鳥飼玖美子氏、緒方貞子氏から見た日本教育(人材育成)の本質的問題点

日経新聞夕刊6月18日付、「あすへの話題」で
同時通訳者で英語教育の第一人者の
鳥飼玖美子氏(立教大学名誉教授)が
「メイキングオブ日本人」のタイトルで以下のべている。
(大略)
公立小学校の授業見学、学習指導要領に沿い生徒の主体性を重んじた
能動的・対話的な授業ではなく、従来型の教師主導型のクラスが実態であるという印象。
入学間もないまだ2ケ月の1年生ですら全員着席、
前を向き静かに教師の話を聞くに接し驚いたと。
少しでも声を出すと、教師の「シーツ」の注意にあい、
挙手をして指名されるまで黙って待つ。
どの教室も静謐な中で子供たちはおとなしく教師の指示に従う。

海外は違う、教師に対してどんどん意見を言うのが当たり前、
行儀のことをとやかく言わない。
最後に、氏は
だから日本人は海外で思うように自己主張できないことになるのであろうか?グローバル人材教育がかまびすしいが、英語力以前に
学校教育のあり方まで射程に入れる必要があり、
集団の「和」と、一人一人の、「個」の折り合いのつけ方が課題
となる」で締めくくっている。

この記事を読んで、
アポロ月面着陸時の同時通訳者として20代に華々しくデビューされた
鳥飼先生の英語遍歴の勲章の数々を思い起こしながら、
私のジャイカODA事業の師でもある、緒方貞子元JICA 理事長
(国連難民高等弁務官として世界の難民のために活躍され、長靴はいて世界中の紛争の現場を歩かれていた姿が知られる)が
将来の日本の若い世代のために残されたメッセージを思い出した。

(日本からの海外留学生が大幅減少したことを受けて)
日本の社会全体が亀の甲羅に引っ込んでいる、後ろ向きの姿に映る。
何が、日本にとって本当に必要なことなのか(真のAGENDA は何か)
見極めができていない。

(日本の外交については)
日本は戦後の経済成長の成功もあって
世界から見て思考停止状態にあり、
周辺国との相対的な経済関係の変化を正面から受け止めず、逃げている。

日本(国民)は世界が多様な文化と価値観で社会が成立することに
頭でしか理解していない、最も大事な
教育が画一的(同じ教科書で一斉に同じことしか教えていない)
日本教育は大学含め訓練(実践)の場になっていない。
異なる意見をぶつけ合い、自分の意見を鍛え上げる場にない、
真の学びの場になっていない。
と手厳しい。
そして
これからの世代へと4つの力を求めている。
①     より広がりのある視野を求める好奇心
②     異なる存在を受容する寛容力
③     対話を重ね自らを省みる柔軟性
④     情報を取る際の、中身の成否・善悪を見分ける、見極められる判断力
を挙げておられた。

話は変わるが
私自身のこと。コロナ以前の2015-19年の4年間
南アジアの国の自動車産業・部品製造工場のワーカー、中間管理職、経営層の製品・部品に関する「生産技術と品質管理の改善」ODAプログラムに関与した。
その時の結論は、
日本からジャイカチームが現地で人材育成プログラムをかなり厳しく
実践しても、
その時はよく見えても
何年か経つとこの生産システムも品質管理レベルも元に戻ってしまう、
その繰り返しにある。そのため同じようなプログラムがリピートされている。
WHY?
それは人材育成プログラムを受け取る現地側に原因がある。
研修生・スタッフたちのそれまで現地で受けてきた
教育レベル(理解している内容レベル)が、例えば
日本の初等教育レベル(高校の理科内容レベル)での理解が
出来ていないからである。
そのため3-5年かけてODA、日本の改善手法を叩き込んでも、
真の意味で身につかない。表面的には理解したかに見えても時間が
たつと元の木阿弥になる、
受け手側に日本のODA教育を受けても完全には理解できないという溝が
あることが主因だ。(これはこの国の労働大臣が列席された場でも口酸っぱく申し上げているが、如何フォローされたかは?)
そのために、同じ教育、改善プログラムを日本から3-5年に一度の
ペースで繰り返すことになる。
本質的にこれを是正するには
この国の初等教育システムを全面的に変えることだが、果たして外国の教育体系全部を正すことは残念だがJICAチームの任務ではない。
そこが頭痛の種。

本編で言いたいことは、日本にあっても、後進国の(教育)改善テーマ
にあっても
初等教育、初めの鍛え方が肝要であることだ。
それなしに人材育成は難しい。表面的に改善したかに見えても
最終的に理解していなければ無駄になるということだ。

最初の日経新聞記事
鳥飼先生のタイトル、「メイキングオブ日本人」は
「このような日本の初等教育を続けては、世界に出ても
外国人たちと互角にディベートし、対等に国際交渉や外交上での論戦に
勝てない日本人を生み出すだけ
再生産するだけだ」と、言いたかったのでしょう。

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