日野ちゃんもいない。孤独のグルメよろしく、おじさんのひとり旅。安心して、のんびり読んでもらえればいい。

博多愛の鬼 福岡のジャックニコルソンこと日野ちゃんは出てこないから安心して。

 さて、成長感じる、地に足ついた大人ホッピングなスタートは『まこと』。

 メニューは、鯖の一枚焼き定食(1,000円)のみ、という潔き名店。今回は遠隔から店紹介してくれた日野ちゃんのアドバイスのもと、オープン15分前から並んだらぎりぎりカウンター席1巡目ゲット。行列店ならではの手際で順序よく提供される、脂ののった鯖の美味しさには心底唸った。丁寧な骨抜きにみる下処理の思いやりにも感動しつつ白ご飯を頬張れば、まさに至福のとき。そこに、麹たっぷりの甘みが関西人にフィットする、油あげ&豆腐のシンプル味噌汁が沁みる沁みる。いやぁこのランチのおかげで大事な午後のプレゼン乗り切れたと思うくらいチカラある焼き鯖定食。そりゃあこれは並ぶ。

 鯖定食パワーで、そもそもの目的だった午後の大切な打ち合わせも無事によい感じで終えることが出来た。一仕事終えたので、ひとまず宿泊先のチェックインを済ませる。夕方まだまだ明るいけれど、再び街に繰り出した。

 事前にFacebookで友人たちに教えてもらった博多情報があまりに魅力的で、どうしたものかと思う。しかし、ここはまあ、博多ホッピングで印象的だった、豚足&焼酎なみなみロックで博多らしくスタートしようかと『とり政』に行ってみるも臨時休業。しかしどうってことはない。というか、これこそ好スタートの兆し。こういううまくいかなさこそが神の啓示。そこで思い出したのが、友人が紹介してくれた『凛丹 一碗居』という中華屋さん。創作スパイス中華なメニューがすべからく美味かったとのことでそそられるも、今日は一人飯。中華はみんなでワイワイが楽し美味しいに決まってるもんなと考え直す。

 そんなことを思っていたら、なんだかスタートから人恋しくなってしまった。みんなで円卓DJスクラッチな中華料理や、コロナの夜明け感じる鍋料理など、今日は無理だろなメニューばかりが頭をよぎって辛い。しかし待て、一人だからこそ、鍋というのはありかも。というのも、前回はホッピング8軒目(!)で行った『川端』というお店を思い出したのだ。川端は、博多名物のもつ鍋屋さん。梯子8軒目にも関わらず、締めの麺までガッツリ美味かったということは、一軒目の腹の空き具合で行けば相当ヤバいだろと、恋しい唾液をもつ鍋仕様にセットチェンジ。川端なら一人鍋もいけたはず。

 ということでやってきた『牛もつ鍋 川端』。乳酸発酵しっかり感じる白菜キムチをアテに、芋ソーダでご機嫌伺いつつ鍋を待つ時間の多幸感ったらない。

 1人鍋の場合は最初からいい感じで煮込んだものを提供してくれるから、誰が鍋奉行だとかも考えなくていい。強いて言うなら鍋奉行は調理場のおじさん。最強じゃないか。スタートから、ニンニクとニラをたっぷりいただけるのは、博多の夜の包容力のなせるわざ。濃い出汁に背中を押されてすすむ焼酎。これぞ博多。

 そして、前回あんなにたらふく食べた後ですら、抜群に美味かった〆のチャンポン麺を注文。これがもう本当に最高だった。なんだか博多の楽しみ方が板についてきたかもなあオイラ。

 夜のホッピング、スタートにしてもう満足度高過ぎる。いやあもうぜんぜん宿帰れるわと思いつつ時計を見るも、まだ19時にもなってない。流石にこれで帰っちゃあ博多の街に叱られるだろと、福岡の日本酒でも飲もうと、以前伺った日本酒バー『ネッスンドルマ』に向かおうとするも、今どき日本酒メインのよいお店は、色々あるはずだと思い直し、フラフラ歩いていたら『さが蔵』というお店を見つけた。

 その名のとおり佐賀の酒しかないお店。そもそも焼酎の印象が強い九州。それは福岡の街においてもそうで、居酒屋でまわりを見渡ぜば焼酎ロックな人たちが多いけれど、実は福岡県の日本酒蔵の数は47都道府県で5番目に多い。そしてお隣の佐賀も25蔵ほどの造り酒屋があるという。佐賀のお酒で知ってるのって『鍋島』と『東一』くらいだなあと思い、興味本位で入店してみる。時間も早いからかお客さんは誰もおらず、これはいい感じで落ち着けるわと、大将に佐賀のお酒初心者な旨を伝える。大将いわく、こちらのお店は佐賀の酒400本を常時備え熟成保存。店内の冷蔵庫にある封が切られたお酒だけでも80本。佐賀の蔵のお酒がほぼほぼ全部飲めちゃうというから、これは一杯で終わらない予感。

 大将に「ここくる前に思いっきりもつ鍋食べちゃったんすよねぇ」と伝えると、じゃあまずはリセットしましょうかと、それこそ過去に飲んだ東一の記憶までリセットされるかのような、芳醇でいてスッキリなお酒を出してくれた。しかもやわらぎ水は、東一の仕込み水だという。

 この一本で、佐賀のお酒の進化に感動した僕は、ちょいスイッチ入っちゃって、速攻で次の酒を注文。大将自身が一時期、蔵人として働いていたという『万齢』(今回いただいたのは可愛い猫ラベルのニャン齢)をいただいたり、佐賀の真ガニ漬(シオマネキという小さな蟹を殻ごと砕いてつくる塩辛)に合わせて、嬉野の虎之児の生原酒をいただくなど、知らなかった佐賀のお酒の美味しさを堪能。こりゃあ沼だぞと思い始めた頃、気づけば店内は他のお客さんで賑やかになってきていたので、そろそろ次へホッピング。お会計の安さに驚き、福岡の佐賀をあとにした。

温めるとまた美味かったんだよなあ。グラス微妙に変化させて呑み方指南してくれるの嬉しい。

 ちょっと飲み過ぎた。けれど酔いかた的には程よく、このほろ酔い状態のうちに宿に戻るのが一番だなと宿に向かおうとするも、一軒だけ、どうしても気になっていたお店があった。せっかくの博多だし、もう一軒だけホッピングして帰ろうと向かったそのお店は、屋台のコーヒー屋さん「メガネコーヒー&スピリッツ」。

 その名のとおり、珈琲と蒸溜酒のお店。ずいぶんと人気なようで満席かなと思ったけれど、若いカップルに挟まれるような角の1席にお邪魔。あくまでも酔い覚ましなので、お酒ではなく、定番のメガネブレンドをいただくことに。

 これが見事なバッチリブレンド。酔い覚ましゃあいいんだろ的な深煎りガツンな味ではなく、ホッピング終盤に照準絞った優しい一杯。まさにいまのオイラのようにさんざっぱら飲んできた合間に飲む一杯として最高のブレンド。あぁこれぞ福岡の正解。まいった。

この角の一席にINさせてもらった。

 うん。帰れる。もう帰れる。あとは定宿のサウナで汗流してととのってベッドに飛び込めばいい。もうそれだけ。福岡入りが決まった瞬間、新幹線取るよりも早く秒で予約したウェルビー福岡のプレミアムルーム『Pehmea(ペフメア)』。眠り心地最高なペフメアがオイラを待っている。と、ウェルビー福岡へと歩みを進める。

 あらためて博多の街は誘惑が多い。もはや「誘惑」と書いて「はかた」と読みたいくらいだ。あらゆるジャンルの誘いを振り切り、いわば誘惑の大ボスのごとしウェルビーだけを思って、一心に歩みを進める僕。昼間に比べればいくらか涼しくなった夜の街を一人早足で歩く僕は、流れるネオンを横目に予定フリーな明日のことを考えてみたりしたけれど、たいしてなにも浮かばない。しかしそれはそれでわるくない。どころか、久しぶりに感じる明確な「余白」に気分が上がった。余白って大事。そういう隙のある人生がいいよなあ、隙のない人より、隙間いっぱいの人の方が魅力的だもんな。そんなふうに思う僕の隙間に、綺麗に透き通った豚骨スープが注入される。

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