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ゼロ・ウェイストセンターで気づいたこと

秋田マテリアル

 秋田県にかほ市に、秋田マテリアルという会社がある。産廃と呼ばれる、産業廃棄物処理業者さんだ。

 しかし産廃と聞いてみなさんはどんなイメージを持たれるだろうか。きつい、きたない、危険といった3Kイメージを持つ人も多いのではないか。しかし、SDGsが叫ばれる現代において産廃業者さんの役割に対する評価が高まり、そのイメージは少しずつ変化しつつある。

 昨年末のこと、『サーキュラーエコノミー実践』著者の安居くんと、『ジモコロ』編集長の柿次郎と、秋田マテリアルに訪れた。

 そもそもにかほ市という町は製造業が盛んで、秋田マテリアルではそれら生産工場から出る不要な大型機器を引き取っている。見学当日も、女性が一人、インパクトドライバー片手に電線一本まで丁寧に解体作業をされていて、あらためてその大変さを知った。

 そして、そこまで無駄なく資源化しようと努力されるその労力が果たして相応の金額として報われるのだろうか? と心配にもなった。もちろん会社としてしっかり収益をあげておられるので、そんな心配は不要かもしれないけれど、本来ならその機器を作ったメーカーさんがやるべきな気がするその作業をこうやって外部化している現状に、相応の対価があることを願うような思いになった。

修理する権利

 前述の安居くん曰く、2020年3月に欧州委員会が策定した新循環型経済行動計画のなかに「修理する権利」というものが記載されているそうだ。思えば僕自身もフィルムカメラがデジタルカメラに移行していく頃に嫌だったことの一番は、修理ができなくなることだった。カメラに電子部品が組み込まれていくほどに、人の手による修理が不可能になり、こちらはあくまでも修理を頼んだにもかかわらず、結局新品が返ってくるということが増えた。いつしかそれが当たり前のようになっていった。アナログな製品と違って、デジタル商品は新製品ほど高性能ゆえ、新しいものほど価値が高いという感覚が植え付けられた我々にとって、新品になって帰ってくるというのは、なんだか得をしたような気持ちになってしまう。しかしその向こうで、大切に使っていたはずのものが廃棄されてしまうことへの想像力は見事に消えた。ゆえに安居くんから欧州における「修理する権利」の話を聞いた僕は、ハッとしたと同時にとても感動した。

 消費者には修理する権利があり、製造者にはそれに対応する義務がある。つまりは修理しやすい製品をつくるということが今後とても重要になってくるはずだ。しかし現状はとにかくつくって売ることだけが優先され、それを回収修理する視点が抜けているものがほとんどだ。それゆえ解体しづらい商品や機器が多く、その作業を担う産廃業者のみなさんが苦労されている。

 そんな、産廃業者である秋田マテリアル社長の佐藤さんと、経営戦略部の若いスタッフたちをお誘いして、先日、徳島県の上勝町かみかつちょうに行ってきた。

秋田マテリアル社長の佐藤佑介さん。若いけど未来を向いていて素敵。

ゼロ・ウェイストセンター

 上勝町の名前を聞いたことがある方は、あのゼロウェイストの?と察しがつくのではないだろうか。徳島県でもっとも人口の少ない町、上勝町のゴミに対する取り組みが、この数年、日本はおろか世界から注目を浴びている。

ゼロ・ウェイストアクションホテル “HOTEL WHY”

 ゼロウェイストとは、Zero=0、Waste=廃棄物、ゴミをゼロにすること。ゴミをどう処理するかではなく、そもそもゴミを出さないためにはどうするか? について考え行動することを指す。上勝町は、2003 年に自治体として日本で初めて『ゼロ・ウェイスト宣言』を行った。

 上勝町では生ごみは各家庭のコンポストで堆肥化し、それら以外のゴミについても、住民自ら「ごみステーション」に持ち寄って、できる限り資源化できるうよう、45種類(!)に分別。その結果、上勝町のゴミのリサイクル率は80%を超えている。日本の自治体におけるゴミのリサイクル率の平均が約20%だから、これがいかにすごい数字かわかってもらえるだろうか。

 そもそも日本は多くの自治体が、缶・瓶・プラ・古紙などをしっかり分別してゴミを出している。地域によっては異物が混ざっていたら回収されないなど、それなりにルールが徹底されているにもかかわらず、そのリサイクル率が20%とあまりに低いのはどうしてなのか。実際、多くが50%を超えているEU加盟国と比べて日本のリサイクル率はかなり低い。

 日本でリサイクル率が低いことの要因は、なんでもかんでも焼却処理していることにある。カーボンニュートラルを目指す時代に、ガンガン焼却処理を進めていくことに僕はずっと違和感がある。日本でもゴミのリサイクル率を向上させるためには、単純にゴミの30~40%を占めるとされる有機性ごみ、つまりは生ゴミを焼却処理せずにリサイクルすることが重要だ。

 以前、新潟県長岡市の「生ごみバイオガス発電センター」に伺った記事を書いたけれど、日本中が生ゴミを燃やさずメタン発酵させて、それを発電させれば随分とよいはずだ。

キエーロ

 ちなみに上勝町では、生ゴミは各家庭のコンポストで処理しているので、ごみステーションに生ゴミは一切ない。

 ゼロ・ウェイストセンターを視察させてもらっている際も、裏の広場に「キエーロ」という、板で作られた箱のなかに黒土を入れるだけのとてもシンプルな生ごみ処理容器が設置されており、実は僕もマンションのベランダで「キエーロ」使ってみようと関連動画をたくさん観ていたところなので、初めて使用されている実物を見ることができてとても参考になった。ちなみにここにあるキエーロは、併設されたゼロ・ウェイストアクションホテル『HOTEL WHY』に宿泊されたお客さんが、チェックアウトの前に自身で生ゴミを処理してもらうために用意されているものだそう。仕事柄、ホテル泊まりが多い僕は、たしかにいつも罪悪感を抱えてゴミを部屋に捨てて帰っているから、全てのホテルがこんな風になっていたらなんと嬉しいことか。もちろん、忙しいときや忙しい人は、ホテルの方にやってもらえるとありがたいけれど、ホテルのゴミ箱はどうしてあんなにも分別ができないのか。ペットボトルと食べ残しのパンと空になったヨーグルトの容器を一つのゴミ箱に入れて帰っていいという文化は、即刻無くなればいいと思う。それをサービスだとするホテル業界を、僕は時代遅れだと思う。

ホテル宿泊者のためのキエーロ
土の中に自然と存在しいてる微生物の力で生ゴミを分解してくれる。温度が大事なキエーロの冬場対策などいろんなお話を聞けてとても参考になった。

 キエーロについてはぜひ検索してみてほしい。さまざまな自治体がキエーロの推進に力を入れているのがわかるはず。

3つのポイント

 さらに上勝町の分別方法について詳しくレクチャーしてもらえるツアーにみんなで参加。たくさんの学びがあったのだけれど、ここでは幾つかの重要なポイントをまとめてみようと思う。

①どの町でリサイクルされるか、どんなものに再生されるかに併せて、「入・出」表記のもと、分別回収によって幾らお金が入るのかor出るのかが示されている。

 しかも、これらの価格表記は分別ゴミの単純な買取価格だけでなく、それがどこに運ばれるかによって変化する輸送コストまで含めて計算されていることに驚いた。例えば、瓶は瓶でも、透明びん→茶色びん→その他の色びんと、コストが上がってくるのは、買取価格が輸送コストに負けてしまうからだろう。確かに、色のついた瓶を透明な瓶にリサイクルすることは出来ないよなあ、などと色々と想像を巡らせることができる。

②「ちりつもポイント」というゴミの持込みに対するポイントサービスがあり、貯まったポイントは、子供の体操着や日用品などと交換できる。

 このポイントはエコバッグの使用や、加盟店でのマイボトル&マイコンテナの使用などでも溜まっていくそうで、溜まったポイントは環境負荷に考慮した商品と交換ができる。こうすることで、町のためや未来のためといった利他的な気持ちだけでなく、個人のモチベーションをも上げる工夫があるのは、いろんな考えの人たちがそれぞれの参加意義を持てるからとても良いなと思った。

③最後の最後は「どうしても燃やさなければならないもの」コーナーへ。

 地味にとても素晴らしいと感じたのがこのコーナーのネーミング。「どうしても燃やさなければならないもの」そう表記されたら、僕なら何かすごく問われるような気持ちになって、本当にこれは燃やさなければいけないものなんだろうか?と、立ち止まって再度考えてしまう気がする。現状の世の中においては、物を生み出すということが、ゴミを生み出すこととほぼ同義だ。しかしそれを感じずにここまできたのは、ゴミの処理を自分の外側の誰かさんに託して外部化していたからにすぎない。ゴミについて自分の頭で考え、手を動かすことの価値は計り知れない。僕はこのコーナーを前にして、自分が活動する秋田県などにおいても、このことをしっかり訴えていかないといけないと強く思った。

上勝町でこれが実現できた理由

 今回、僕はどうして上勝町だけがこれほどの取り組みを実践できたのか、その謎について知りたいとそう思って上勝にやってきた。例えば前述の新潟県長岡市のバイオガス発電施設の素晴らしさは、生ゴミの日という生ゴミだけを回収する日が週に2回あることにある。その面倒さを住民が受け入れたことによって、自治体にとっては本来出費していくだけのゴミ処理場が売電事業でとても大きな利益を生む優秀な施設となった。しかしそのために、行政の方がどれほど懸命に住民説明会を開いたか、その努力と決断は想像を絶する。では約1500人の上勝町民は45種類もある面倒な分別作業を何故受け入れているのか? その答えはとても簡単なことだった。

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