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若者よ、薄情になれ。

地域編集に興味を持っているという、ある学生の子が話を聞きたいと神戸までやってきた。

学生さんのインターン問い合わせなど、折々でメールをよく貰うのだけど、そもそもインターンは受け付けていないし、社員の募集もしていないから、期待に添えるかどうかはわからないとした上で、それでも僕が話せることはある気がするし、何より、学生たちがどんなことを考えているのか? どうして「地域のこと」や「編集」に興味を持ったのか? とか、逆にこちらこそ聞きたいことがたくさんなので、スケジュールに無理がなければ大抵会うようにしてる。

今回お会いしたMちゃんも、ずいぶん素敵な子で、関西ではこれ以上ないくらい優秀な某大学で学んでいるゆえ、まわりの友人たちがどんどん一流企業への就職を決めていくなか、彼女は一人、就活そのものに疑問をもって、周りの友達からは完全に「変わった子」というレッテルを貼られている。そんな若干浮いた状態でなお、一人黙々と地域に入って活動をして、気を抜けば襲いかかってくる就活の圧をうまくやり過ごしながら、逞しく生きてる姿に僕はとても感動した。

就職氷河期なんて言われた学生時代、僕自身、就職活動というものに疑問を持っていて、3回生あたりから周りがスーツを着て出掛けていくなか、僕はなに一つ就職活動をしていなかった。それでも四回生の夏頃にいよいよやばいかもと不安に襲われて、初めて企業合同セミナーなるものに参加するのだけど、その際になんとなく話を聞いた会社に「あらためて会社来て」と言われてそのままトントンと就職が決まり、案の定、4月入社の7月退社という、会社にとっては実に不毛な数ヶ月を消化させてしまった経験がある。

だからこそ、多様な生き方がここまで可視化されている現代でなお、お行儀よくリクルートスーツを着て、「御社の活動に感動した」とかなんとか言うあのやりとりを、早く終わらせればいいのになぁと思い続けている。きっと多くの人が疑問をもっているだろうに、それでも一向に終幕の気配がないのはなぜか? Mちゃんと話しながらその答えのようなものが見えた気がした。

彼女自身はリクルートスーツ的な就活をしておらず、僕にとっては真っ当な考え方の子だなあと思うのだけど、現実問題、彼女とまわりの友だちとの差異はあって、その違いについて思ったのは、親に対する態度のこと。

結論から言うと、リクルートスーツを着て一所懸命に就活してる学生の多くは、自分のためというより、親のために就活してないか? という話だ。

人が組織のルールに縛られ、組織の常識に染められていくように、知らず子どもが家族という情の深い組織の空気に飲み込まれていくのは必然だ。さらに、親であろうと誰であろうと、人間は自分の経験からしか実感をもったアドバイスが出来ないから、思いが深いほどアドバイスという名の、自分の考えや経験則の押し付けになってしまう。つまり、いまの学生たちが必死に就活しているのは、親の考え方が変わってないからで、そんな親の望む姿を彼らはある種演じているようにと思った。

一方でMちゃんのような子は、よい意味で自分本位で未来を見ている。誰かに喜ばれたい気持ちというのはとても大きなモチベーションになるし、ましてや大好きな両親が喜ぶ姿を想像するのはとても気持ちがいい。けれど、いずれ真に独り立ちする自分にとって、その優しさの顔をした甘えは、結果的に自分を苦しめることになりはしまいか。

僕はたまに自分のことをとても薄情な人間だなあと思ったりするのだけど、それを感じるのは両親のことを思う時だ。親への感謝はあるけれど、それと自分の人生を生きることに対しては、くっきりと線を引いている。ある種の薄情さがなければ自分の人生を歩いていくことなんてできない。そう思っているのだ。

世の中の学生たちの多くはどこかで、自分で歩くことから距離を置いているように見えるし、その象徴が就活だと僕は思う。いつまでたってもほとんどの学生が、兵隊のように同じ格好をして、自ら、管理する側に都合のよい振りをし続けるのは、早々に終えたほうがいい。時代は確かに変化しつつある。学生たちは、親と距離を取っていいし、もっと薄情になったっていい。

例えば僕がSDGsにおいて最も重要視している貧困に関する問題もその根っこにあるのは同じ問題のように思う。明らかな経済格差のなかで、いまもなおずっと、お金持ちがよりお金持ちになったり、それを維持したりするための法律や規制ばかりが生まれていくのはどう考えても違和感がある。しかし、それもこれも、いつまでもみんながリクルートスーツに身を包み、自ら管理されやすい人間として生きているからだと思う。まずそこから変えていこうぜと思う。いい子ちゃんでいることは、管理者にとって都合のいい人間でいるということ。

みんなもっと薄情になれ。もっと人間でいよう。
そう叫びたくなる。

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