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03.pomera(ポメラ)

46歳にもなると、気づかないうちに10年近く使い続けているものが身の回りに増えてくる。そんななかでも、フォーマットそのものの変化や進化のスピードが速いデジタル製品はなかなかそうはいかない。壊れたら直せないし。

だけど、初代機の登場以来、何度か新機種に買い換えながらも息長く使い続けている僕の大事なツールが、今回紹介する『pomera』だ。

そうそう、そういうの欲しかったんだよー! というデジタル文具を出してくれるキングジムの製品。

とてもニッチな商品だと思うので、聞いたこともない人が多いと思うけれど、僕たちのような物書きにとっては最高のテキスト入力機。

という、この文章もpomeraで書いている。

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そんなのMacあればいいじゃん。とか、iPadとキーボードでいいんじゃない? とか、いろいろご意見あると思うけれど、それはほんとその通りなので否定しない。実際、僕もMacBook AirとiPad miniを併用しているから、それはとてもよくわかるんだけど、どうしても一点、pomeraにしかない機能がある。

いや、違う。

pomeraにだけ付いてない機能がある。

つまり、僕にとってはその機能がないことが利点なのだ。

それは、インターネット機能

pomera最大の特徴は、そのデザインやコンパクトさではなく、ネットに繋がらないということにある。

文章を書く自分を邪魔するのは、いつだって自分だ。

特に僕は集中力のなさに自信があるタイプ。ゆえに何か調べ物をしようと一つ何かを検索しはじめたら、知らず30分以上も飛び石を渡り歩き、最終的には思いも寄らない彼岸で呑気に一息ついたりすることもしばしば。

絶望的に心の弱い自分を、無限に楽しいネットサーフィンの誘惑から守るために、インターネットに繋がらないことがいかに大事かと日々痛感している。

もちろんiPhoneくらいは持参するんだけれど、とりあえずiPhoneはカバンに忍ばせて、机の上にはコーヒーとpomeraのみ。みたいな状態で僕はテキストを書き溜めている。

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そもそも僕がpomeraを使い出したのは、僕の原体験にワープロがあるからだ。最早、若い人にとってはワープロ(ワードプロセッサ)という言葉自体、馴染みがないかもしれない。いまみなさんが使っている「word」や「Pages」「SimpleText」は、いわばワープロがソフト化されたものだ。

僕が中学生くらいに使っていたワープロ専用機というものは、プリンターがついていて、打ったテキストが紙に印刷されて出てくるんだけれど、これが僕にとっては最高にテンションが上がった。ミュージシャンが最初にアンプを通してエレキギターをかき鳴らした瞬間を忘れられないように、僕にとっては自分が考えた文章が初めて活字となってプリントされる瞬間の悦びが忘れられない。それが僕の原点。

そんな僕にとって、テキスト入力に特化されたワープロという道具は、パソコンが普及し、インターネットが当たり前になっていく時代でなお、欠かせないものだった。

ちなみに以下は僕が15年くらい前に出した、雑誌『Re:S』創刊号の第二特集「いまだからワープロ」の導入文だ。せっかくだから、ちょっと書き起こしてみた。あくまでも15年前の文章だとわかってもらった上でぜひ読んでみてもらえればと思う。

りすワープロ3

「道具としてのワープロが ほしい。」
〜ワープロについてのあとがきのようなまえがき〜
藤本智士(本誌編集長)

この特集のきっかけとなった小説家の福永信さんとぼくとは、とある文芸新人賞の、大賞受賞者と佳作受賞者の関係で(もちろん大賞は福永さん)つまりぼくもかつて小説家をめざしていました。

その頃ぼくがつかっていたワープロは「富士通OASYS」。自分が創作した物語が、A4サイズの感熱紙に印字されていくあの幸福は、文筆をなりわいにするすべての人が共有できる体験なんじゃないか? ってぼくは思います。

頭の中のイメージをキーボードを介して言葉にかえ、それが紙に印字され形となる。たとえそれが単なるプリントアウトだとしても、そのことが当時のぼくらの背中をどれだけ強くおしてくれたかしれません。ワープロはかつて、確かにぼくらに夢を与えてくれました 。書くことと読むことの両方の幸福を味わわせてくれたワープロ。そんなワープロがぽくは最近ずっと気になっていました。

家や事務所にこもってテキストを書くことが苦手なぼくは、周りのお客さんの会話をBGMのように感じながら、近くのカフェにいりびたって原稿を書いています。そんな際、ただテキストを書くだけなのに、インターネットやメールはもちろんのこと、画像処理までできるような重たいノートパソコンを持ち歩いていることに、ぼくはずっと違和感を感じています。

キーボードが手の一部となっているほくらにとっては「ノートとペン」ただそれにかわるものが必要なだけなんです。あれもこれもできない、ただ文章が書けるだけの、つまりはワープロがいまだからこそ、欲しいなぁと思うのです。

パソコンが普及するにつれ、ワープロというハードはその役割を見失ってしまいました。しかし一方でワープロは 、パソコンというさらにおおきなハードにおけるひとつのソフトとして陰でどんどんと進化を遂げていたわけです。例えるならば、海外で修業をつんだパティシエのごとく、ワープロはそれそのものとしてのボテンシャルを十二分に高めていたのです。

だからぼくとしては、もうそろそろ日本 に帰って、自分のお店を出しましょうよ。って言いたい。パソコンはもちろんのこと、携帯電話やゲームなど、さまざまなところでワープロがつくりだした技術が活かされています。しかしぼくは今一度、そういった機能としてのワープロではなく、道具としてのワープロが必要だと切実に感じています。

以前、古本屋さんでみつけた、とある雑誌に、ワープロが万年筆などと並び、「文房具」のひとつとして紹介されているのをみたことがあります。その記事に驚いたことはもちろん、そこにぼくは、自分自身の衝動のはじまりを見たような気がしました。

と、そんな矢先、福永信さんがいまだ「SHARP書院」を使っておられることを知り、ぼくは思わず勢いづいて、まわりのライターさんにワープロについての思いを語ってまわりました。すると、みんな共感してくれるどころか、ぼく以上にその必要性を熱く語ってくれる人もいて、すでにこれはぼくだけの思いじゃないんだなと感じ、そして特集を組むことを決めました。

正直、当時のワープロが、現在のパソコンなどにおける、機能として進化したワープロと比べて使いやすいかというと、そんなことはありません。しかしそれはすなわち、ワープロが第一線から退きつつも、違うフィールドで切磁琢磨し成長してきたことの証です。だからいまこそ再び、道具としてのワープロを生み出せばよいと思うのです。

日本人が日本人のためにつくりだした最高のプロダクトと言っても過言ではないワープロ。その魅力を改めてさぐりながら、いまだからこそ必要なあたらしいワープロについて、考えてみたいと思います。


 我ながら妙な特集だけれど、それだけ切実な思いだったんだと思う。そしてこの特集のなかで、お友達の小説家の柴崎友香さんと、長嶋有さんの対談をお願いしたんだけど、そこで長嶋さんがおっしゃったのが、「スタンドアローン」という言葉。その時の長嶋さんの言葉を引用してみる。

それで思い出すのが「スタンドアローン」という言葉。90年代にネットが広まったとき、まだネットと繋がっていないパソコンを否定的にいう言葉だったんだけど、今やそれこそがウイルスからデータを守る最善の手になった。ワープロも安全なスタンドアローンとして復権していいと思う。


ウイルスやハッキングなど情報セキュリティに対する脆弱性について語られることの多いインターネットから距離をおいたpomeraは、まさにスタンドアローンゆえの確固たる地位を築いている。しかし、そうは言ってもこのnote記事はパソコンでアップするわけだから、ネットに繋がらないとしたら、pomeraのテキストデータはどうやって移動させてるの? と、疑問に思われる人も多いかもしれない。しかし心配無用。pomeraはテキストをQRコードに変換し、それをiPhoneなどで読み込むことで、ネットを介さずともテキストデータのやりとりができる。最高。

ところでこのpomera。僕はこの雑誌Re:Sの特集に応えてくれた商品なんじゃないか? とずっと思っている。だから勝手に感謝して、勝手に応援し続けている。この記事を何かの縁でキングジムの人が読んでくれることがあれば、ぜひ、当時の開発の方に聞いてみてほしいな。

 pomera ありがとう。  おすすめです。

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そしてここからは定期購読いただいているみなさんに、実際にpomeraを使っているところの動画をお届けしますー。いかにも眠そうな顔ですが、ぜひご覧ください。

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編集者。1974年兵庫県在住。『Re:S』『のんびり』編集長。著書に『風と土の秋田』『ほんとうのニッポンに出会う旅』共にリトルモア、『魔法をかける編集』インプレス。『ニッポンの嵐』『るろうにほん 熊本へ』など手掛けた書籍多数。

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2006年に創刊した雑誌「Re:S(りす)」編集長の藤本智士が、いまあらためてお届けする、あたらしい“ふつう”のnote「Re:S」。 日々のこと。旅のこと。地方のこと。編集のこと。 記事アップは月4回以上かなぁ。

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