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06_自分もそうだがほとんどの人が分からない宇宙際タイヒミュラー理論(IUT)を、個人的に推しているということもあり、無理ゲーなのは百も承知で解説してみる

IUTが照らし出す数学の新たな地平


幾何学と数論、一見すると全く異なる2つの世界を繋ぐ橋を架ける。そんな途方もない夢を追い求め、数学者たちは長年、未開の荒野を彷徨い続けてきました。望月さんが提唱した宇宙際タイヒミュラー理論(IUT)は、まさにその夢を実現しうる、革新的な理論体系です。

これまで見てきたように、IUTは、私たちが慣れ親しんだ数学の常識を覆すような、斬新なアイデアと概念に満ち溢れています。遠アーベル幾何学という、抽象的な世界の案内人によって、方程式という森の深淵へと導かれ、従来の数学の地平を歪める「変形」という荒療治を受け入れながら、ホッジ劇場という精巧なレゴブロックを組み立てていく。さらにその舞台は、ダイナミックに変容する多次元空間「log-テータ格子」へと移り変わり、そこで繰り広げられる対数とテータ関数の複雑な共演へ。まるで深遠な宇宙の真理を垣間見るかのような、壮大で難解なドラマに、私たちは否応なく巻き込まれていくのです。

とはいえ、IUTの真価は、単に既存の数学を複雑化しただけのものではありません。その核心に迫ると、私たちを新たな地平へと導く、深淵からの光が見えてきます。

05で「大域的フロベノイド」という宇宙的なコンテナにたどり着きました。これは、数論の広大な風景を、これまで誰も見たことのない視点から見せてくれる、IUT独自の両替システムと言えるでしょう。テータ関数というレンズを通して捉えられた数体の姿、それが、この壮大な旅の終着点で私たちを待っている贈り物です。

今回は「推定と不等式」の世界です。長年、数学者たちを悩ませてきたABC予想という難攻不落の城を陥落させる、IUTの真の力が発揮される舞台です。

ここでは「log-体積」という抽象的な尺度を用いて、Θパイロットオブジェクトとqパイロットオブジェクト、2つの重要な登場人物のサイズを比較するという繊細な作業が行われます。もちろん、そこはIUT。単純な比較で答えが出るわけでは ありません。

驚くべきことに、qパイロットのlog-体積を求めるための方法が、なんと2つ存在するという事実が明らかになるのです!しかも、どちらも「自明に同値」、一体どういうこと!? と頭を抱えたくなるような摩訶不思議な結果… (ちなみに、専門用語で言うと “tautologically equivalent” ってやつですね)。

例えるなら、地図上で同じ目的地へたどり着くための2つのルート(1つは複雑で危険な山道、もう1つはシンプルで安全な高速道路)のようなものです。どちらも目的地へたどり着ける、つまり正しいルートなのですが、片方は実際には計算不可能(使いたいのは山道なのに…)。ところが、望月さんが構築したlog-テータ格子という巧妙な仕掛けにより、もう片方のルートを使うことで、実際に計算ができるようになっているのです(ただし、その過程で、qパイロットとΘパイロットの区別は曖昧になってしまいます)。だから「自明に同値」なのです。

この「簡単な」アプローチを用いてlog-体積を実際に計算できるという事実から、劇的な不等式の証明へとつながるのです! 最終的に示される不等式は、本質的にはΘパイロットオブジェクトのlog-体積の方が、qパイロットオブジェクトよりも常に「大きい」ことを意味します。なんと、このlog-体積の大小関係こそ、ABC予想を証明するための重要な鍵だったのです。


私たちは、 抽象的で難解な世界を旅してきました。フロベニウス的構造やエタール的構造、log-リンク、テータリンク、 そしてクンマー理論。それらが織りなす複雑な世界を、時には混乱しながらも、一歩ずつ理解を深めてきたのです。そしてついに、IUTという深淵から生まれた光が、数論という未開の地を照らし出す、その瞬間に立ち会えたのです! 長年の難問であったABC予想の証明。それは、数学者たちの飽くなき探求心と、望月さんの類まれなる才能がもたらした、まさに人類の叡智の結晶と言えるでしょう。

しかし、これはまだ始まりに過ぎないのかもしれません。IUTは、私たちに新たな数学的視点を提供してくれるだけでなく、その先に広がる未知なる可能性をも示唆しているようにも思えます。広大な宇宙に漕ぎ出すための、新しい羅針盤を手に入れたかのようです。これから始まる、さらに刺激的な数学の冒険に、胸が高鳴るばかりです。

(終わり…かどうかは未定!)

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