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図書館を編集する

 先日、東北にある国立大学の図書館職員さんたちにむけた講演とワークショップのために仙台市にある東北大学に行ってきた。

「当日11時半から打合わせをしたいので、電車で来られる際は最寄り駅への到着時間をお知らせください。駅まで迎えにあがりますので」

 と、丁寧に連絡をいただいていたけれど、タレントさんじゃあるまいし、わざわざ迎えに来てもらわなくてもいいやと、のんびり向かってたら駅到着時点ですでに11時半を過ぎていた。

 とはいえ会場まではすぐ。少しくらい構わないだろうと呑気に歩いていたら、今度はコンビニを見つけてさらに寄り道。だって講演開始は13時。内心、入り時間早すぎるでしょ…と思っていたので、結果20分遅れで会場着。

 しかしここはまあ堂々としておこうと、まるで遅れてなどいない態度で建物に入ったら、スタッフのみなさんが直立不動で待ってて、さすがに焦った。


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 当日に至るまでの細やかなやりとりを担当してくれていた佐々木さんという女性が、率先して会場を案内してくれるのだけど、5,6名いらっしゃる他のスタッフさんたちの所在無げな感じが薄い緊張の膜をつくっている。みなさん今回のイベント運営のために各地から集まってくれたんだろう。明らかにスタッフさん同士がまだ打ち解けてない。入ってきた時、直立不動だったのもきっとそのせいだ。

「もうお昼だし、とりあえず、ご飯食べながら打合せしません?」

 僕の講演は話す内容をいつもその場で決める(その方が誠実だと僕は思いこんでいる。なので僕はしっかりしたスライドを作んないから講演依頼くださる人は怠けてるとか思わないでね)。それゆえ、事前打合せする時間があるなら、まずスタッフさん自体が楽しく過ごせる空気をつくる方がよっぽど大事だ。僕は、お昼ご飯をいただきながら、スタッフさんたちの緊張をほぐすことに集中した。

「そもそも今日のイベントはどうして生まれたの?」

「みんなどこから来られたんですか?」

「日々の業務は?」

 妙な自己紹介タイムにならないように、雑談のなかに質問を紛れ込ませながら、スタッフさん同士の親睦を図ってみる。

 東北にある国立大学系図書館という、似た境遇にいるはずのみなさんだけれど、大学ごとに課題や環境が違うことに、驚いたり感心したりして少しずつ場の温度があがっていくのがわかる。講演ゲストがそこまでやるの? と思われるかもしれないけれど、こういうイベントもチームプレイだから、まず目の前のスタッフさんたちの温度が上がんないことには、講演はもちろんワークショップなんてうまくいくわけがない。だからこれは「優しさ」とかそんな生ぬるいものじゃなく、僕のシンプルな自己防衛だ

 “図書館職員は業務中に本を読んではいけない”という、僕にとってはマジで?!と驚く図書館職員あるあるの話題になったときのこと。

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 青森県弘前市の大学図書館で働く女性スタッフ1人が「うちの図書館は読んでても怒られないです」と言って、周りのみなさんが大きく驚いた。まるでそれは、表面張力ギリギリのコップに落とされた最後のおはじきのようで、張りつめていた緊張が一気にはじけて、途端に、個々の表情が豊かに変化した。

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 しめしめ……。

 控え室の温度は確実にあがり、今日のイベントはきっとうまくいくと思った。


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 そもそも今回のイベントは、若手職員の研修的意味合いが強い会だそうで、こういう講演企画で50名満席になることはあまりないらしい。にもかかわらず運営メンバーのみなさんが決めた「図書館を編集する」というテーマ設定が良かったのか満員御礼。第二部のワークショップにも20名以上が参加してくれてずいぶん楽しい1日になった。

 第一部が講演で、二部がワークショップ。さらには懇親会と、正直グッタリな一日だったけど、とても気持ちいい疲れ。それもこれも僕自身に学びが多くあったからだ。

 特に第二部のワークショップは最高に楽しかった。テーマは「過去にやってうまくいかなかった企画の再編集」。参加者の皆さんに事前アンケートをとり、そのなかから再編集する価値のありそうな企画をピックアップ。チームに分かれてその企画を再生させるというもの。

 で、そもそもこのアンケートがめちゃめちゃおもしろかった!

 いや、もちろんうまくいかなかった企画なので、当の本人にとってはかなり切実なんだけれど、その状況がリアルに想像できればできるほどに、哀愁を感じて正直笑ってしまった。ほんと申し訳ないけど。
 
 例えばこれなんか最高だ↓↓↓

○失敗した企画タイトル
「学生・館長・スタッフの意見交換会」

○企画概要
図書館でどんなことをしてみたいか、どこを変えていきたいか等、お茶飲み話をするように気軽な雰囲気でアイデア出しをする。
また、図書館に興味を持っている学生同士を「つなぐ」ことで、今後のサークル的な、学生の自主的活動へと結びつける。

○理想としていた姿
4〜5人程度の参加があれば十分。有意義な意見交換になるはず。図書館の意義や役割・可能性を理解した学生さんたちが集まることで、無理難題ではなく「現実可能」で「前向き」なアイディアが出てくること。また、それを一緒に実行することを期待していた。

○現実
参加者が1名もなかったため中止となった。

 なんかもう、ゾッとするよね。

 参加者0名って……

 ふつうは身内に声かけてでも2,3名は集めるでしょ。それすらやらないのは逆に肝座っててすげえなと思う。とにかくこういう過去の失敗企画がたくさん集まって、それら全てがリアルでわかりみが深いだけに、全企画を再編集したかったけれど、時間の都合もあって二つに絞ることにした。


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◉再編集企画その1「福袋を考える」

○元の企画内容と失敗ポイント
 図書館にあるお薦めの本を、本のタイトルがわからないように数冊袋詰め。選書した人の推薦理由を袋の外に貼ったけれど、推薦文を読んでもらえず、ほとんど借りてくれなかった。

○選んだ理由と編集ポイント
 企画自体はとても面白いことと、どうやら推薦文を貼ったところに問題がありそうだと、再考ポイントが明確。なので編集し甲斐ありそうと判断。

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 そしてもう一つは、ほとんどの司書さんが共通で悩んでいたものをチョイス。


◉再編集企画その2「選書を考える」

○元の企画内容と失敗ポイント
 上述の福袋企画のようにすでにある本から選ぶのではなく、図書館に収める本のセレクトについての企画。みなさん大学系の図書館なので、選書はふつう教授か司書さんがやるのだけど、学生たちのニーズにあっていないと感じることも多く、選書そのものを学生にやってもらうと良いのでは? と企画をすすめたものの、そもそも選書に興味がない学生たちとの気持ちの乖離があり、ことごとく失敗。

○選んだ理由と編集ポイント
 「選書した本をたくさんの人が借りてくれたときの、あのかけがえのない喜びを学生たちにも味わってほしい!」という司書さんたちの思いと、「別に選書とかしたくないし…」という学生たちとの温度差が激しい。選書って本当に「教授&司書」or「学生」という二極的な選択肢しかないのか? そこを詰めてみると面白そうだと判断。


 ということで、上記の二つをテーマにチーム分けし、早速企画の再編集に取り組んでみることに。


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 それぞれの企画が本来目指していたビジョンやイメージを再共有することから、いったいどこに失敗のポイントがあったかを明確にし、その上で再編集を試みる。そうして各チームから上がってきた企画を、さらに僕も一緒になってブラッシュアップ。

 そして最終的に蘇った企画がなんだかとても愉快なので、ここでオープンにしようと思う。面白いかも、と思った図書館職員の方は、ぜひ、自分の図書館でもやってみてくれたら嬉しい。

 
 過去の失敗企画再編集ワークショップ結果発表!!!

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◉その1「福袋企画の再編集」

○ビジョン
 ふだん本を借りない人が思わず借りて、あたらしい本の世界との出会いとなる。

○改善点
 選書理由とかそういうのは、きっと圧が強すぎるから最早いらないのでは? 福袋は中身が何かわからないからこそ面白い。袋の表に明記するものは、中身のヒントというよりも、自分との接点を勝手に見出せる記号的なものがよい。中身のヒントではあるけれど、そこに大きな意味を持たせないことの大切さ。

○企画の焦点
 袋の外にある情報は何がよいか? に絞って再考。

その結果……

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「書籍のグラム数(重さ)だけが書いてある福袋」

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 表にあるのは本の重さのみ!

 軽い本は中身も軽いのか?

 偶然自分の誕生日の数字があればそれに合わせるもよし。

 筋トレ的に重いものを選ぶのもよし。

 中身に関しては司書さんたちが自信を持ってお勧めする本なので、シンプルに本との出会いを創出!

 潔いーーーー!

 なんだかみなさんの呆れた顔が浮かぶ気がするけど、構わず次いく。


◉企画その2「選書企画の再編集」

○ビジョン
 選書そのものに興味をもってもらいたい。

○改善点
 教授もしくは図書館司書が選ぶ以外の選択肢が学生だけになってしまっていることがそもそも間違いでは?

○企画の焦点
 どんな人が選んでくれたらもっと選書そのものに興味をもってくれるだろう? に絞って再考。

その結果!

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藤本智士(Re:S)

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ラッキーカラーはブラウン!
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編集者。1974年兵庫県在住。『Re:S』『のんびり』編集長。著書に『風と土の秋田』『ほんとうのニッポンに出会う旅』共にリトルモア、『魔法をかける編集』インプレス。『ニッポンの嵐』『るろうにほん 熊本へ』など手掛けた書籍多数。

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