大切な人と夏の話

高校生の時、凄く仲のいい先生がいた。
青と夏が似合う人だった。
今考えても、その先生はものすごく私に時間を割いてくださったと思う。
「くださった」なんて敬語を使うのがすごく恥ずかしく感じるくらい、仲が良かった。
何でも話せたし、先生と過ごす空間は生まれて初めて外で素を出せる空間だった。

先生は夏が大好きな人だった。
暑くなってくると、分かりやすくテンションが上がって「夏ですねぇ~」と言い出す。(逆に寒さにはものすごく弱くて寒くなってくるとテンションが下がる。冬生まれのくせに)


私はずっと夏が嫌いだった。

暑いし、汗かくの嫌だし、泳げないし、なんか眩しいし、暑いし。暑いし。暑いし。

何より、私の腕は自分でつけた傷の跡が残っていて、半そでを着れるような腕ではなかったから、なんだか後ろめたさを感じてしまう。
今はサマーニットなんかも売っているし、ネットには結構長袖の服も多いけれど、店頭には圧倒的に半そでが多い。
なんだか仲間外れにされているような不思議な不快感を覚えたりする。


小学生の頃は、夏が好きだった。
夏休みはワクワクしたし、夏休みに学校のプールに行って友達と遊んだのは今でもすごく覚えている。

朝7時にラジオ体操に出かけて、仕事に行く母を見送って、9時にははおばあちゃんの家に行く。
おばあちゃんの家の玄関で育てている朝顔を見るのが好きだった。


しかしいつの間にか、夏が嫌になって、蝉の声もぎらぎらの太陽もいつの間にか鬱陶しく思えてくるようになっていた。
その境目がどこだったのかなんて分からない。
本当に、いつの間にか。


そんな私の横で先生は毎日のように「夏だなぁ」「暑いなぁ」「テンション上がるなぁ!!」と笑う。
ただでさえ暑い空気が先生の周りだけもっと暑く感じた。



毎朝「相談室冷やして待ってるよ」ってメッセージが届く。
私はそれを電車の中で見る。
学校について相談室に直行する。
「あっつ~マジ意味わかんないくらい暑い」と言いながら相談室の扉を開ける。
「暑いね~夏だね~楽しいね~!!!」って言われる。
朝から楽しそうで何よりだと思う。
HRが始まるまでの間相談室で涼みながら先生と話す。
それが私の夏の日常だった。

体育祭も、修学旅行も夏だった。
いつも隣には先生と大好きな友達たちがいた。
キラキラした時間だった。
たくさん写真を撮って、ゲームして、走り回って、作って、食べて、汗をかいて、全部の時間がキラキラしていた。
あれを人は青春っていうのだと思う。


考えられないくらい楽しかった。
どうしようもないくらい楽しかった。
いつも長袖。制服だって中途半端な腕まくり。
それでも楽しかった。
自分が夏をこんなに楽しめるなんて嘘みたいだった。


高校を卒業してから初めての夏。
やっぱり夏は暑い。
大好きな先生とも、友達とも、今は離れてしまった。
こっちの夏は地元より暑い。
でも、晴れマークの並ぶ天気予報を見て少しワクワクする。
匂いで、蒸し暑い空気感で、蝉の声で、花火の音で、夏の思い出が蘇る。

人生で1番キラキラだった時間。
死ぬときはきっと思い出す。
あぁ私なんか少し夏が好きだ。

暑くなってくるとつい「夏ですねぇ」なんて言ってしまう。
完全に先生の影響を受けてる。

半そでが着れなくても、夏って楽しいよ。
ほんとに。楽しいよ。

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